↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
26/109

談話

 石段を上るにつれ、焦げた木と濡れた土の匂いが濃くなった。


 オルカペルは屋根の半分を失い、割れた床から白い煙を吐いている。その横では、長い腕のオートマタが傾いた鐘楼を支え、子どもが道を渡るたびに足を止めていた。


 エレンたちは、誰にも促されず立ち止まった。


「私たちが、これを」


「死者はいない。謝罪は、直してから聞くよ」


「修復に必要な費用と労力は、すべて報告します」


「誰に?」


「アステリア評議会へ。私に命令を出した者たちです」


「費用はいらない。その代わり、この道をどうするか決める前に、私とも話してほしいと伝えて」


「必ず伝えます」


 広場の反対側では、浴室から溢れた湯をミラたちが掃き出していた。彼女は三人を見渡し、岩壁へ打ちつけられたエレンの背で視線を止める。


「お話の前に、そちらの方からです」


 エレンは何も言わず、ミラについていった。


      ◇


 オーレリアンの家へ着くと、三人は装備を玄関脇へ置いた。


 窓の外では、黄色くなった森の下で人々が実を干している。エレンはその景色を見て、眉を寄せた。


「向こうでは、もう葉が落ち始めていました」


「洞の中では時間がずれる。私たちも二日で抜けたつもりが、外では三か月たってた」


 窓枠から、エレンの手が離れた。


「食事をいただいたら戻ります。帰りも同じとは限りません」


 椀が並ぶと、ミラは同じ三打を以前にも聞いたと伝えた。領主の留守に、正体も分からない相手へ封板は開けられなかった。


「当然です。返事がない理由を、自分たちに都合よく決めました」


 止められた後の一矢まで記録へ残すと、エレンが弓兵へ告げた。


 俯いた若者が謝ると、テオヴァルドはしばらく彼を見てから、パンの籠を押した。


「僕も、すぐには止まりませんでした」


「テオは止まったよ。私が呼んだ時に」


 少年はオーレリアンを見て、それ以上は言わなかった。


      ◇


「あの機械も、この町で造ったものですか」


「身体はね。何をどう造るかまでは教えられない」


「帝国にも、私たちにも?」


「完成品なら、いつか話せる。作り方は、相手が誰でも同じだよ」


 追放先と聞いていた町に、壁と水路があり、壊れた屋根を直す機械がいる。エレンは窓の外を見たまま、しばらく次の言葉を探していた。


「この道を、どうなさいますか」


「封板は直す。でも、穴は埋めない」


 次に来る者は入口を三度打ち、返事を待つ。それだけを決めた。


「欲しいのは本と薬と種だ。こちらから出せるものもある。ただ、今ここで決められる話じゃないのは分かってる」


「私に交易を決める権限はありません。道を残すことと、話せる者を送ることは提案できます」


「それで十分だよ」


 声を落とし、オーレリアンは報告を読む者を絞ってほしいと頼んだ。帝国へ漏れれば、自分を消す理由にも、停戦を破る理由にも使われる。


「判断に必要な者だけへ届けます」


 地図を抱えた男が、テオヴァルドの前の青い本へ目を留めた。


「西にも昔話を集めた本があります。同じ話なのに、町ごとに賢者と愚か者が入れ替わるんです」


「僕は、物語がいいです」


 (建材より本へ先に食いつく。そっちの方が、十三歳としてはだいぶ正しい)


「認められれば、私が持ってきます」とエレンが言った。


      ◇


 三人を地下へ送り届けた後、砕けた封板へ掌を当てた。


 割れた石が浮き、白い継ぎ目だけを残して閉じる。


「もう、向こうの声は聞こえませんね」


「うん。でも次に三度鳴ったら、今度は返す」


 地上へ戻ると、壊れた礼拝堂の横で人々が水を汲んでいた。浴室からは、ミラの声がする。


「温度は上げませんからね」


「まだ言ってないよ」


「お顔に書いてあります」


 濡れた石段を上り、オーレリアンはもう一度湯気の方へ向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。