遅れてきた招待客
ヒーメロス様が帰った後、私は家族に連れられてお城の色んなところに顔を出して挨拶周りです。
昨日お披露目会があったから、厨房のシェフたちやメイドさんや庭師さんなど、たくさんの人たちにお礼を言うためです。もちろん警備をしてくれた騎士さんたちにも。
色々見て回ってわかったんだけど、お城で働いている人はちょっと年配の人が多い印象だった。
みんなあったかくて私はこういう感じが好きなんだよね。アンナをはじめとしてほんわかしてて、楽しんで働いてくれてる感じ。それがお城全体の雰囲気にもつながってるような気がする。
プテリュクスのお城は私がだーい好きな場所。
皆が「ここにいていいよ」って言ってくれる場所。
だからここで働いてくれてる人のことも大好き。
お城とお庭を巡ったら、いよいよ次は騎士さんたちのエリアへ。
エリアに入ってみて気が付いたんだけど、思ったより子供と言っていい年齢の子たちが多いみたい。
ウラノスたちと同じ年かちょっと上くらいかな?日本でいうと小学生から中学生くらいの子がたくさんいた。
「まだ騎士見習いになる前の小姓たちです」
ファイルーズによると、7歳から小姓。14歳から騎士見習い。20歳でやっと騎士になれるらしく、騎士になるためには長い時間がかかるみたい。
プテリュクス領では騎士は子どもたちの一番のあこがれの職業らしく、女の子も騎士見習いになる前までの年齢はここでお勉強してる子が多いらしい。
実力があればそのまま騎士見習い、さらには騎士になる女性もいるみたいだけど、人数はやっぱり少ないらしい。
騎士になるには読み書き算術、礼儀作法や剣術、適正に沿った魔法の訓練もお勉強のうち。だから辺境といってもプテリュクス領は貴族の学校が整備されてる王都に引けを取らないくらい識字率も学力も高く、尚且つ女性や子供も武器を持って戦えるのだという。すごいね。
「姫様。ちょうど騎士見習いの魔法訓練がありますよ。見ていきましょう」
「うー!」
やったね!!魔法!魔法!
私はカリダーデ様の腕の中で歌いながらじたばた喜びの舞を踊ったのであった。
魔法の訓練場に行くと、ピスティスが出迎えてくれた。
「ピスティス。昨日は警備責任者、ご苦労様でした」
「もったいないお言葉です」
カリダーデ様にお礼を言われて深くお辞儀してくれるピスティス。
「昨日の警備担当はお酒が飲めなくて辛かったのではなくて?」
「ははは。そのかわり、今日から2日間のお休みを頂いてますから」
「あら?そういえばピスティスも今日はお休みなのかしら?」
「いえ、私は別日にお休みをいただくことになっていますのでご安心を」
「働き虫のピスティスがお休みをとらないと、下の者が休みを取りにくくなりますからね。エレオス様のことは放っておいて、羽を伸ばしてきなさいな」
「カリダーデ。ピスティスに放っておかれたら俺は書類に埋まって死んでしまうぞ」
エレオス様がしょんぼりと泣き言を言ったが、カリダーデ様は全く気にしていなかった。
「エレオス様ならピスティスが不在の間もしっかりとお仕事をなさると信じておりますので」とかなんとか言ってうまーく手のひらで転がしていた。流石カリダーデ様。
訓練場はコロッセオのように円形になっていて、見学する観客席もたくさんあった。
私たちは最前列に並んで座って騎士見習いの子たちの魔法訓練を見学している。
「では、準備が整った者から順番に」
ピスティスの号令で子供たちが並ぶ。参加者は30人くらい。
ここにいるのは攻撃魔法の適性のある子たちだけ。
30mほどの距離には小さな丸い木の的が大体2mくらいの高さに設置されている。倍の60mくらい先には大きな三角の的がついてる。
「では、始め!」
一番前に並んでいた騎士見習いの子が手を挙げると、頭上にこぶし大の水が無数に浮かんだ。
初めてここに来た時にコンフィアンスに見せてもらった水を出す魔法と似てる。
その子が手を的に向けようとした途端、私の耳はカリダーデ様の手によって塞がれた。
ドガガガガガガガガ!
