火の間を
息を吸うと、喉まで熱かった。
テオヴァルドの盾を越えた炎が、両側の岩を舐めている。前へ押し出した左腕は揺れない。だが、後ろへ回った熱風に、ミラが咳き込んだ。
エレンが空へ杖を向けた。足元にオルビスが開き、行き場を失っていた熱が岩場の外へ噴き上がる。
息を吸える隙間ができた。
盾の脇から放った衝撃が、炎を使う術者を岩壁へ叩きつけた。光が途切れた場所へ、クレイドが走る。
待ち受けた兵の剣を受け流し、肩で後ろへ突き飛ばす。巻き込まれた術者が倒れ、残っていた炎も消えた。
テオヴァルドがその脇を抜けた。
逃げ場のない敵を槍が押し崩し、狭い道が開く。二人が追おうとした時、後ろから声がかかった。
「二人とも、先へ出すぎないで」
ミラの声に、走りかけた足が止まる。まだ彼女の機体は岩の狭いところにいた。エレンが横について、砲身をぶつけずに抜けられる方へ導いている。
オーレリアンは砲の後ろへ残り、頭上を越えていく射撃を逸らしていた。上の砲台は、まだ川岸の味方を狙っている。
その時、頭上で弩が鳴った。
前へ出た機体の外板に矢が刺さる。跳ねた欠片がミラの頬を掠めた。機体へ身を寄せた彼女は、狙われた岩棚を見上げた。
矢をつがえ直す兵の下に、テオヴァルドとクレイドがいた。
「伏せて!」
叫ぶのと同時に、砲身が上を向いた。クレイドが隣の肩を引き、二人は岩へ身を伏せる。
砲声が狭い道を満たした。
棚が兵ごと砕け、石が頭上へ落ちてきた。オーレリアンは砲撃を逸らしていた杖を引き戻し、落下する塊を谷の外へ弾いた。テオヴァルドも盾をかざしたまま、ミラの方へ戻ってきた。
「大丈夫です。先へ行ってください」
頬から顎へ血が伝っている。近寄りかけると、彼女は首を振った。
「今は、上をお願いします」
岩場の入口までは、バスティオンも登ってきていた。その前へ上から光が落ち、岩壁が砕ける。
先に砲を止める。そう決めても、彼女の頬から目を離すのには少しかかった。
「後で、ちゃんと見せて」
返事を待たずに石段を上がった。残った敵を槍と剣が押し退け、砲台の横へ出る。
ようやく、道を撃っていた砲が見えた。
石の台座に、ミラの機体より大きな砲身が据えてあった。周囲の砲を含めて術者が守り、下からの射撃を弾いている。
ここまで登れば、川岸の陣も一望できた。
敵の歩兵は砦の下まで押し戻されていた。だが、その頭上を越えて光が落ちるたび、味方は操縦者を庇って止まる。
台座を斜面へ崩せば、その兵たちまで潰す。砦の内側へ倒したいが、手前の防御が邪魔だった。
(こっちへ向けさせるか)
胸壁の上へ姿を見せ、オーレリアンは砲を支える台座へ光を撃ち込んだ。防御のオルビスが傾き、砲身がゆっくりこちらへ回る。
眼下で射撃が止んだ。その隙に味方の砲が前へ出て、バスティオンの間を抜いて撃った。押さえられていた兵たちが、一斉に坂を駆け上がる。
「テオ、左へ。私から離れて」
テオヴァルドとクレイドが左へ走った。ミラの砲は、まだ道の端で止まっている。
その横で、エレンが右手の崩れた足場を確かめていた。
「右から撃てます」
そこなら、正面を守る術者の横を狙える。
「そこでは、砲の重さに耐えられません」
ミラの心配に、隊長は杖を向けて答えた。
「足場は私が支えます。ここで止めて、狙ってください」
沈みかけた脚をエレンのフォルマが支え、機体の傾きが止まる。ミラは砲身を持ち上げ、隣へうなずいた。
オーレリアンは、その砲口から敵までの間に誰もいないことを確かめた。
大砲はこちらを狙い続けている。正面の術者たちも、杖先の光から目を離さない。
「いいよ」
横からの砲火が、敵の防御を叩いた。




