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歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
20/109

待つ者のいる荒れ地へ

「全員、その場を動くな!」


 慈善院の鐘が鳴り終わる前に、市警が礼拝堂の前へなだれ込んできた。六人の警吏が通りを塞ぎ、隊長だけが石段を上がる。四つの黒い外套とセヴェリンを見渡し、最後に血に濡れたオーレリアンへ向き直った。


「誰だ、お前は」


「アシェンマーク男爵、オーレリアン・ヴェイル。この二人は私の保護下にある」


 一歩前へ出たのは、灰衣の女だった。


「神父様を撃ったのは、そこに倒れている審問官です。この方は、私たちを守って――」


「証言はあとだ。そこの少年を連れていけ」


「砕けた扉と聖務官房の文書を見よ。事情はここで聞け。我が騎士は渡さぬ」


「罪人を捨てる荒れ地の男爵が、ブレーゲンで命令できると思うな」


 隊長の合図で、二人の警吏がテオヴァルドへ向かった。


 テオヴァルドはセヴェリンのそばに座り、青い本を膝へ置いたまま動かなかった。近づく足音に、伏せた目がわずかに揺れる。


 一人がその肩へ手を伸ばした。


 触れるより早く、白いオルビスがオーレリアンの足元から広がった。一息で慈善院の正面を越え、石段から通りまでを呑み込む。


 六人の警吏がまとめて横へ薙ぎ払われ、壁へ叩きつけられる寸前で止まった。そのまま宙に浮き、指一本動かせない。


「くどい」


 隊長を見上げ、オーレリアンが告げた。


「私は逃げぬ。我が騎士も隠さぬ。罪を問うなら、証言を集め、死因を確かめてから来い。死にたくなければ、次は法に従え」


 光が縮むにつれ、全員が石畳へ下ろされた。誰も剣を抜き直さなかった。


 石段へ片手をつき、隊長は青ざめた唇から震える声を無理に押し出す。


「し、市警に術を向けたことは、必ず上へ報告する。夜明けまでに……この町から消えろ!」


「構わぬ。訴えはアシェンマークで受ける」


 六人は通りの端へ退いた。今度は、誰もテオヴァルドへ手を伸ばさなかった。


 慈善院の人々が、ようやく礼拝堂から出てきた。倒れた審問官には近づかず、セヴェリンの身体だけを壊れた扉の内側へ運ぶ。


 青い本を抱えたまま、その後をテオヴァルドが追った。


 身体を覆う白い布が足りず、寝台の端から靴がのぞいた。少年はしばらくそれを見ていたが、やがて自分の外套を脱ぎ、靴の上へ掛けた。


 誰も礼を言わなかった。今は、その方がよかった。


 空が白み始めた頃、ハンナが外套を羽織って現れた。怯えた警吏と壊れた扉を見ても、何があったのかは尋ねなかった。


「荷車は北門へ回しました。お二人も一緒に?」


「うん。四人で乗れる?」


「少し詰めれば。門が開いたら出ましょう」


 ハンナが灰衣の二人を連れて荷を見に行くと、オーレリアンはテオヴァルドを礼拝堂の裏へ呼んだ。


 川から来る風が、二人の間を抜けた。


「怒るなとは言わない。私も、まだ腹が立ってる。でも、神父様の最後の言葉まで、あの四人に奪わせないで」


 オーレリアンは、テオヴァルドが抱える本へ触れた。


「家へ持って帰るのは、本だけじゃない。あなたも帰るんだ。私たちを待つ場所へ」


 テオヴァルドは何も答えず、青い表紙の端を握り直して、セヴェリンの枕元へ戻った。


 本を置きかけたが、胸へ抱き直した。


 北門が開く頃、食料を積んだ荷車と、灰衣の二人が慈善院の前で待っていた。


 テオヴァルドは布に覆われたセヴェリンへ深く頭を下げた。市警は遠巻きに見ているだけで、もう近づかなかった。


 一行は朝の町へ出た。五つの橋を越える間に、慈善院の鐘は家並みの向こうへ隠れた。


 最後の音が聞こえなくなっても、テオヴァルドは本を抱えたまま、振り返らなかった。

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