↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
13/108

明日を買う

「それを、お使いになるのですか」


 その夜、ミラが尋ねた時には、卓上のノミスは二枚になっていた。


 片方は彼女が持ってきた硬貨。もう片方は、今、オーレリアンのフォルマから生まれたものだった。帝国の鷲も、縁の擦れた跡も同じである。


「近くの村で食料を買う。収穫までつなぐ分は、これで足りる」


 ミラは硬貨を取らなかった。


「帝国の印を、許しなく写せば」


「罪になる。分かってる」


「なら、どうして」


 窓の向こうでは、オートマタが柱を立てていた。屋根を作る力も、あの子の命を戻した力も、空の穀倉だけは満たせない。


「建材の買い手を探すにも、銀の重さや純度を確かめてもらうにも時間が要る。見慣れたこの印があれば、その手間を飛ばして食料を買える」


「……同じだけ働かずに、お金だけを作るのですね」


 オーレリアンは顔を上げた。


「村の方は、雨の中でも畑へ出たはずです。私たちは、その方たちが育てたものを受け取ります。帝国の印を使っても、奪う相手は帝国ではないと思います」


 黒碑の前で跪いた少女が、今は席を立たずにこちらを見ていた。


 (そこまで見ているか)


 硬貨を指で押すと、二枚が触れ合った。どちらも同じ音を立てる。


「その通りだ。帝国が私たちを捨てたからといって、村の人に払わせていい理由にはならない」


 ミラは待っていた。正しい答えがまだ別にあるのなら、それを聞きたいという顔だった。


 オーレリアンは硬貨から手を離した。


「でも、今回は使う。知らない誰かの働きより、ここにいる人が明日も食べられる方を選ぶ。私が選ぶ以上、命令した者の名は隠さない」


 室内が静かになった。


 やがてミラは、二枚とも手元へ寄せた。


「私も、食べさせたいです」


 テオヴァルドが口を開きかけた。何を言おうとしたかは、傷跡へ向かった手で分かった。


「二人に罪を分けるための話じゃないよ」


 オーレリアンは続けた。


「これを町の商売にはしない。近くで買う食料につないだら、外では、私たちが作れる物を売る。ブレーゲンには、この金を持ち込まない」


「建物の材料を?」


「うん。石より軽くて丈夫なら、使いたい人はいる。向こうにない物を売って、こちらで育つのを待てない物を買う。その取引を続けられる相手を、探してくる」


 ミラは硬貨を包んだ。金を使うと決めても、納得できないところは残っているらしかった。


     ◇


 卓へ広げたのは、洞の中で見ていた領地図だった。あの時は泥に埋もれていた水路も、今は家々の間を流れている。


「家と畑を戻して、その外を壁で囲む。皆が魔獣の音を聞くたびに、食事を捨てて逃げなくて済むようにしたい。留守の間は、あなたに任せたい。図面と暮らしが合わなかったら、図面を直して」


「先ほどのように、反対することもあります」


「言ってくれていい。私が帰るまで何も決められないなら、任せたことにならないよ」


 ミラは、包んだ硬貨を地図の脇へ置いた。


「お作りになれる物は、売ればよいと思います。ただ、あの機械は見せない方が」


 窓の外へ視線が移った。


「家も壁も、この早さで作れると知られたら、買うより取り上げたい人が来るのではありませんか」


 (来るだろうな。人を拾って軍へ入れるより、命令だけ聞く手を欲しがる)


「オートマタは外へ出さない。売るのは工房で作った品だけだと伝える。作り方を尋ねられても、答えなくていい」


「壁があれば、断れるでしょうか」


「断る時間は稼げる。その間に、ここが潰れたら困る相手を増やす。食料を買い続けて、建材を売り続ける。兵を出すより取引した方が得だと、思わせたい」


 小さな町には、大きすぎる話だった。だが、外では今日も、昨日なかった柱が立っている。


「オルカペルは、もう倉へ戻さなくていい。病人と、祈りたい人のために使ってほしい」


 ミラは窓から目を戻した。


「亡くなった司祭様も、そうなさりたかったと思います」


「君は?」


「……子どもたちに、字も教えたいです。物語の続きを、自分で読めるように」


「いいね。本は、私たちが探してくる」


 テオヴァルドが身を乗り出し、ミラもようやく笑った。


「私にも、読んでいないものをお願いします」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。