閑話 明日着る服
「町も少し落ち着いたし、そろそろ新しい服を作ろうか」
朝食のあと、オーレリアンがそう言うと、ミラの顔が明るくなった。
「三人分ですか」
「うん。まずはミラの服から」
「私からでよろしいのですか」
「いつも自分のものを後にするからね。今日は先に選んで」
ミラは少しだけ迷ってから、素直にうなずいた。
「では、遠慮なく」
昼には、食堂の長机へ色見本が並んだ。生成り、濃い灰色、赤茶、深い青。それから、若葉よりも落ち着いた緑。
ミラは一枚ずつ手に取り、光へ透かした。赤茶にも心を引かれたようだったが、最後には緑を膝の上へ置いた。
「これにします。昔から好きな色でした」
「似合うと思います」と、テオヴァルドがすぐに言った。
「私もそう思う」
二人から同時に言われ、ミラは布へ目を落としたまま笑った。
「では、この色でお願いします」
仕立ては町の職人に頼むことになった。水仕事の邪魔にならない袖と裾。それでも、仕事着より少しだけ華やかに見える形。ミラは寸法を取ってもらいながら、ポケットを四つ欲しいと頼んだ。
「鍵と木札と、乾いた布を入れます」
「もう一つは?」
「空けておきます。明日になれば、何か入れたいものが増えるかもしれません」
「ミラらしいね」
「そうでしょうか」
言いながらも、ミラは嬉しそうだった。
テオヴァルドは深い青を選んだ。白い布を勧められると、ほんの少し考えてから首を横に振った。
「白は、しばらく見なくてもいいです」
「うん。青にしよう」
オーレリアンが答えると、ミラも何も尋ねず、青い布を少年の肩へ当てた。
「こちらのほうが、よくお似合いです」
「ありがとうございます」
残った赤茶は、いつの間にかオーレリアンの前へ置かれていた。
「私の色は、もう決まったの?」
「緑と青の隣に並んでも、きれいですから」
テオヴァルドも真剣な顔でうなずいたので、異議を唱える者はいなかった。
◇
三人は、そのまま窓辺で昼食を取った。
外には新しい壁の影が落ち、その向こうには、まだ何も植えられていない土が残っている。
「あそこへ、庭を作りませんか」
ミラがパンをちぎりながら言った。
「薬草だけではなく、花も植えたいです。青と白で、季節が変わっても何か一つは咲いているように」
「いいね」
「庭の端に、木も欲しいです」とテオヴァルドが続けた。「大きくなったら、その下で本を読めます」
「それなら、長椅子も置こう」
「皆で読める本棚も欲しいです。僕の部屋だけではなくて」
「ブレーゲンから本を運ぼう。物語も料理の本も、ここにあっていい」
ミラはしばらく窓の外を眺めていた。
「また、旅へ出られるのですね」
「うん。必要になればね」
オーレリアンは少し考え、言葉を足した。
「でも、今度はきちんと話してから行くよ。帰るつもりで出るし、帰る日も、分かるかぎり伝える」
「その間に、木が少し大きくなるかもしれません」
「帰った時に驚けるくらい?」
「そこまでは難しいと思います」
「じゃあ、長く留守にしないようにする」
ミラの笑みが、少しだけ深くなった。
「帰った時に何があってほしいか、今から三人で考えておこう」
ミラは花。テオヴァルドは木と本棚。オーレリアンは、湯をたっぷり使える風呂を選んだ。
「お風呂の話は、昨日も伺いました」
「大事なことだから何度でも言う」
◇
仕上がった深い緑の上着に、生成りのシャツと濃灰のスカートを合わせると、ミラはいつもより少しだけ大人びて見えた。余った布で結んだ髪も、同じ緑に揺れている。
「とても似合います」
「うん。ミラが選んだ色だ」
「ありがとうございます」
ミラは新しい袖をそっと撫で、それから四つ目のポケットへ手を入れた。
出てきたのは、小さな種の包みだった。
「もう見つけたの?」
「染め手の方が分けてくださいました。青い花が咲くそうです」
三人は包みを持って外へ出た。夕方の土はまだ温かく、指で浅くなぞるだけで柔らかな線ができた。
テオヴァルドが種を置くと、きれいな一列になった。ミラは端の一粒をほんの少しずらし、テオヴァルドも迷った末に、その隣を少しだけ動かした。
土をかぶせ終えた頃には、新しい緑の膝にも、三人の指先にも、同じ色の土がついていた。
「お二人とも、食事の前に手を洗ってくださいね」
テオヴァルドは自分の手を見てから、ミラの指先を見た。
「ミラもです」
「ええ。三人ともですね」




