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歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
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ただいま戻りました

本話のシーンとアッシュマークのイラストは

Pixivで公開しています:https://www.pixiv.net/artworks/148013450

 重い門が内側へ開き始めた。


 荷車が通れるほど開くのを待てず、ブラッカは脇の階段を駆け下りてきた。オーレリアンとテオヴァルドを頭から足まで確かめ、深く息を吐く。


「半年も音沙汰がなく、ずいぶん心配しました。お二人とも、ご無事でよかった」


「ごめん。手紙を預けられる相手が、道にいなかったんだ」


 ブラッカが道を空けると、門の向こうから小さな人影が走ってきた。


 ミラは二人の前まで来て、急に歩調を落とした。オーレリアンの顔を見て、次にテオヴァルドの胸元へ目を移し、ようやく息を吐いて頭を下げる。


「お帰りなさいませ、オーレリアン様。テオヴァルド様も」


「ただいま、ミラ」


 もう一度頭を下げたミラが顔を上げるまでには、少し時間がかかった。


 首から下げていた小さな袋を開き、預けられていた印を両手で差し出す。


「外壁ができました。家も、水場も、もう使っています。オルカペルも直りました。畑にまいた種は、芽を出しています」


「受け取った。よく、ここまで作ってくれたね」


 オーレリアンが印を受け取っても、門の内側に集まった人々は黙っていた。笑っている者も、泣いている者もいるのに、誰も最初の声を出せない。


 子どもが二人、テオヴァルドを見つけた。


 名を呼びながら駆け寄り、少年の袖をつかむ。テオヴァルドが驚いた顔をして、それからようやく笑った。


 それを合図に、あちこちから二人の名が上がった。声はすぐに歓声へ変わる。


 その時、荷車の幌が風にめくれた。


 積まれた穀物の袋と、塩の樽がのぞく。


「麦だ!」


 子どもの声に、皆の顔が一斉に荷車へ向いた。ミラも目を見開いている。


「本当に、買えたのですね」


「買えた。まずは一便だ。次の荷も、もうこちらへ向かってる」


 今度の歓声には、安堵の泣き声が混じった。


「間に合ってよかった。私からも礼を言う。よく、ここまで持ちこたえてくれた」


 頭を下げたオーレリアンを前に、歓声はしばらく収まらなかった。


 マルタとヨナスは、荷車のそばで立ち尽くしていた。


「こちらの二人は、ブレーゲンから来た。しばらく領内で保護する」


 ミラは二人の灰衣と、聖職印を失った跡を見た。


「今夜のお部屋は用意します。詳しいお話は、明日でもよろしいですか」


「助かるよ」


 荷車が共同倉へ回され、人々が穀物と塩を運び始める。ミラはそれを見届けてから、四人を町の中央へ案内した。


 出発した時にはなかった道が、白い壁の間をまっすぐ延びていた。低い家々の戸口には薪と濡れた靴が並び、共同の竈から肉を燻す煙が上がっている。広場では子どもたちが木の輪を追いかけていた。


「本当に、町になったんですね」と、テオヴァルドが呟いた。


「皆で相談して、最初の計画から少し変えました」


 そう言って、ミラは少しだけ胸を張った。


 飲み水を汲む場所と洗い場は離され、汚れた水は別の溝へ流れている。壁際には冬越しの薪が積まれ、風の通る場所には洗った布が揺れていた。


 通りの角で、ミラが白い石の小屋の戸を開ける。


「それから、どうしても欲しいとおっしゃっていたものも」


 中は乾き、嫌な匂いもしない。使い終えれば水が流れ、汚れは床下から外壁の先へ運ばれる。


「おおおお……これがずっと欲しかった」


 身を乗り出したオーレリアンを、全員が黙って見た。


「大事なんだよ。とても」


 そこで、最後に便所へ入った日を思い出そうとして、止まる。


 (黒碑に触れてから、俺は一度も便所へ行ってない。身体が止まったままなら当然か。……待て。これ、俺だけ使えないのか?)


 ミラは首をかしげたが、何も聞かなかった。


 北側へ回ると、新しい外壁が大きく弧を描いていた。その内側に、古い墓標が並んでいる。


「真っすぐ通せば、墓の半分が外へ出ました」


 ミラが言った。


「イルマさんに、死んだ人まで追い出すのかと言われて。それで、ここだけ曲げたんです」


「うん。曲げてよかった」


 新しい石に囲まれても、墓標の間だけは以前と同じ草が残されていた。


 マルタが胸元で手を組む。ヨナスは墓の数を静かに数え終えると、墓を抱いて曲がる白い壁を、長いあいだ見上げていた。


 坂の上には修復されたオルカペルの尖塔と、飾りのない二階建ての家があった。


「あれが、領主館です」


「館というほど大きくないね」


「オーレリアン様のお部屋より、会議に使う部屋を広くしました」


「正しい判断だと思う」


 その日初めて、ミラが笑った。


 新しい木の匂いがする家へ入り、ミラは一階の奥の扉を開けた。


「テオヴァルド様のお部屋です」


 小さな寝台と机。壁には一段だけの棚がある。


 敷居へ手をかけたまま、テオヴァルドはしばらく入ろうとしなかった。


 やがて一歩を踏み入れ、青い本を棚の真ん中へ置く。


「神父様に、家まで持って帰れと言われました」


 オーレリアンは扉の外でうなずいた。


 テオヴァルドは本の背を指で整えた。離れかけた手を戻し、確かめるようにもう一度触れる。


 窓の外では、夕食を知らせる鐘が鳴り始めていた。


「ただいま戻りました」


 誰に向けた言葉かは尋ねなかった。


 オーレリアンは先に行かず、テオヴァルドが部屋を出るまで、扉のそばで待っていた。

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