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歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
110/111

戦わないための軍

「関門の西側にも、帝国の兵を置きたい、と?」


 オーレリアンは、地図から顔を上げた。エレンの指は、山脈の古い関門を越えた所にあった。そこから先は、アステリアの守備隊が守っている。


「カシミール殿下に近い将軍からです。大公方の兵が西へ逃げ込むのを防ぐためだと。駐屯する兵の食料は買う、アステリアへ敵意はない、とも」


 要請を受ければ、敵の侵入を防ぐはずの砦へ、こちらから招き入れることになる。


「評議会は断りました。ただ、向こうは返事を待つ間にも、兵と荷を集めています」


「買うつもりの食料を、誰も売らなかったら?」


「そこまでは、お書きになっていません」


 声は落ち着いていた。手をついた場所から、指が動かなかった。


 大公方が本当に西へ逃げるかどうかは、彼らにも分からないはずだった。一度置かれた軍を帰せと言う方が、入れるより難しい。


「断れば、大公を助けたことにされる。ひどい挨拶だね」


「私たちの議場では、もっとひどい言葉が出ましたよ」


 マティアスは、地図の関門を見ていた。


「守備を増やすことには賛成が集まりました。どの町から、どれだけ出すかで揉めています。海沿いの町は、山で食い止められると思っている。山の町は、そのための兵をよこせと言う。当然ですが」


「君は、ここへ来ていて大丈夫なの?」


「来なければ、約束した研修まで止まります。明日にも戦うつもりなら、今回の人選はしていません。ですが、次に何かを作ろうと言い出せるのが、いつになるか」


 彼にとっても、家を空けてよい時期ではなかったのだ。


      ◇


 翌日の夕方、石切り場にはまた砲声が響いた。


 機体の脇を、クレイドが駆け抜ける。前にいたバスティオンが追おうとするのを見て、途中で向きを変えた。防壁の外へ回り込んだ剣を、もう一人が肩で受ける。


 そこへ、後ろの砲が向いた。撃つ前に彼は足を止め、覆いをつけた刃を下げた。


「今のは、参りました」


 操縦席から笑い声が返る。防壁を保っていた術者は、杖を下ろすとその場へ座り込んだ。次の組が待っている間に、ミラが隣へしゃがんで話しかけていた。


「ああして代われるのが、うらやましいんです」


 見ていたマティアスが言った。


「うちの港にも、あの人が休めば止まる仕事があります。弟子を増やせばよいと言われても、教える間に仕事を代わってくれる人はいない」


「だから、動いている機械を借りに来た?」


「荷運びを任せられれば、古参の術者が弟子を教える時間を取れます。教わった者が仕事を継ぐまで、お借りしたいんです」


 機械を渡せば解決する話だと思っていた。マティアスが欲しいのは、それを返せるようになるまでの時間だった。


「貸すよ。港の仕事を止めずに済むように。教える人が戻るまで、こちらからも付き添いを出す」


 こちらを向いた顔に、ようやく笑みが戻った。


「ありがとうございます。帰ってから、威張れそうです」


「手柄は、連れてきた人たちにあげてね」


「もちろん。私の名前も、隅には残してもらいますが」


      ◇


 夜になっても、家の食卓は賑やかだった。ミラが座り方を直すよう言う相手は、今夜はオーレリアンではなく、床にまで図面を広げようとしたマティアスだった。


 エルネリスが、彼の皿を逃がしてやる。


「食べてからにしたら。今日、何回も呼ばれてたよ」


「覚えているうちに、と思いまして」


「君も、そうなるんだね」


 こちらを見られて、オーレリアンは何も言えなかった。テオヴァルドだけが笑いをこらえ損ねた。


 話が港へ戻ったところで、エレンが口を開いた。


「帰りは、私も一緒に。研修の者は残しますが、隊を空けられるのは、あと数日です」


「分かってる。山へ戻ったら、変わったことを知らせてほしい。こちらでも兵の動きは調べておく」


「お願いします。ただ、お味方の軍についても、分かる範囲で」


 食卓で、初めて声が途切れた。


「……そうだね。そちらから見れば、同じ山の向こうだ」


 彼女は、詫びなかった。オーレリアンも、気を悪くしたふりはしなかった。


「私の領地を、アステリアを攻める道には使わせない。その先まで約束はできないけど、君に隠すために知らないふりはしないよ」


「それで、十分です」


 食事を終える頃、マルタが聖堂から戻ってきた。客へ挨拶はしたものの、勧められた席には座らなかった。


「ミラさん。あなたの叙階を認めた司教様が、聖務官房から召喚を受けています」


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