おチビ精霊集合!
「出ておいで、チビたち」
ルーフルクドゥス王の声に、どこからともなく光の粒がどばっと現れて私の体に纏わりついた。
大量の蛍に纏わりつかれたみたいになってる!!
「うーーー!!」
「ははは。びっくりしたかい?」
私がバタバタ暴れるのを見てルーフルクドゥス王は楽しそうに笑ってる。
「これはね、精霊の子供たちだよ」
「うんぶー」
「君は灰銀色の瞳を持ってるからうちのチビたちもそばにいると嬉しいんだよ」
チカチカと輝く蛍みたいな光が、私の周りをくるくる回ってる。
蛍と違うのは光が緑、赤、青、白と、たくさんあるところだろう。
たぶん踊ってるんだろうなとわかる。見てるこっちも楽しくなってくるからね。
私が手を差し出すと、そこへわらわらと精霊の光が集まってくる。
なんか餌とかあげたくなる光景だ。
しかし、また『灰銀色の瞳』か。
見る人見る人が喜んでくれるけど、この目そんなに特別なものなんだろうか?
「そうだね。灰銀色の瞳は精霊に愛されてる証なんだ。僕の目もそうだろう?」
じっと見つめると確かにルーフルクドゥス王の瞳ははっきりとした灰銀色だ。それが光の加減でうるうると動いて見える。
人間とは違うんだなぁと、こういうところでわかる。
「チビたちは私と同じような目に自然と惹きつけられるから、人の世界では灰銀色の瞳を持っている者は『精霊の愛し子』と呼ばれたりもするね」
『精霊の愛し子』かぁ。これがイラーハさんの特典かな?。
「精霊の愛し子はその名の通り、精霊に愛される存在だよ。精霊は愛し子に協力する。精霊は愛し子を傷つけない。精霊は愛し子をありとあらゆるものから守る」
ゆったりと頭を撫でられる。
ちょっとひんやりした手。そして新緑の香りが落ち着く。
「アウローラがこのままこの北の辺境で暮らすのなら、持っていてとても役に立つ祝福だと思うよ。君が魔法を使えるようになるのが楽しみだ」
そっか。便利になるのならいいことだ。
「でも、今回は君が魔法を暴走させそうになったらストッパー役になれる子を付けるよ」
「うんぶー」
「そうそう。しばらくは強制的に魔法が使えなくなる。君の肉体を守るためにね」
魔法はまだまだお預けかぁ。
でも命には代えられないもんね。
私はこの世界でゆったりまったり生活を楽しむんだい。
ふんすと鼻息荒くため息をついたら笑われた。
「君には君の使命があるよね、アウローラ。きちんとそれを覚えていてね」
「あう!」
私は勢いよく手を挙げた。
「では、一番力のあるもの。アウローラを守るもの。アウローラの中に」
チカチカと光る精霊の子供たちが私めがけて飛び込んできてすぽぽぽぽっとお腹のあたりに入って消えていった。
「あーう?」
「ちゃんとお腹の中に入っているよ。ちょっと予定より多く入ってしまったようだけど、まあ問題はないだろう」
お腹をポンポンすると、くすくすと笑われた。
「これで魔法は使えない。精霊が邪魔するからね」
「ルーフルクドゥス王。感謝いたします」
エレオス様とカリダーデ様が頭を下げた。
「構わないよ。アウローラのためだからね」
「そういえば、エザフォスの領主はどうした?」
お酒を飲みながらルーフルクドゥス王が尋ねる。
「ヒーメロスはもう南へ発ちました」
「なんだ。そんなに慌てて帰ってしまったのかい?久しぶりに一緒に飲めると思っていたんだが」
「ヒーメロスの子たちはまだ騎士ではありませんので領を長く空けることができないのです」
「真面目だねぇ。だけどそのお陰でエザフォスの領はとっても安定しているのかな?このプテリュクスに並ぶくらい森が育っている」
「兄が喜びます」
カリダーデ様が頭を下げた。なんだかカリダーデ様も故郷を褒められて誇らしげな表情だ。
「うん。北と南はプテリュクスとエザフォスがあるから安心している。きっと次代もうまく育って森といい関係でいてくれると信じてるよ」
「はい。精一杯務めさせていただきます」
「んー。じゃあこの気配は先代かな?」
お酒を飲みながら、ルーフルクドゥス王は自分の背後にある隣の部屋の壁をちらりと振り返って見た。
「ええ。隣で声がかかるのを待っております」
カリダーデ様が答える。
「なんだなんだ。遠慮なんかせずに入ってくればいいのに」
ルーフルクドゥス王がさっと手を動かすと、1つの精霊の光がすうっと隣の部屋へ向かって行って壁をすり抜けて消えていく。
「精霊王が気軽に遊びに来ても、普通の者はみな遠慮します」
「エレオスは遠慮しないじゃないか」
「私は、まあ……」
「子供ながら無謀にも森に入り、私に抗議しに来たではないか」
「若気の至りです。その節は失礼を致しました」
くすくすと笑うルーフルクドゥス王に、頭を下げるエレオス様。
「いいんだよ。かわいい子供の願いをきいてやれなくてすまなかったと思う」
申し訳なさそうな控えめな声で、ルーフルクドゥス王が謝る。
子どもの頃のエレオス様、森で何かあったのかな?