一瞬の出来事だった。
見習いの子が手を振り下ろした瞬間、爆竹が鳴ったみたいな連続音。
カリダーデ様に耳を塞いでもらってなかったらあまりの爆音に泣いちゃってたかも。
全然何にも見えなかったけど、的はえぐられたようにボロボロに破壊されていて、支柱しか残っていないような有様だ。
すごい。
きっと水を高速発射して的を破壊したんだ。
私はぱちぱちと手を叩いた。
「次!」
次の子が交代して先頭に立つと、いつの間にか「バン!」という音とともに遠くの的が真っ二つに割れた。何のモーションもなかったので本当に何をやったのかわからなかった。
目を丸くしていたら「あれは風魔法ですよ」とファイルーズが教えてくれた。
真ん中に当たったが、威力が強くて的ごと破壊してしまったのらしい。
すごいすごい!
上級者になれば何のモーションもなく、呪文だけで魔法を使えるようになるらしい。
それから次々と、炎の魔法、土の魔法、氷魔法とみんなが見せてくれる魔法に夢中になった。
「きゃうきゃう!!」
私も魔法使いたい!!
興奮した私は、自分の手のひらをじっと見た。
バッってやったら魔法でないかなぁ?と、手を動かそうとしたところだった。
「姫様!」
後ろのファイルーズが叫んだのと、誰かが私の手を握ったのは同時だった。
「ダメだよ」
優しい男の人の声。
目線をあげると、そこには銀の髪を足元まで垂らした着物姿の美しい男性がいつの間にか立っていた。
そしてその首には、切っ先が突き付けられている。剣を握っているのはエレオス様。
咄嗟に止めたがあと少しで首に食い込むんじゃないかという切っ先と、エレオス様から立ち上る殺気を感じた私は固まって、そのあと泣き出してしまった。
「うえええええええええええん!!!」
「ああ。泣いてしまった。エレオスのせいだ」
「……失礼しました」
エレオス様は剣をしまい、銀の髪の人に頭を下げた。
「冗談だ。構わないよ。急に現れたのはこちらだからね」
男の人は泣いている私をカリダーデ様から受け取ってあやしてくれる。上手だね。ぐすっ。
カリダーデ様やお兄ちゃんたち、ファイルーズが膝をついて頭を下げる。
「森の慈悲深きルーフルクドゥス王へご挨拶申し上げます」
「うん。みんなも元気そうでよかった」
穏やかな顔で美しく笑う男性はにこにこと私をあやし続けるのであった。
「いやー。のんびりしすぎたみたいだね。お披露目会が昨日だったとは」
あははとのんびりと笑うルーフルクドゥス王は、私を膝抱っこしたまま談話室のソファにゆったりと腰かけている。
この方、人外の美しさだと思ったら、私が拾われたあの森に住む精霊の王様なのらしい。
精霊!王様!なんだかわからないけどすごい!
「日時はご連絡いたしましたが……」
「うん。間に合うように森を出たはずだったんだけどね。ちょっと遅かったみたい」
ルーフルクドゥス王はけろりとしている。
因みにお膝の上に乗った私ももう泣き止んでます。けろり。
「せっかくお酒が飲めると思ってたんだけどなぁ」
「ご用意いたします」
「悪いね、エレオス」
ファイルーズがそっと部屋を出て行った。
「その代わりと言っては何だが、祝いの品は用意しているよ」
ルーフルクドゥス王は服の袂から布袋を取り出して目の前のローテーブルにそっと置いた。
ガラスがぶつかるようなカチャカチャという音が聞こえてくる。
「しばらく集めていたからたくさんあるよ」
「……またこんなにも」
「私には使い道がないからね。今回は色が濃くて質のいいものが多いよ」
「ありがたく頂戴します」
エレオス様とカリダーデ様が頭を下げる。
ファイルーズがお酒を載せたワゴンを押して戻ってきた。
グラスを準備してもらうとルーフルクドゥス王は手酌で琥珀のお酒を注ぎ、ぐいっと一杯。
「ああ。アウローラを抱っこしながらだとことさら美味しいねぇ」
満足そうに目を細めて私の頭の上に顎を載せる。私、顎置きじゃないんだけどなぁ。
「うぶー」
そんなことより私は何をもらったのか気になって、届かない布袋に手を伸ばした。
「気になるかい?魔核といって、魔物の核だよ」
魔物の核?
