門の外へ迎えに行く
旧街道の石小屋を囲む草が、煤色に波打っていた。
横倒しの荷車を盾に、残された人々が割れた板と短弓を外へ向けている。負傷した馬の血を嗅ぎ、アッシュフェンの群れが低い身体を幾重にも滑らせていた。
赤い幌の一台だけが包囲を抜け、アシェンマークまで知らせを運んだ。
丘を越えた二人の前で、一頭が荷車の上へ跳んだ。
青白い光が草を薙ぐ。
魔獣は爪を届かせる前に横から打たれ、仲間を巻き込んで道の外へ転がった。テオヴァルドが腕を返すと、起き上がった影まで地面へ伏せる。
反対側から回った二頭は、オーレリアンへ向きを変えた。
杖先で白いオルビスが閉じる。街道の縁が沈み、崩れた土が二頭の脚をさらった。そこへテオヴァルドの光が落ちる。
最後の一頭は、横倒しの車の下へ潜った。
車体をわずかに浮かせ、その下だけを白い衝撃で抜いた。煤色の身体が反対側の草へ転がり、動かなくなる。
ハンナ・リンデが、額から血を流したまま荷車の陰を出た。
「歩けない人が四人。護衛が二人倒れてる」
「先に運ぶ。ほかに群れは?」
「ここへ集まった分だけだと思う」
テオヴァルドはすでに草地へ出ていた。散った群れが戻らないことを確かめ、光を消す。
戦いが終わってから、白いオートマタが丘の向こうに現れた。
一歩ごとに足場を確かめ、空の街道をゆっくり進んでくる。町を出た時より胸の光は暗く、担架を抱える腕も低く下がっていた。
「ずいぶん、遅いね」
ハンナが息を整えながら言った。
「人のいない場所では、長く動けないんだ」
機体は横倒しの車を持ち上げ、石小屋から負傷者を運び出した。人の声と呼吸が周囲へ集まると、消えかけていた胸の線が揺れながら戻る。
それでも、戦いには間に合わなかった。
◇
負傷者を載せ、残った車を一つの列へつなぎ直した。
オーレリアンはハンナと、荷車の周りに立つ人々へ向き直る。
「この街道で荷を運ぶ契約を結びながら、巡回も迎えも置かなかった。領主である私の落ち度だ。詫びる」
「危険は承知していました。来ると決めたのも私です」
「危険を知って選んだことと、こちらが備えなかったことは別だ」
壊れた車輪へ目をやり、ハンナが短く息を吐いた。
「では、その詫びは帰ってから商売で返してもらいます」
「その方が助かる」
「半年かけて来たんです。安くはしませんよ」
ようやく、いつもの声音が戻っていた。
◇
帰りの列は遅かった。
オーレリアンが先頭を歩き、テオヴァルドが最後尾から草地を見る。中央のオートマタは二人分の担架を抱え、人が周りを歩く間だけ胸の光を保っていた。
低い丘の向こうから、白い壁が現れる。
見張り塔。二重の門。屋根のある荷受け場。その奥には家々の煙が上がり、壁沿いの水路が午後の光を返している。傾いた鐘楼の横では、別のオートマタが新しい梁を持ち上げていた。
荷車のあちこちから、声が漏れた。
「ここが……アシェンマーク?」
手綱の向こうでは、ハンナも壁を見上げている。
「聞いていた話と、ずいぶん違います」
「私も、ブレーゲンから戻った時は驚いたよ」
オーレリアンが笑っているうちに、東門が開いた。
町の者たちが担架へ駆け寄り、オートマタの胸に光が戻っていく。
最後尾から追いついたテオヴァルドが、当然のように言った。
「帰りも、僕が護衛します」
「今回はお願いする。でも、次もその次も、あなた一人へ預けるわけにはいかない」
門の内側で、機体の胸はすっかり明るさを取り戻していた。
その光は、開いた門の先までは届かなかった。