トントンとノックの音。
いつの間にか入り口近くへ立っていたファイルーズが、ルーフルクドゥス王の合図でドアを開いた。
「森の慈悲深きルーフルクドゥス王へご挨拶を申し上げます」
おじいちゃんとおばあちゃんが跪いて挨拶をする。
「うん。久しいね、ケアルト。ユースティティア。元気そうでよかったよ。いつぶりかな?」
「ヒーメロスに領主の座を譲って以来です」
「そうだそうだ。ヒーメロスはあの時まだ騎士になったばかりの子供だった」
昔を懐かしむような表情。
それだけでルーフルクドゥス王がおじいちゃんたちにも愛情をもって接してくれているのだとわかる。
きっと長い間、プテリュクス領もエザフォス領もこの優しい精霊王様に見守られて来たんだろうな。
ソファに座ったおじいちゃんに、ルーフルクドゥス王が話しかける。
「ケアルト。怪我の具合はどう?」
「もう痛みはございません。ご心配いただきましてありがとうございます」
「それならよかった。こんなかわいい孫もできたんだし、元気でいなくてはね」
おじいちゃんがどこかに怪我をしているなんて全然わからなかった。
私がじっと見ると、おじいちゃんがくすっと笑った。
「大丈夫だよ。アウローラ。おじいちゃんはこの通り元気だよ」
「あーぶぅ?」
本当かなぁ?
「アウローラがもっと大きくなっても抱き上げるくらい簡単だ。安心していいよ」
「あーう!」
それならよかった。私も安心だ。
ファイルーズが手早くテーブルにお菓子やおつまみ、山盛りフルーツ。お酒や紅茶を並べていく。
もちろん私の離乳食も。
ぐぅ。
あう。お腹鳴っちゃった。
お腹の音を聞いて笑い出したルーフルクドゥス王が並べられた器の中身を確認する。
「アウローラはまだこんなドロドロしたものしか食べられないのか」
「うー」
「ははは。残念だね。早く食べられるように大きくならないと」
ルーフルクドゥス王は私の離乳食の器を手に取ると、それをスプーンで食べさせてくれる。
「美味しいかい?」
「あう!あう!」
私は手を叩いて美味しさを表現した。素材の味しかしないんだけど、お野菜の味が濃いのかなぁ?日本で食べてたお野菜よりも強いんだよね。味が。だから美味しい。
元々、前世では食事に頓着してなかったし、平日は激務の合間に流し込むように食べてたな。「一日分の栄養」とか「一日分の野菜」とかの栄養食。そんなのばっかり。もうしばらくゼリーとか片手で食べられる携帯食みたいなのはいらないや。
疲れて休みの日は出かける気もなかったから一日中寝てたり、食事もスーパーのお総菜コーナーで買ったものをちょこちょこテキトーに食べてはお酒飲んで。
なんか体にガタが来てたのって、仕事のせいばっかりじゃなかったと思うんだよね。いまとなっては。
もちろん仕事のせいですべてが狂っていったのは間違いないんだけど、赤ちゃん生活してみて、あれでは長生きできないのもしょうがないよねーと納得する部分もある。
精神的にも肉体的にも限界だったんだ、森野藍は。
アウローラとなったのがイラーハさんのプレセントならば、それが幸福の時間になるように私は赤ちゃん生活を満喫するのみ!!
