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歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
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騎士の身体

「テオヴァルド、ブレーゲンへ一緒に来てくれないか」


「僕を、連れていってくださるのですか」


「君が望めば。ただ、あの町へ戻るのが嫌なら――」


「行きたいです」


 声に迷いはなかった。そのあとで、昔住んでいた一角しか知らないのだと、小さく付け足した。


「それなら、一緒に迷おう」


 翌朝、家の裏でテオヴァルドを待っていたのは、三メートル近い全身鎧だった。


「大きすぎませんか」


 少年が両手を広げても肩の幅には足りない。厚い胸甲の奥は空洞だった。


「中へ立つんじゃない。浮いて、鎧の方を動かす」


「その大きさのフォルマを、僕に扱えるでしょうか」


「一度に全部覚えなくていい。私と同じやり方で、試してみよう」


 オーレリアンは脛の横に立った。二人とも、鎧から見れば子どもの大きさだった。


 帝国の騎士が着る鎧を拡大したものではある。だが、重さを肩へ預ける造りにはしていない。身体を守る外側の殻として、関節を別々のフォルマで動かす。


「私の身体を動かしているものを、鎧へ使う。あなた自身の手足で、この重さを支える必要はないよ」


 胸へ触れようとした手を、いったん止めた。


「傷跡に触れてもいい? 言葉で説明するより、感覚を渡した方が早いと思う」


「はい」


 テオヴァルドは自分で襟元を緩めた。


 二本の指を傷跡へ当てると、すぐそばに少年の意識があった。目の前の景色は変わらない。ただ、相手へ伝えたいと思ったことが、声になる前に届く。


 ――これが、オーレリアン様のお身体を動かしているのですか。


 唇は動いていなかった。


 ――そう。今から渡すのは、これ一つだけ。


 手を上げると決め、それを身体へ届かせる。その感覚を少しずつ伝える。テオヴァルドが分かったところまで進み、途中で迷えばそこへ戻った。


 指を離すと、風が耳へ戻ってきた。


 足元に置いた板が浮いた。


 続いて、少年の踵も地面を離れる。驚いて足を戻そうとすると、板まで一緒に下がった。


「別々に動かすのですね」


「うん。考え方が分かっても、慣れるまでは練習が要る」


 もう一度、靴が浮いた。今度は地面へ戻らず、そのまま鎧の胸の高さまで上がっていく。


 身体が空洞へ収まった。兜と胸甲が重なり、細い手足が見えなくなる。


 その中へ入ったのが十三歳の少年だと、誰も思わないだろう。


 (帝国の兵には、ただの従騎士に見えればいい。あとは、これで本人を潰さないことだ)


 鎧が片脚を上げた。


 踏み出した足が地面へ沈む。よろめくより先に反対の脚が動き、巨体が向きを変えた。腕が遅れてついてくる。


 オーレリアンの頭上で、籠手が止まった。


「……申し訳ありません」


「私が近すぎた。続けて」


 少し離れると、鎧はもう一度足を上げた。今度は沈んだ土を踏まず、脇の固い地面を選ぶ。重さに振り回されていた腕も、身体の前で止められるようになった。


 見物に来ていたミラが、戸口で足を止めた。


「それは、オートマタでは……」


「テオヴァルドだよ」


「えっ」


 兜が彼女を向いた。金属越しの声で挨拶され、ミラは返事をするまでに少しかかった。


     ◇


 やがて鎧は、裏手の倒れた柱の前へ進んだ。


 籠手を柱へかけ、持ち上げる。以前なら反動だけで折れていた手首は、胸の空洞の中で何も支えていない。柱が地面を離れ、肩の高さまで上がった。


「痛みは?」


「ありません」


 即答のあと、少し間があった。


「今度は、本当です」


 オーレリアンはうなずいた。鎧が柱を下ろし、その両手を何度も開いている間、急かさずに待った。


 白い胸甲が開くと、テオヴァルドは地面へ降りた。ミラに手を見せ、自分でも指を曲げて確かめる。


 笑った。鎧の手よりずっと小さな掌を、もう隠していなかった。


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