隣り合う国
砲弾が頭上で砕けても、ミラは伏せなかった。
オートマタの前には、光の防壁が張られている。降りかかる破片をその向こうへ押し流し、隣に乗ったアステリアの術者が杖を傾けた。砲口の前が開く。そこで初めて、ミラが撃った。
石切り場の奥で、的にした岩が崩れた。機体は足を踏み直し、次の射撃位置へ進む。移動する間も、防壁は消えなかった。
見下ろしていたオーレリアンの隣で、マティアスが身を乗り出した。
「今の人は、うちの港で倉庫を守っていたんですよ。軍の砲を受けたことなど、一度もない」
「私たちの砲も、まだ威力を落としてる。いきなり戦場へ出せるわけじゃないよ」
「ええ。でも、下りてくる顔を見てください」
操縦席のミラへ、術者が何かを話しかけていた。聞き返されると、今度は両手まで動かしている。どちらも笑っていた。
エレンが連れてきた研修の一隊は、昨夜着いたばかりだった。砦での話を持ち帰ってから、部下の派遣を認めてもらうまでに、ずいぶん掛かったらしい。湾岸の町々から参加者を集めたマティアスも同行していた。
「間に合ってよかった。私がいるうちに、見てもらいたかったんだ」
反対側から、エルネリスが二人の間を覗いた。
研修が決まったと聞き、彼女と試しておいた仕組みだった。台座に組み込んだ計算器が、動く砲に合わせて防壁の位置を補う。術者は、迫る攻撃を見て受ける場所を選べる。
エルネリスなら、補助などなくてもできる。だからこそ、今日は手を出さずに見ていた。
「向こうへも、持ち帰れますか」
マティアスは、まだ動いている機体から目を離さなかった。
「試作を一台。使ってみて、悪いところを教えてほしい。ただ、町を離れると蓄えは早く減る。今のまま、どこまでも走らせるつもりなら止めるよ」
「港なら、そこは困りません。荷を運ぶ者を、落ちてくる荷から守れます」
砲を見せた相手が、港の話を始めた。オーレリアンは、思わず隣の顔を見た。
「まず、そっちに使うんだ」
「兵を守る許可だけなら、もっと早く取れたんですがね。港でも使いたいと言ったら、倉庫の持ち主まで話に入ってきまして」
その苦労を、彼は楽しそうに話した。
◇
工房では、代表評議員が裾をまくって床に座っていた。ミラたちの囲む図面を、同じ高さから覗き込んでいる。
「修理の仕方まで、教えてくださるとは思いませんでした。故障するたび、閣下をお呼びせずに済みます」
「呼ばれても、毎回は行けないからね。教える人の方を増やそう」
エレンは、戻ってきたミラと図面を挟んで座った。操縦者から見えない所へ防壁を置くには、何を伝えればよいか。先ほどの射撃を思い出しながら、二人で話している。
砲を守れる距離が延びれば、前へ出る兵も帰り道を失わずに済む。砦で岩陰を探したミラが、一番よく知っていた。
クレイドはその話を聞いてから、図面の端へ手を置いた。
「次は、横から回り込ませてください。正面だけなら受けられても、追い越されたら、砲を動かす暇がなくなります」
「私も、そのつもりでした」とエレンが答えた。「こちらの二人を組ませます。どこまで見えるか、遠慮なく確かめてください」
「分かりました。明日は、僕が相手をします」
オーレリアンが頼むより早く、自分の役目を決めていた。
◇
「一つ、お聞きしても?」
皆が工房の奥へ移ってから、マティアスが声を落とした。
「アッシュマークで教わった者は、こちらでも人に教えてよい。そう受け取って、よろしいですか」
「そのために来てもらったんだよ」
「向こうでは、それが一番難しいんです。弟子になるにも、仕事をするにも、町ごとに認め直してもらう。腕があっても、家を移っただけで失うものが多い」
足元の図面を押さえ、彼は笑った。
「今回は、帰ってからも教えられる人たちを連れてきました。学んだことを自分だけの財産にしない。その条件で、町にも金を出してもらっています」
「君の方も、ずいぶん準備してきたね」
「持ち帰ってから、許されませんでしたと申し上げたくなくて。これが役に立てば、次は参加したがる町の方が増えます」
工房の奥で笑い声がした。ミラが再び操縦席へ招かれ、今度は西の術者が下から説明している。
マティアスも、そちらを見たまま続けた。
「次に来る時は、うちの町の方が上手に使っているかもしれませんよ」
その時、エレンが戻ってきた。手には、出発前に預かったという書状がある。
「閣下。軍の話も、今のうちにしておきたいのです。山の関門に集まっている兵は、演習ではなさそうです」




