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歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
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勝った者の名前

 ローデンの城壁が崩れ始めた頃、ルーカスはヴァルテン学院の試験場で、ニコ・ラウが剣を抜くのを見ていた。


 街道でオーレリアンに見せたオルビスは、石を動かす寸前にほどけた。けれど、柄を握る指から刃へ流れた光だけは消えなかった。


 今日の試験でも、ニコが頼れるのは、その剣だけだった。


 剣で試験を受けたいという願いを、指導教員は退けなかった。重ねた推薦の末、試験そのものは認められた。ただ、用意された相手は二つ上の課程だった。


 相手の長杖には、ヴァルテン上段に館を持つ家の紋が刻まれている。ニコの手にあるのは、学院から借りた刃引きの練習剣だった。


「始め」


 上級生の周囲に、白いオルビスが重なった。


 ニコが剣を握り直す。鍔元に開いた小さなオルビスが閉じ、淡い光が鋼の縁に留まったまま、それ以上はどこへも広がらない。


「本当に剣で来たのか」


「そのために、ここへ立っています」


 長杖が石床を打った。


 衝撃が一直線に試験場を裂く。けれど、ニコは光が放たれるより先に、その脇を歩き始めていた。


 速くはない。ただ、一歩も余らない。


 右を塞ぐオルビスが閉じる前に左へ入り、続く衝撃の下へ身を沈める。白い光が髪を揺らし、背後の石床を砕いた。


 観覧席の最前列で、ルーカスはいつの間にか腰を浮かせていた。


 ニコの目は、放たれた光を追わない。まだ閉じていないオルビスの縁を拾い、次の一歩が置ける場所へ移っていく。


 ルーカスは学院で何度もその目を見てきた。それでも、正面から撃たれるフォルマの間を歩く姿は、知っているはずのニコとは違って見えた。


 間合いを詰められた上級生が後ろへ跳び、長杖を薙ぐ。左右に生まれたオルビスが、今度は挟み込むように光を放った。


 ニコは退かなかった。


 白い光が左右から迫り合う寸前、剣を石床へ突き立てる。淡く光る刃を支えに身体を返し、二つの衝撃がぶつかる狭間を抜けた。


 石片が制服を裂いた。頬にも一本、赤い線が走る。


 それでも上級生との間は、もう剣一本ぶんしかない。引き戻された長杖の中ほどへ、ニコの刃が滑り込んだ。


 金具が甲高い音を立てて割れる。


 杖の先端が石床へ落ちるより早く、切っ先は上級生の喉元で止まっていた。


「そこまで!」


 指導教員の声に、観覧席が沸きかけた。


 だが、折れた杖の先で、最後のオルビスはすでに閉じていた。


 ニコを外れた衝撃が試験場の縁を走り、石段へ向きを変える。


 ルーカスは観覧席の前へ飛び降りた。


 障壁が立ち上がり、白い光を受け止める。衝撃に押されて右肩を石縁へ打ちつけても、ルーカスは片膝をついたまま腕を下ろさなかった。


 障壁に走った亀裂は途中で止まり、砕けた光は石段の手前へ散った。


 光が消えたあとも、試験場の中央では、ニコがまだ切っ先を下ろしていなかった。刃に留まっていた淡い光だけが、遅れて消えていく。


「勝者、ニコ・ラウ」


 一拍遅れて、石段のあちこちから同じ名が返った。


 ニコはようやく剣を下ろし、観覧席の下にいるルーカスを見た。頬の傷を忘れたように、大きく笑っていた。


      ◇


 医務室の寝台で右肩を固定されていると、練習剣を抱えたニコが入ってきた。


「勝った」


「見てた。杖まで斬るとは思わなかった」


「僕も」


 ニコは笑い、壁へ背を預けて借り物の剣を胸に抱えた。


 廊下からは、何度も「ニコ」と声が飛んでくる。今まで試験場に上がることさえ難しかった少年の名を、今日は皆が呼んでいた。


 遅れて入ってきた指導教員が、ニコへ治療布を差し出した。


「昇級の判定は、明日に持ち越された」


 ニコは治療布を受け取らなかった。


「勝ったことまで、ですか」


「いや。勝ったのは君だ。判定は、その先の話になる」


 ニコは布を受け取り、頬へ押し当てた。窓の外の声は、まだ途切れない。


「なら、今日は勝った日でいい」


 扉の向こうで、誰かがまたニコの名を呼んだ。


 今度は足を止めず、練習剣を抱えたまま、その声へ出ていった。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。


少しでも続きが気になりましたら、ブックマークして、また読みに来ていただけると嬉しいです。


それでは、また次のお話で。

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