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歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
111/111

祈る者の責任

 ミラが祭壇へ上がると、通路に立っていた人まで頭を下げた。


 その背中に、オーレリアンは叙階の日を思い出していた。聖典を抱えてこちらを見た少女は、今朝、誰に促されるでもなく祈りを始めている。司教からの便りを読んだあとも、今日の礼拝は休まないと言った。


 オルカペルは、相変わらず狭かった。新しく来た者に席を譲り、入口に立っている顔もある。後ろへ下がったマルタが、外で待つ人にも声が届くよう戸を開けた。


 ミラは、いつもと同じ言葉で人々を迎えた。


 祈りが済んでも、帰る者は少なかった。今朝は司祭が話をする、と聞いてきたらしい。


「私を司祭にしてくださった方が、教会から説明を求められています。この町で行っていることも、問われるそうです」


 前の席で、老人が顔を上げた。


「ご心配をお掛けします。でも、ここで祈ったことや、誰かのお葬式に来たことを、隠すようお願いするつもりはありません。病室も、これまでどおり使ってください」


 終わりかけたところで、座っていた女が尋ねた。


「また、神父様を連れていかれるのですか」


 隣のテオヴァルドが身を起こした。


「そのための兵を、ここへ入れることはない」


 オーレリアンが答えると、幾つもの顔が入口を振り返った。


「教義を争う相手には、教会の席で答えればよい。人を連れ去る者は、領主である私が相手をする」


 ミラは、礼を言う代わりに皆へ向き直った。今週も病室を手伝ってほしいと頼むと、いつも来ている女たちがうなずいた。


      ◇


 司教の手紙には、庇ってくれとは書いていなかった。


 司祭たちの訴えを教会会議まで預かると決めたこと。アッシュマークでの叙階。ここで印刷され、帝国内へ広まった反論。それらについて、本人が出頭して答えるという。


 聖務官房から求められた条件も、同封されていた。反論の印刷を止め、追放された聖職者への聞き取りに協力すれば、争点を減らせるとある。


「聞き取りをする者に、身柄を預けることまで含まれています。私は、これを受けるべきではないと思います」


 マルタは、自分に届いた召喚状も同じ書き方だったと言った。


 ミラは手紙の末尾を読んでいた。


「司教様には、何とお返しすれば」


「必要なら、護衛も弁護に立つ人も出す。こちらで話してもらってもいい。そこまでは伝えよう」


「お断りになれば?」


 すぐには答えられなかった。軍を出して解決できることなら、今頃こうして座ってはいない。


「何に困っているかを聞く。私が嫌だから、行くなとは言えない」


 紙を置くと、ミラがこちらを見た。


「私も、手紙を書きます。お許しをいただいてから何をしていたか、まだ、お伝えできていませんでした」


 病室で助かった者のこと。子どもが初めて聖典を読んだこと。彼女の口から出るのは、謝罪ではなかった。


 肩書を取り消されてもここでは変わらない。昨夜は、そう慰めようとしていた。ミラは、それで済ませたくなかったのだ。


「その手紙も、一緒に届けよう」


      ◇


 クレイドは、昼を過ぎてから聖堂へ来た。


 オーレリアンを見つけても、しばらくミラの仕事が空くのを待っていた。膝には書きかけの紙を載せている。


「僕の話も、使えますか。研究所で何をされたか。助けてもらった後、どうなったか」


 ミラは向かいへ座ったが、紙には手を伸ばさなかった。


「お話ししてもよいと思うところだけ、聞かせてください。全部でなくていいんです」


「ラザールさんへの返事とは、別に書きます。あの人たちだけが読んで終わるのは、嫌ですから」


「一度外へ出れば、読んだ人を選び直すことはできないよ」


 オーレリアンが言うと、少年はうなずいた。分かっている、と即答はしなかった。


「名前は、まだ出したくありません。でも、なかったことにされるのも……」


 隣へ椅子を寄せた。研究所の写しも、会の意見も、今日は持っていない。


「宛先から一緒に考えよう。まずは、君が見せたい相手に」


「ミラさんには、読んでほしいです」


 差し出された数枚を、彼女は両手で受け取った。


「はい。ここで読んでも、いいですか」


 クレイドが椅子を近づけた。ミラは最初の頁を開き、オーレリアンもその場に残った。


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