次に来る者
地方長官の使者が任命書を読み上げたのは、城壁を失ったローデン城の一室だった。
卓の向こうには任命書が広げられ、その隣に、銀に封じられた子爵家の鉄印が置かれている。ローデンの役人たちが見守る中、オーレリアンは立ち上がった。
「地方長官閣下のご信任に感謝し、謹んでこの任をお受けする。ローデンの安寧を守り、そのご期待に応えよう」
子爵家の印には触れず、自分の男爵印を書状へ置いた。
「そのお言葉、地方長官閣下へお届けします」
(断れない仕事ほど、恩寵の顔をして届く。帝国らしい)
任命の話は、それで終わった。
地方長官の使者とローデンの役人たちが退くと、控えの間から別の男が入った。任命式を見届けていた、レオポルト大公家の使者だった。
窓辺へ立つと、崩れた石の向こうに城下の通りが遮るものもなく見える。
市場では、閉じていた店が一つずつ戸を開けていた。道に残った石を運ぶのはアッシュマークのオートマタだが、荷を戻しているのはローデンの人々だった。バスティオンは城と大通りの入口に立ち、市場へは入っていない。
「もっと、煙が残っていると思っておりました」
「壁は壊したけど、町まで焼く理由はないよ」
「敗れた側の役人を、そのまま席に戻すとも思っておりませんでした」
「町を知ってる人まで全部替えたら、戦の続きになる。壊すのは、もう十分だよ」
「城を落とせる方なら、ほかにもおります。ですが、勝った後も子爵家の印を使わず、兵を市場へ入れなかった方は多くありません」
「大公殿下は、ローデン子爵を庇うために来たわけではない、と?」
「子爵が大公殿下から受けた命令はありません。自ら始めた戦に敗れた家を救うため、閣下とローデンの道をまとめて敵へ回す理由もない。殿下は、そうお考えです」
使者が外套から取り出した書状には、いくつもの家と都市の印が並んでいた。封に指を置いたまま、まだ差し出そうとはしない。
「会合の席次について、一つ困っております。ヴェイル卿の席を、アッシュマーク男爵として用意すべきか。それとも、ヴェイル家の一員として、ご当主の隣を空けておくべきか」
「席次の相談にしては、旗の色までよく見えるね」
「父も、母方の公爵家も、東部で兵と物資を集める側だ。私がどこへ座るか、先に見ておきたいんでしょう」
「……お察しのとおりです」
「昇位の儀に敗れた日に、私はヴェイル家から切り捨てられた。今の私は、アッシュマークへ追放された名ばかりの男爵だよ。父の隣にも、公爵家の上席にも、私の席はない」
「……承知しました。アッシュマーク男爵として、お迎えいたします」
そこで初めて、書状が差し出された。
オーレリアンは書状を受け取った。
「話は聞く。ただ、大公殿下の側に席を置くことと、軍を預けることは別だよ」
「殿下も、ヴェイル家へお戻しするおつもりなら、私を遣わしてはおりません」
「なら、先に伝えて。必要な時に道を開き、互いの領地へ無断で兵を入れさせない。その約束になら加わる。でも、私の軍を誰かの指揮下へ置くつもりはない」
「そのお返事で、私も招待状を持ち帰らずに済みます」
「もう一つ。大公殿下に連なる諸家から、正式な使節団をアッシュマークへ送らせていただけませんか」
「表立って?」
「いいえ。最初は、ごく少数に絞ります。報告が戻るまで、訪問そのものも公にはしません」
「何を確かめたいの?」
「ローデンを落とした兵は見ました。しかし、その兵を育てた土地について、公の記録は今も空欄のままです。あなたと同じ席に座るなら、その門が誰を守っているのか、知っておきたい」
(軍だけ見せて、町は見せない。それで同じ席に座ろうというのは、さすがに虫がよすぎる)
「構わない。ただ、見物だけの人はいらないよ。自分の家や町が、アッシュマークと何を約束できるか、その場で決められる人を送って」
「それでは、名代ではなく、ご本人に来ていただく家も出ますね」
「それでいい」
「ヴァルテンについて、急ぎご相談したいことがあります。使節団にも、その場でお話しいただきます」
「なら、先にアッシュマークで聞くよ。ヴァルテンへ行くかは、その後で決める」
「……最後に一つ。お話ししている間、ヴェイル卿がまだ十四歳でいらっしゃることを、ほとんど忘れておりました」
言葉が途切れ、崩れた街から石を運ぶ音だけが届いた。
「……失礼しました。今のは、言わずにおくべきでしたね」
「謝らなくていいよ。年齢で話を変えられる方が困るから」
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
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それでは、また次のお話で。




