談話
石段を上るにつれ、焦げた木と濡れた土の匂いが濃くなった。
オルカペルは屋根の半分を失い、割れた床から白い煙を吐いている。その横では、長い腕のオートマタが傾いた鐘楼を支え、子どもが道を渡るたびに足を止めていた。
エレンたちは、誰にも促されず立ち止まった。
「私たちが、これを」
「死者はいない。謝罪は、直してから聞くよ」
「修復に必要な費用と労力は、すべて報告します」
「誰に?」
「アステリア評議会へ。私に命令を出した者たちです」
「費用はいらない。その代わり、この道をどうするか決める前に、私とも話してほしいと伝えて」
「必ず伝えます」
広場の反対側では、浴室から溢れた湯をミラたちが掃き出していた。彼女は三人を見渡し、岩壁へ打ちつけられたエレンの背で視線を止める。
「お話の前に、そちらの方からです」
エレンは何も言わず、ミラについていった。
◇
オーレリアンの家へ着くと、三人は装備を玄関脇へ置いた。
窓の外では、黄色くなった森の下で人々が実を干している。エレンはその景色を見て、眉を寄せた。
「向こうでは、もう葉が落ち始めていました」
「洞の中では時間がずれる。私たちも二日で抜けたつもりが、外では三か月たってた」
窓枠から、エレンの手が離れた。
「食事をいただいたら戻ります。帰りも同じとは限りません」
椀が並ぶと、ミラは同じ三打を以前にも聞いたと伝えた。領主の留守に、正体も分からない相手へ封板は開けられなかった。
「当然です。返事がない理由を、自分たちに都合よく決めました」
止められた後の一矢まで記録へ残すと、エレンが弓兵へ告げた。
俯いた若者が謝ると、テオヴァルドはしばらく彼を見てから、パンの籠を押した。
「僕も、すぐには止まりませんでした」
「テオは止まったよ。私が呼んだ時に」
少年はオーレリアンを見て、それ以上は言わなかった。
◇
「あの機械も、この町で造ったものですか」
「身体はね。何をどう造るかまでは教えられない」
「帝国にも、私たちにも?」
「完成品なら、いつか話せる。作り方は、相手が誰でも同じだよ」
追放先と聞いていた町に、壁と水路があり、壊れた屋根を直す機械がいる。エレンは窓の外を見たまま、しばらく次の言葉を探していた。
「この道を、どうなさいますか」
「封板は直す。でも、穴は埋めない」
次に来る者は入口を三度打ち、返事を待つ。それだけを決めた。
「欲しいのは本と薬と種だ。こちらから出せるものもある。ただ、今ここで決められる話じゃないのは分かってる」
「私に交易を決める権限はありません。道を残すことと、話せる者を送ることは提案できます」
「それで十分だよ」
声を落とし、オーレリアンは報告を読む者を絞ってほしいと頼んだ。帝国へ漏れれば、自分を消す理由にも、停戦を破る理由にも使われる。
「判断に必要な者だけへ届けます」
地図を抱えた男が、テオヴァルドの前の青い本へ目を留めた。
「西にも昔話を集めた本があります。同じ話なのに、町ごとに賢者と愚か者が入れ替わるんです」
「僕は、物語がいいです」
(建材より本へ先に食いつく。そっちの方が、十三歳としてはだいぶ正しい)
「認められれば、私が持ってきます」とエレンが言った。
◇
三人を地下へ送り届けた後、砕けた封板へ掌を当てた。
割れた石が浮き、白い継ぎ目だけを残して閉じる。
「もう、向こうの声は聞こえませんね」
「うん。でも次に三度鳴ったら、今度は返す」
地上へ戻ると、壊れた礼拝堂の横で人々が水を汲んでいた。浴室からは、ミラの声がする。
「温度は上げませんからね」
「まだ言ってないよ」
「お顔に書いてあります」
濡れた石段を上り、オーレリアンはもう一度湯気の方へ向かった。




