ローデン陥落
戦は、あっという間に終わっていた。
ローデン城は、もう城の形をしていなかった。
最初に浴びせられた火が、まだ斜面の石畳で燃えている。その火が消えないうちに、城門も塔も、館を囲んでいた石壁も地へ落ちた。兵舎は瓦礫に半ば埋まり、土煙の奥には中央の館だけが取り残されている。
壁の跡には、バスティオンたちが立っていた。鎧に残るのは煤と浅い傷だけで、倒れた者は一人もいない。その足元には、子爵家の武器ばかりが積み上がっていた。
オートマタの肩から降り、オーレリアンは倒れた大扉を踏み越えた。
玄関広間には、砕けた槍と剣が散っている。奥へ続く階段でバスティオンの列が左右へ分かれ、その間をオーレリアンの外套が抜けた。武器を捨てた兵たちは、壁際に座り込んだまま顔を上げない。
館の上階から、一人だけ駆け下りてきた。顔を引きつらせ、剣を振り上げる。
横から伸びたテオヴァルドの手が、その手首をつかんだ。
剣が床へ落ちるより先に、兵の身体が階段脇へ転がる。息はある。肘だけが、もう剣を拾えない向きに曲がっていた。
「奥です」
テオヴァルドは、それだけ言って先へ立った。
長卓のある部屋には、ローデン子爵が残っていた。
開け放たれた窓から土煙が入り、床の絨毯を薄く汚している。黒い鉄印は、子爵の右手に握られていた。
「無礼者が」
子爵は立ち上がらなかった。
「母は東部の伯爵家の出だ。今の当主は私の従兄弟、妻の兄は東部軍の将だ。城一つ落としたくらいで、ローデンを踏みにじれると思うな」
「自ら戦を始めておきながら、敗れれば親族の威を借りるのか。恥を知れ」
オーレリアンは歩みを緩めなかった。
「私を辱めれば、伯爵家も東部軍も黙ってはいないぞ」
「黙る必要はない。我が領へ兵を向けるなら、誰の旗であろうと同じように退ける」
黒い鉄印を握る指から、血の気が引いた。
「捨て地の男爵が、私を脅すか」
「脅しではない。貴公はもう敗れている」
銀のオルビスが開いた。
杖先から放たれた衝撃が長卓を中央から割り、その向こうの子爵を椅子ごとさらった。身体が背もたれごと壁へ叩きつけられ、黒い鉄印は割れた卓を転がって床へ落ちる。
オーレリアンは止まらず、床へ落ちた印を踏み越えた。
椅子の残骸とともに絨毯へ崩れた子爵の前で、杖の石突を床へ立て、両手を柄に重ねた。わずかに顎を上げ、紫紺の目だけで床の男を見下ろす。
「兵を私の町へ出した理由を聞く」
身を起こしかけた子爵が咳き込み、片膝さえ立てられずにまた崩れた。
「召喚状に書いた文句ではない。何を見て、勝てると思った」
子爵の目が入口に立つテオヴァルドへ向き、さらにその後ろ、廊下を塞ぐ鎧の影へ移った。
「……そんな兵がいるとは、聞いていなかった」
「兵がいなければ、奪ってよいと?」
「答えると思うか」
「ブレーゲンで、あの白い材料がいくらで売れたか。それは知っていた。だが、アッシュマークはどうだ。町を売った卑劣な男、ギャロン・ホルトが逃げる前に見たままだ」
子爵の頬が、わずかに引きつった。
「値段だけを見て、古い地図のまま戦を始めた――というわけだな。違うか」
返事はなかった。
「それで、次に来る兵はいるのか」
「今はいない。だが、伯爵家がこれを知れば――」
「今はいない。それで十分だ」
窓の外からは、もう兵の声も武器の音も聞こえなかった。
オーレリアンは床の黒い鉄印を拾った。
小さな銀のオルビスが開き、杖先から流れた光が印の表面で固まる。黒い鉄は、継ぎ目のない銀の殻へ閉じ込められた。
「では、これで終わりだ」
子爵は答えなかった。
「貴公はこの館に残れ。あとは上級の裁定に答えよ」
銀の殻を割れ残った卓の端へ置いた時、廊下の向こうで最後の剣が石床へ落ちた。
今度は、あとに続く音がなかった。




