ヴァルテンへ続く道
探していた馬車は、橋から半分だけ落ちていた。
幌には負傷兵が二人。橋の下では、御者と護衛が一本の縄へつかまっている。
「引くな」
駆け寄るルーカスをニコが止めた。
「後輪の下に、橋を支えてる石がある。先に下の二人を出して」
テオヴァルドが流れへ入り、青白い光で車体を支えた。ニコの視線は水面を横切り、その下に沈む石の列で止まる。
「右へ流して。橋の下から、水をどける」
ルーカスのフォルマが川底を揺らし、沈んでいた石を次々と持ち上げた。オーレリアンの銀光がそこへ流れを押しやる。濁流が橋の下を離れた瞬間、大きな軋みが響き、馬車の傾きが止まった。
テオヴァルドは御者と護衛を岸へ引き上げ、青白い光を馬車の底へ回した。車輪が街道へ触れた直後、残った橋が濁流の中へ崩れ落ちた。
「ニコが止めなかったら、俺は馬車ごと引いてました」
「僕は場所を示しただけだ」
「またそれか。学院でも、そうやって全部俺がやったことにする」
「フォルマを使ったのは君だ。僕には――」
「二人でやっただろ。お前が先に答えを見つけて、俺がフォルマを使う。毎回それで助かってるのに、お前だけ先へ進めないのがおかしい」
「二人とも、続きはあとで。まず、この馬車を治療所まで帰せるようにしよう」
割れた車輪を板と縄で固めると、馬車はまた歩き出した。崩れた橋が木立の向こうへ消える頃には、車輪の軋みの合間に、話せるだけの静けさが戻っていた。
「さっきの話、少し気になってる。ニコは、フォルマを使えないのですか?」
「使えません。オルビスは現れるのに、最後には何も起きない。ただ、失敗した方だけは見えます。あのまま馬車を引けば、どの石から落ちるかも」
「フォルマの設計なら、ニコは誰にも負けません。指導教員も何度も推薦してくれています。でも、昇級を決める席では通らない」
「使えないことは変わりません」
「少し、見せてもらっても?」
ニコは道端の石へ手を向けた。淡いオルビスが開き、石がかすかに震える。
浮き上がる寸前、光は音もなくほどけた。石は元の場所に残り、土の上へ短い影を落としている。
オーレリアンは消えていく光の縁を追った。形は崩れていない。石が動く直前まで、どこにも間違いは見えなかった。
「毎回、ここで消えます」
代わりに腰の剣を抜く。柄を握ると、淡い光が指から刃へ流れ、鋼の縁に留まった。今度は消えない。
「使えるのは、これだけです。握っている剣に力を重ねるフォルマ」
「だから次の昇級試験は、これで受けます。剣まで使えないとは言われていません」
(おかしい。オルビスも、力の流れも間違っていない。石へ届く、その瞬間だけが――)
(それなのに、剣なら消えない。何が違う?)
答えを探しかけた思考は、前方から届いた怒声に断ち切られた。




