勝ったあとで
砲口がこちらを向く。その横から踏み込んだテオヴァルドの槍を弾き、オーレリアンは砂を蹴った。受けるだけでよいと言ったのを、早くも後悔していた。
退いた先にはクレイドがいる。剣の腹を受け止める間に、ミラの砲が火を噴いた。
正面のオルビスで砲撃を受けると、砂が背後へ飛び散った。威力を抑えていても、足は止まる。二人の少年はすでに射線を外れ、こちらへ回り込もうとしていた。
「そろそろ、私も撃ち返していい?」
「まずは、私たちが当てるまでお願いします」
返事と一緒に、砲口が再び上がった。
今度は受けず、川の上へ跳んだ。直後、さっきまで立っていた場所を衝撃が通り抜ける。岸へ戻ろうとした足を、エレンのフォルマが横へ押した。踏み直すより早く、槍先が胸元で止まる。
「……降参」
彼が槍を引いた途端、河原で笑い声が上がった。交代を待つ兵たちまで見ていたらしい。
「ミラの練習相手を引き受けたはずなんだけどな」
「お二人が前にいる時こそ、練習したかったんです」
操縦席を降りてきた彼女は息を弾ませていたが、杖を握りしめてはいなかった。前に出た二人を見ながら、ためらわずに撃てていた。
砦を取り戻してから五日。返事を待つ間に始めた練習が、いつの間にか四人がかりになっていた。
服についた砂を払っていると、エレンが近づいてきた。
「もう少し、お付き合いいただきたかったですね。私も、今のを部下に教えるには練習が要ります」
「まだやるの?」
「受けてくださる方がいるうちに」
エレンは笑っていた。砲のそばでは、クレイドもミラへ何かを頼んでいる。どうやら、次もあることになっていた。
四人がもう一度こちらを向いたところで、杖を上げてみせた。
「分かった。ただし次は、私も撃つよ」
「今日はここまでです。午後のお客様を、お忘れではありませんか」
それを言われると、もう一戦頼みたくなった。
◇
捕虜を返せという使者は、砦から兵を引くことまで求めてきた。
「双方が退けば、陛下のお定めになった停戦も守られます。こちらにも、閣下にも、これ以上の損はありますまい」
窓の下では、止められていた荷車が川沿いの道へ戻っている。その脇を、交代で到着したバスティオンたちが通った。荷を運ぶ者が手を上げ、兵も応じる。
「ここには、もともと私の守備隊がいた。貴軍と一緒に退かねばならぬ理由はない」
「しかし、これほどの兵を置かれては、隣領も備えを解けません」
「その軍を入れるために、我が守備隊を追い出したのだろう。原因と結果を取り違えぬよう願いたい」
使者は、窓の下を通る荷車へ目を逃がした。往来はすでに戻っていたが、捕らえた兵は砦の中に残っている。
「兵をお返しいただければ、上官も話を聞きやすくなりましょう」
「順序が逆だ。後続を引き、街道の通行を妨げぬこと。確かめられれば、捕虜は返す。ただし、武器は置いていってもらう」
「閣下は、境を越えて追わぬと?」
「我が領へ来なければ、ここで戦う理由はなくなる」
念押しを重ねようとした口が閉じた。使者はようやく、返答を預かると言った。
撤退を受け入れる返書が届いても、すぐには捕虜を返さなかった。偵察に出した兵が隣領の陣から軍の引いたことを確かめ、ようやく指揮官たちは武器を置いて砦を出た。
敵の旗が消えても、砦の守りは残した。
◇
「近くにいる大公方の軍からは、何も言ってこなかったんですか」
帰り支度を終えたクレイドが、砦の下を見ていた。交代の部隊がすでに配置につき、自分たちの軍は西へ下る準備をしている。
「来たよ。次に何かあったら、近くにいてほしいって」
「お断りしたんですか」
「まだ戦ってもいない隣の領地を、先に攻めておく相談までついてきたからね。今度の話とは別だよ」
麓では、ミラがエレンを同じ車へ誘っていた。帰りの道中まで教わるつもりらしい。隣の車から、テオヴァルドがこちらへ手を振る。
「帰ろう。しばらく、家で寝たい」
「その前に、続きを読んでいただけますか。帰るまでに、書き終えたいんです」