「難しいこと考えてないで、こっちも食べなさい」
「あーむ」
美味しいです、おかゆ。もぐもぐ。
「北の民は森を大切にしていてくれるから森からの力を巡らせやすい。だからこの土地で作られているものは力強く人の力になりやすい。総じてこの土地の者はみんなここで作られているものを食べて、体が強く、魔力も高いのさ」
へー。
食べるものでそんなに違うんだね。
「北の寒い地域だというのに、温暖な王都よりよっぽどいいものを食べているよ」
王都というと、王様のいるところだね。多分。じゃあプテリュクスの人たちって王様よりもいい食材を食べてるのかな?
「そうだよ。王都まで食材を運ぶには距離がありすぎるからね、北も南も。なにせ森を超えないと王都まで行けない。迂回すれば日数がかかって鮮度が落ちる。鮮度が落ちれば食材の中の栄養素も味も落ちてしまう」
あのもこもこの木が茂った森か。そりゃ遠いんだろうね。
「遠いだけではなくて、魔物がいるから危険な道のりになる。人間の王はここの食べ物が欲しくて欲しくてしょうがないのさ」
あははとルーフルクドゥス王は笑う。
「だからアウローラ。王家に来いと言われても行ってはいけないよ。私もアウローラに簡単に会えなくなってしまうから反対だね。嫁に行くなら東がいいんじゃないかな?」
エレオス様、ルーフルクドゥス王の提案にお酒が変なところに入ったみたいでゴホゴホむせてる。
嫁。
嫁~?
もうそんな話でちゃうの?私そんなこと全然考えられないけどなぁ。
「恐れながら。ルーフルクドゥス王」
「なんだい?」
「アウローラは嫁に出しません!」
気を取り直したエレオス様が宣言する。
あらら。二日酔いに迎え酒したから酔いが回るの早かったのかな?目が座ってるよエレオス様。
「私よりも強く。賢く。アウローラを愛し、守れるものでなければアウローラは渡しません!!」
ああ。泣き始めちゃったよ。
よく見たらおじいちゃんも鼻をすすってる。
女性二人はお茶を飲んでいるが目が笑ってない。こわい……。
「エレオスより強いってなると、森の魔獣クラスになるね」
「魔獣を単騎で仕留められる者です!」
「そんなのほとんどいないんじゃない?」
「いなくてよいのです!アウローラはずっと、ずーっとこのプテリュクス家に居ればよいのです!」
「わお」
エレオス様の「生涯独身でいてくれ」宣言に、ルーフルクドゥス王がドン引きの声をあげた。
生涯独身か。それはそれでどうなんだろう?
きっとお兄ちゃんの誰か。多分、長男のウラノスがこのお家を継ぐのだろうけど、そこに小姑として居座るのはいかがなものか?
やっぱり適度なところで家は出たほうがいいと思うんだよね。
お嫁さん気を使っちゃうからね。
家を出るならそれなりに働けないとだめだろうし、私もお兄ちゃんたちみたいにお勉強頑張らなくちゃ。
「アウローラ。この先苦労するねぇ」
「あぅ……」
2人で顔を見合わせてこそこそ話をしていても、エレオス様は「苦労なんかさせるもんか!俺たちが!アウローラを幸せにするんだ!!」とか言ってずっと泣いてる。
エレオス様、もう泣き止んでもろて。
カリダーデ様がめちゃくちゃ睨んでますよ。
おじいちゃんもどうしてもらい泣きしてるんですか?
おばあちゃんが紅茶にお酒を入れ始めましたよ。大丈夫ですか?
離乳食を食べ終わった後はファイルーズに連れられて談話室を後にしたのでどうなったのかはわからないけれど、夜通し酒盛りが続けられたみたい。
因みに、翌日朝食の席でけろりとしたカリダーデ様に教えてもらいましたが、エレオス様はザルだけど泣き上戸で、おばあちゃんとカリダーデ様はワクだそうです。酒豪一家。




