↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
23/109

朝にはなかった窓

「まず、町を歩こう」


 朝食が終わると、オーレリアンはマルタとヨナスを外へ誘った。


「お話を聞かれるものと思っていました」


「歩きながら聞くよ。ここで暮らすなら、先に見てほしい」


 ミラとテオヴァルドも加わり、五人でオルカペルを出た。


 正面の階段では、人より頭二つほど高い白い人型が、畳んだ布を両腕に抱えていた。


 三つの青い光が二人へ向くと、マルタの足が止まり、ヨナスは彼女をかばうように半歩前へ出た。


「あ、あれは……」


「オートマタ。建物を造ったり、荷を運んだりする。人を襲うようには作ってないよ」


 白い巨体が一歩進むと、二人は揃って身を引いた。


「中に、誰かいるのですか」


「入ってない。今も、誰も操ってない」


「では、魂を?」


「入れてないよ」


 石段に引かれた黒い線を、オーレリアンが指した。


 オートマタはその手前で止まり、ミラへ布を差し出す。


「任せた仕事の中で、覚えた結果を選ぶだけだ。分からなければ止まる。何のために働くかを、自分で決めることはできない」


「礼拝堂へ入れてほしくない方もいますから、ここから先へは進ませません」とミラが言った。


 線のそばでは、ハルドが三枚の札を並べていた。


「止まる、戻る、開く。文字が読めなくても、同じ札で動かせるようにします」


 布を抱えたまま待つ巨体を、マルタは見上げた。


「怖いと言っても、よいのでしょうか」


「もちろん。そのために、誰でも止められるようにする」


 ようやく彼女が道を譲ると、オートマタはゆっくり石段を下りていった。


      ◇


 礼拝堂の裏には、古い壁に沿って細長い空地が残っていた。


「病人を寝かせる部屋が足りません。子どもに読み書きを教える場所も、食堂の隅を借りています」


 ミラの言葉に、オーレリアンは空地を見渡した。


「ここへ病室と教室を造ろう。間に小さな食堂を置いて、礼拝堂とは屋根のある通路だけつなぐ」


 マルタが一歩、草の中へ入った。


「祭壇に立つつもりはありません。病人の世話と、家族を亡くした方のお話なら、私にもできます」


「私は読み書きと記録を」とヨナスが続ける。


「オルカペルは、これまでどおり私が預かります」


 ミラは二人を見た。


「そのうえで、お力を貸してください」


 空地を出ると、白い覆いの下を澄んだ水が家々へ流れていた。マルタは流れへ顔を近づける。


「これなら、病室まで水を運ぶ人が要りませんね」


「この水で、湯を使える部屋も造るよ」


「お風呂ですか」


 テオヴァルドの声が明るくなった。


「毎日入りたい?」


 少年は耳を赤くしながらも、素直にうなずいた。


 家並みの外では、畑が壁際まで広がっていた。低いオートマタが畝をまたぎ、作物を避けながら水門を開いている。


 根元には、同じ形の黒灰色の石が並べられていた。どれにも、まだ光はない。


「これは?」とヨナスが尋ねた。


「アニマイトになる前の石。人が働く場所から散る魔力へ、少しずつ触れさせてる」


「育てるのですか」


「時間はかかるけどね。誰かから奪うんじゃない。放っておけば消える分を集める」


 石へ伸びかけたマルタの手が止まった。


「聖堂の地下で見つかるものと、同じ石に?」


「育てばね。でも、墓や病室の下には置かない」


 今はまだ、朝日に温められた普通の石にしか見えなかった。


 畑の先の工房から、長い腕の機体が白い部材を運び出している。


「町にいるものは、すべてここで作ったのですか」


「身体はね。胸の仕組みは私が管理してる。暮らすための決まりは隠さないけど、作り方まで開くつもりはない」


 病室で使う機体の止まる条件は、マルタとミラに決めてほしいと伝えると、マルタは困った顔をした。


「私が、機械のことを決めるのですか」


「病人のことを決めるんだ。機械には、その境を守らせる」


      ◇


 東門へ上がると、昨日の車輪跡が街道の先へ延びていた。


「次の荷車が来る前に、門の内側へ屋根のある荷受け場を造る。商人は町へ入れる。でも、工房までは近づけない」


「数日で間に合いますか」とヨナスが尋ねた。


「屋根と床なら、明日には」


 ヨナスは町と街道を見比べ、それなら帳簿の形を今日中に考えると言った。


 眼下の家々を見渡し、マルタが尋ねた。


「城壁の中だけで終わるおつもりはないのですね」


「閉じこもるために道をつないだわけじゃない。まずは門の外まで、町の仕事を安全に届かせる」


 二人へ向き直り、オーレリアンは言った。


「聖務へ戻す話はしない。二人を訴える者が来れば、ここで話を聞く。何も聞かずに渡す気もない。それでよければ、残ってほしい」


「残ります」とマルタが答えた。


 ヨナスも、隣でうなずいた。


      ◇


 昼前、礼拝堂の裏へミラが線を引いた。


 その外側で白い柱が立ち上がり、オートマタの長い腕が黒灰色の継手を閉じていく。古い壁には触れず、明るい窓の輪郭だけが並んだ。


 夕食の頃には、屋根まで閉じていた。


「朝には、草しかなかったのに」


 新しい窓を見上げるマルタのそばを、テオヴァルドが椅子を抱えて食堂へ入っていく。


 新しい窓の下で、五人分の湯気が上がる。


「ここでは、食事の前に何か決まりがありますか」


 マルタに尋ねられ、ミラはパンの籠を彼女の方へ押した。


「冷めないうちに食べることくらいです」


 小さく笑って、マルタはパンを取った。


「では、いただきます」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。