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歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
35/108

ヴァルテンへ続く道

 探していた馬車は、橋から半分だけ落ちていた。


 幌には負傷兵が二人。橋の下では、御者と護衛が一本の縄へつかまっている。


「引くな」


 駆け寄るルーカスをニコが止めた。


「後輪の下に、橋を支えてる石がある。先に下の二人を出して」


 テオヴァルドが流れへ入り、青白い光で車体を支えた。ニコの視線は水面を横切り、その下に沈む石の列で止まる。


「右へ流して。橋の下から、水をどける」


 ルーカスのフォルマが川底を揺らし、沈んでいた石を次々と持ち上げた。オーレリアンの銀光がそこへ流れを押しやる。濁流が橋の下を離れた瞬間、大きな軋みが響き、馬車の傾きが止まった。


 テオヴァルドは御者と護衛を岸へ引き上げ、青白い光を馬車の底へ回した。車輪が街道へ触れた直後、残った橋が濁流の中へ崩れ落ちた。


「ニコが止めなかったら、俺は馬車ごと引いてました」


「僕は場所を示しただけだ」


「またそれか。学院でも、そうやって全部俺がやったことにする」


「フォルマを使ったのは君だ。僕には――」


「二人でやっただろ。お前が先に答えを見つけて、俺がフォルマを使う。毎回それで助かってるのに、お前だけ先へ進めないのがおかしい」


「二人とも、続きはあとで。まず、この馬車を治療所まで帰せるようにしよう」


 割れた車輪を板と縄で固めると、馬車はまた歩き出した。崩れた橋が木立の向こうへ消える頃には、車輪の軋みの合間に、話せるだけの静けさが戻っていた。


「さっきの話、少し気になってる。ニコは、フォルマを使えないのですか?」


「使えません。オルビスは現れるのに、最後には何も起きない。ただ、失敗した方だけは見えます。あのまま馬車を引けば、どの石から落ちるかも」


「フォルマの設計なら、ニコは誰にも負けません。指導教員も何度も推薦してくれています。でも、昇級を決める席では通らない」


「使えないことは変わりません」


「少し、見せてもらっても?」


 ニコは道端の石へ手を向けた。淡いオルビスが開き、石がかすかに震える。


 浮き上がる寸前、光は音もなくほどけた。石は元の場所に残り、土の上へ短い影を落としている。


 オーレリアンは消えていく光の縁を追った。形は崩れていない。石が動く直前まで、どこにも間違いは見えなかった。


「毎回、ここで消えます」


 代わりに腰の剣を抜く。柄を握ると、淡い光が指から刃へ流れ、鋼の縁に留まった。今度は消えない。


「使えるのは、これだけです。握っている剣に力を重ねるフォルマ」


「だから次の昇級試験は、これで受けます。剣まで使えないとは言われていません」


 (おかしい。オルビスも、力の流れも間違っていない。石へ届く、その瞬間だけが――)


 (それなのに、剣なら消えない。何が違う?)


 答えを探しかけた思考は、前方から届いた怒声に断ち切られた。

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