「人は魔物除けの結界に使ったりしてる。お守りにして身に着けて魔法の威力を強めたり。たくさんの使い道があるらしいよ」
ルーフルクドゥス王はグラスを置くと袋の口を開けて中身を出して見せてくれる。
「魔核は魔物が体内で育てる魔力の塊です。強い魔物ほど強い魔核を持っています。我々は討伐対象の魔物からしか獲得できませんので希少なものです」
ファイルーズが細く説明してくれた。なるほど。
「ほら。これなんか大きいだろ?もっと小さくて良質なのはアクセサリーにして君のお守りになるんじゃないかと思ったんだけどね」
うーわー。ガラス玉みたいなつやっつやの真っ赤な玉!!りんご飴みたい。美味しそう。
大きいものは私の手のひらには乗り切らないくらいある。それが布袋の中にごろごろと入ってるのだ。
でもその玉を触りたいとは思えない。じっと見つめているとなんだか背中がゾクゾクしてきた。
「感じるかい?」
「うあう……」
「アウローラにはまだ持たせられないかな」
ふふっと笑ってルーフルクドゥス王は魔核を布袋の中に戻した。
「アウローラ。今日みたいに魔法を使おうとしてはいけないよ」
「うぶー?」
「そうそう。まだ赤ちゃんだからだよ」
何気にルーフルクドゥス王は私と会話できてる。ファイルーズみたいに心を読んでるのかな?
「そうだね。君の心は読みやすい」
ぎくっ。
転生してきたこともバレてる?
「うん。誰にも言わないから安心して」
こそっと耳にささやかれた。
「赤ん坊の君が魔法を使いそうになってるのを感じて、今日は久々に焦ってしまったよ」
「ルーフルクドゥス王。姫様はやはり魔法の発動をなさっていたのでしょうか?」
「魔法ではなく魔力の放出だね。あのままでは危なかった」
危なかったの?
「アウローラはまだ魔法をちゃんと勉強していないのに、なぜか魔法のイメージだけはちゃんとあるみたいなんだよね。だから中途半端に魔法にならない魔力だけが体内から大量に出ようとしていた」
「それはっ!」
「うん。とっても危険」
とっても危険……。
「アウローラ。君、死んでてもおかしくなかったんだよ?」
思い付きでやってみようと思ったことが死ぬような危ないことだったのだと言われて、私はちびりそうになった。
目の前のカリダーデ様は真っ青になって倒れそうになってるし、ファイルーズはぶるぶる震えてる。
本当にごめんなさい!!!
「危ないから、ある程度。えーっとこっちでいうところの、魔法の練習をする年まではうちのチビたちに見張らせて魔法を使えないようにするよ」
「それはアウローラに精霊を付けて頂けるということですか?!」
エレオス様が思わずといった風に立ち上がった。
「そういうことだね。アウローラがちょうど精霊の加護を持っているし、チビたちも喜んで付いてくれると思うよ」
精霊がついてくれるという意味はよく分からないけれど、エレオス様とカリダーデ様、ファイルーズが涙を浮かべて頭を下げていたので私も真似する。
「灰銀色の瞳にはやはり精霊の加護が……」
「うん。精霊の加護だけじゃないけどね」
「え?」
「え?まだ知らないの?」
ぽかんとしたエレオス様に、ルーフルクドゥス王もびっくりした顔をする。
「はい。アウローラはまだ王都にも行っておりませんので加護やスキルは調べておりません」
「あー。そっか。人は視ることができないんだったね。じゃあ王都に行くまで楽しみにしてるといいよ」
ルーフルクドゥス王がにっこりと笑った。
イラーハさんの転生オプション大盛りは、もうルーフルクドゥス王にばれてるんだろう。
めっちゃ楽しそうだもん。
私はあんまりにも家族たちがびっくりするようなオプションが付いてなければいいなと思い、遠い目になってしまったのでした。




