肩を並べて
ひと月足らずの行軍を経てローデンを越えると、道は川沿いの谷へ入った。運搬用オートマタに乗るオーレリアンの前へ、見張りに出ていたエレンが戻ってきた。
「守備隊は村で待っています。砦の兵は、こちらが来たと知っても動きません。砲の届くところへ、入らせるつもりでしょう」
西の紋章は外してある。敵から見れば、アッシュマークに雇われた術者の一人にしか見えないだろう。
川の曲がりを挟んで、砦が見えた。街道を塞ぐ歩兵の背後に斜面が迫り、上には石造りの砲台がある。道を進めば、川と岩壁の間へ撃ち込まれる。
岩場を回って上へ出る道もあった。だが、その入口は敵の歩兵に塞がれている。
先に動いたのは、川岸へ下りたエッダたちだった。砲を載せた機体が続き、術者は二人のバスティオンの間から敵を狙った。
機体が追いつく前に押し潰そうと、敵の盾列が土盛りを駆け下りる。
術者が杖を振り下ろした。
衝撃に足元を崩された敵へ、エッダが斬り込んだ。大剣が盾ごと兵を裂き、砲を通す場所が空く。追いついた機体はそこで止まり、坂の上へ撃ち返した。
その脇から迫る槍を、ヨリスの長柄が薙ぐ。エッダも敵を追わず、射撃が終わるまで操縦者の前を守っていた。
砲口が下がると、二人はまた走った。ばらばらに立て直そうとする敵の間を、大剣と長柄が押し広げていく。
あの石切り場で見た動きが、敵を前にしても崩れない。
杖を上げかけたオーレリアンの横へ、テオヴァルドが並んだ。
「こちらも、行けます」
川岸の陣を味方へ任せ、五人は岩場の入口へ向かった。ミラの砲を背に、槍と剣が先へ出る。後ろを歩くエレンは、二人を急がせず、機体が止まれる足場を見ていた。
行く手にいた敵兵が盾を重ねた。弓兵の一斉射撃がその頭上を越えたが、オーレリアンの衝撃に砕かれ、破片だけが地へ落ちる。
「ミラ」
呼ぶと、機体が脚を踏ん張った。隣に立つエレンの呼吸へ、ミラが合わせる。休憩のたびに二人で試してきたものを、今度は敵へ向ける。
それぞれの杖先でオルビスが灯った。足場へ伝わる揺れが抑えられ、射撃が盾列の中央を貫いた。
横へ逃れた兵に、テオヴァルドの槍が届く。左腕の盾で次の穂先を押し上げ、その下へ踏み込んだクレイドが剣を払った。振り下ろされかけた杖が、持ち主の腕ごと土へ落ちる。
退いた敵が、岩場へ通じる道を空けた。
入口に据えられた砲車も、オーレリアンの一撃で横倒しになった。五人はそれを越え、斜面へ取りついた。
崩れた敵の列へ追いつくと、クレイドが石段の先を示した。
「この道なら、砲も連れていけます」
背後から蹄の音が迫った。
振り返った時には、騎兵が川岸を回り込んでいた。狙いは、土盛りを越えようとしている味方の砲だった。
操縦者が機体を岩へ寄せると、その前へ術者が出た。放った衝撃が先頭の馬を横へ弾く。後ろから共鳴の光が重なり、押し返す力が騎兵の列を崩した。
列を外れた騎兵が、操縦者の方へ馬を向けた。
ヨリスが追いつき、鞍から引きずり下ろした。後続は馬首を返したが、横から向けられた別の砲に追い払われる。
テオヴァルドはそちらへ向けかけた槍を引いた。オーレリアンも、助けに戻るのをやめた。
「任せてよさそうだね」
「はい」
槍を上げた少年の目が、オーレリアンの後ろで止まった。
上の砲台が光った。
(砲じゃない。操縦者を狙ってる)
杖を振り抜くと、降ってきた砲撃が空へ跳ねた。谷を揺らす爆音に続き、岩片が頭上へ降ってくる。テオヴァルドが盾をかざし、エレンはミラを機体の陰へ引き込んだ。
下の道でも、操縦者たちが伏せていた。バスティオンは敵を押し返したまま動けず、せっかく崩した陣の奥に、また盾が集まり始める。
あそこを壊せば、下の兵は進める。
「あれを止める。ミラ、来られる?」
「砲も動きます。置いていかないでください」
岩場へ入っても、足元には砲撃の震えが伝わってきた。
エレンが前へ出た。曲がり角の向こうを確かめ、続く機体へ手を上げる。その横をテオヴァルドが抜けた。
岩の奥で、いくつもの杖先が灯った。
「下がって」
少年の盾が五人を覆い、炎が押し寄せた。




