突破
ミラの一発を受け、砲台を守るオルビスが横へ傾いた。受け止めた術者の足元で石が砕け、隣の者まで杖を向け直す。
空いた正面へ、テオヴァルドが入った。
突き出された槍を左の盾で払う。右手の穂先は止まらず、兵を貫いて背後の列へ叩きつけた。盾の脇を抜けたクレイドが、台座へ駆け戻ろうとした術者を斬った。
守備兵が二人へ殺到しても、大砲の狙いは変わらなかった。
こちらを向く砲口に光が満ち、台座が軋む。
(ここへ来い)
杖を向けたまま、一歩横へ出た。追ってくる照準の先から、ミラとエレンが外れる。
正面へ跳ね返せば、台座へ迫る二人を巻き込む。オーレリアンは杖を肩まで引き、逃がす先を空へ定めた。
砲撃の光が、視界を埋めた。
受けた瞬間、胸壁が足元から砕けた。オーレリアンは踏みとどまり、杖先のオルビスを斜めに傾けた。押し寄せる力が上空へ逸れ、雲の下で弾ける。
熱風が谷を渡った。川面が波立ち、敵も味方も一瞬だけ顔を伏せた。
それでも、槍を持つ少年は止まらなかった。
残った防御へ穂先が突き入り、光を砕く。クレイドはその背後へ回り、追ってきた兵の戦斧を受けた。押し込まれる前に刃へ力を込め、柄ごと断つ。
援護へ走った兵は、ミラの射撃に止められた。
守備兵が散り、前面を覆っていたオルビスが途切れる。
台座の奥まで、遮るものがなくなった。
「テオ、砦の奥へ倒す」
「フラクタ・グラヴィタス」
銀光が地面を走り、台座の片側をえぐり取った。
支えを失った砲身が後ろへ傾いた。残った石柱へ、テオヴァルドが踏み込む。
槍の一撃が最後の支えを断った。
大砲は砦の奥へ倒れ、後ろに並んでいた砲を押し潰した。吹き上がった石が胸壁へ降り、ミラの機体を打つ。傾いた砲身をエレンが支え直す間、オーレリアンは二人の前へ落ちる瓦礫を弾いた。
クレイドは、倒れる砲身の下を抜けていた。
倒れる砲身を避け、敵が道を空けていた。そこを抜けた剣が杖を断ち、振り返った盾兵にはテオヴァルドの槍が届く。
土煙の中から、逃げる足音が増えていく。
下の道では、味方が坂を上がってきていた。追われた歩兵が砦へ駆け込もうとしたが、背後にはもうバスティオンが迫っている。
砦を捨てた騎兵が街道へ逃れた。
その横へ、バスティオンが追いついた。
長柄に乗り手を落とされ、後続は川岸へ馬を向ける。その退路も、砲を連れた一組に塞がれていた。
大剣を持つ二人の間で、砲が止まった。
まだ抜けようとした一騎が撃たれると、次の兵は馬を止め、剣を投げ出した。
追い立てられて砦へ戻った者は、壊れた砲と、その前に立つ五人を見た。
オーレリアンは、伏せた兵へまだ剣を向けている将校を見つけた。立って戦えと叫んでいた男が、こちらへ刃を向け直す。
クレイドが間合いへ入り、剣を叩き落とした。
「指揮官か」
男は答えず、周囲を見た。もう誰も、その号令では立ち上がらなかった。
「部下を立たせても、砲は戻らぬ。まだ続けるか」
落ちた剣へ手を伸ばしかけ、男はやめた。
「……降伏する」
テオヴァルドが槍を引いた。オーレリアンも杖を下げ、砦を見上げている味方へ手を上げる。
最後まで河原に残っていた敵も、その合図のあとで武器を置いた。
砲声が止むと、水の音が聞こえた。さっきまで、すぐ下を川が流れていることさえ忘れていた。
石段を上がってきたエッダが、兜を開いた。五人を見つけ、血のついた籠手を持ち上げる。返そうとして、ミラの手が上がらなかった。
「もう、離していいよ」
オーレリアンが声をかけても、彼女は杖を握ったまま砲を見ていた。




