↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
28/108

道の先まで守るために

 東門をくぐるなり、ハンナは受領書を求めた。


「ブレーゲンまで戻れば、往復で半年になる。危険は承知の上で来てる。私はあんたに賭けたんだ、オーレリアン。勝たせてもらうよ」


「勝つためにも、その額を先に診せてください」


 腕を取られ、ハンナがミラを振り返る。


 御者たちはもう町の者と一緒に、濡れた荷へ雨除けを掛けていた。担架も病室へ運ばれ、馬の傷には水がかけられている。


 彼女は開きかけた口を閉じた。


「荷も車輪も逃げないよ。三日はいてもらう。その間に帰りの荷も用意する」


「……分かった。先に縫ってもらう」


 最後の担架を運んだオートマタが、遅れて門をくぐった。胸の光は、人の集まる通りへ入るにつれて少しずつ戻っていく。


      ◇


 治療を終えて戻ったハンナの額には、新しい布が巻かれていた。


「買い手は決まりました。ブレーゲン近郊の軍需工房です。地方長官が兵器庫と兵舎を広げ、守備兵まで集めている。白い品は、そのまま引き取らせます」


 折り畳んだ注文書を卓へ置く。


「帝都と東部で命令が食い違っているという噂も、少しは信じた方がよさそうです」


「争いが、ここまで来ると思う?」


「今すぐではありません。歴代領主が三年も生きない、ただの追放先ですから」


 ハンナは窓の外の白い壁を見た。


「でも、それは誰にも中を見せない間だけです。物が通れば、道は知られる。売れる物が増えれば、捨てた土地の値打ちを思い出す者も出ます」


「覚えておくよ」


「半年を賭けた側からの忠告です」


 そこで話を切ると、ハンナは今度こそ温かい食事を求めた。


      ◇


 客が休んだ食堂に残ったのは、オーレリアンとミラ、テオヴァルドだけだった。


「三日後の帰りは、危険な区間だけテオに頼みたい」


「はい」


「私の大事な騎士を、荷車が来るたびにお使いへ出すわけにもいかないから、その間に次を考える」


「僕は、お使いでも構いません」


「私が構うよ」


 ミラが小さく笑った。


「オートマタを、兵の代わりにはできないのですか」


「力を貸させることはできる。でも、代わりにはならない」


 オーレリアンは、窓の外で光を取り戻している機体を見た。


「重いものを運ばせる。決めた場所を守らせる。人が狙いを定めれば、遠くへ力を投げることもできる。でも、誰を助けるか、どこまで追うかは選べない。それに、町から離れるほど鈍くなる」


「街道では、戦いが終わってから着きました」とテオヴァルドが言った。


「うん。アニマイトは、永遠に動く石じゃない。人が生きて、見て、同じものを同じ名前で呼ぶ場所では、周りの流れとつながっていられる。離れれば、蓄えた分から先に失う」


 町へ戻って光を取り戻した胸へ、ミラの視線が向いた。


「人の命を削っているのですか」


「違う。誰か一人から取るものでも、魂の値打ちを測るものでもない。身体と魂がこの世界に留まろうとする働きが、周りへ残した揺れを借りてるだけだよ」


 椅子へ背を預け、オーレリアンは続けた。


「だから、人が増えれば機械も増やせる。でも、本当に増やしたいのは数だけじゃない。読める人、考えられる人、自分で止められる人だ」


「町の仕事を、機械へ渡していくのですね」


「単純な仕事はね。その分、人は学べる。教えられる。次の仕組みを作れる」


 そこで言葉を切った。


 (この先まで話すと、また長い)


「でも、その話は町を守ってからにしよう。明日ここがなくなれば、学校も工房も何も始まらない」


 テオヴァルドが東門の方を見た。


「門の外へ出られる兵が必要なのですね」


「うん。町から離れても動けて、誰を連れて帰るか自分で決められる人が要る」


 しばらく考えた末、ミラの目が隣の少年へ向いた。


「では、テオヴァルド様と同じ兵を増やすことは、できないのですか」


 すぐには答えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。