帰る者は、四人になった
ブレーゲンの北門を出て半日、町の家並みが見えなくなった頃、灰衣の女がようやく口を開いた。
「まだ名乗っていませんでした。マルタ・ヘスです」
隣に座る若い男も背を起こした。
「ヨナス・フェルです」
「こちらはテオヴァルデリオン・ヴェイル」
フードの奥で一度頭を下げたきり、テオヴァルドは黙っていた。
二人は、初めからセヴェリンを頼ってブレーゲンへ来たわけではない。追い返さなかった修道院で、次に門を開けてくれそうな施療所を教わり、それを繰り返した末に北慈善院へ着いた。誰も道の全体を知らず、ただ次の一軒だけを知っていた。
その日の夕方、小さな村の礼拝堂から、祈りの声が街道まで流れてきた。マルタが顔を上げ、四人は開いた扉の外で荷車を止めた。
祭壇の司祭が祈りの名簿を読み終え、閉じかけた。その時、後ろの席の老女が、その村を追われた前任司祭の名を唱えた。
司祭の手が止まった。すぐに別の声が同じ名を繰り返し、また一人、また一人と続いた。最後には、礼拝堂のほぼ全員がその名を唱えていた。司祭は誰も止めず、閉じかけた名簿をもう一度開いた。
村を出てから、テオヴァルドが尋ねた。
「あの方は、まだこの村の司祭なのですか」
「聖務官房は違うと言っています。けれど、上級の教会法廷は処分を取り消しました。あの方は、ブレーゲンで異議書に名を連ねた十人の一人です」
礼拝堂が木立の向こうへ消えてから、オーレリアンが尋ねた。
「最初から聞かせてくれる?」
「去年、聖務官房から教令が届きました。官房が誤りと決めた教えを、各地の司教が調べ直してはならない。すべての司祭は、その文面を礼拝で読むように、と。私たち十人も読みました。ただ、読み上げたことは、正しいと認めたことではない。そう書き添えて、教会会議へ判断を求めました」
ヨナスが、マルタのあとを継いだ。
「私は学院で書記をしていたので、その文書を清書して、証人の前で封をし、大聖堂の法廷へ届けました」
マルタは膝の上で指を組み直した。
「司教は、私と先ほどの司祭が皆を煽ったとして、聖務を止めました。上の法廷は処分を取り消した。でも、その翌朝には、聖務官房から私とヨナスを引き渡せと召喚状が届いたんです」
「二人とも、裁かれることを拒んだわけではないんだね」
「はい。聖務官房も教会の一部です。でも、官房への異議を官房だけで裁くことは、受け入れられませんでした。上の法廷へもう一度訴える前に審問官が来て、私たちは町を出ました」
同じ教会の二つの裁きが、一人を司祭へ戻し、同時に追っていた。
マルタは、遠ざかる礼拝堂を振り返った。
「私たちは教会を出たつもりはありません。向こうも、まだ私たちを異端とは呼ばない。それでも、祈りへ誰の名を残すかで、同じ礼拝堂に立てなくなり始めています」
◇
その後の街道でも、二人の灰衣を見て門を閉ざす礼拝堂があり、日が落ちてから裏門を開ける礼拝堂があった。神像も祈りも同じだった。扉に聖務官房の教令だけを貼る村もあれば、その隣に異議書の写しを並べる村もあった。
ある夜、皆が眠ったあとも、テオヴァルドだけが焚き火のそばに残っていた。
「市警でも、教会でも、あの夜のことを問われたら答えます」
「うん。その時は、私も隣にいる」
その夜は、それ以上話さなかった。
三か月目の夕方、見慣れた灰色の山並みが北に現れた。
けれど、その手前にある景色は、二人の記憶とは違っていた。
低い丘を抱くように白い壁が伸び、その内側から幾筋もの煙が上がっている。夕日に照らされた畑には人影が動き、遠くで子どもの声まで聞こえた。
「あれが、アシェンマークですか」
「一応、たぶん、そうです」
マルタは荷台から身を乗り出し、白い壁の内側に続く屋根を目で追った。
「もっと小さな村だと思っていました。崩れかけた家が、いくつか残っているくらいの」
「私もそう思います」
二人の声が重なった。
「え!?」
白い壁の上から、よく通る声が飛んできた。
「オーレリアン様、おかえりなさい!」
こちらに気づいた見張りが、大きく手を振っていた。
荷台から、オーレリアンも片手を上げた。
「ただいま」




