大宴会に突入!!
「ほら。あーんして」
「あむ」
「あーかわいい。天使だわ」
私はいま、おじいちゃんのお膝に座り、おばあちゃんのスプーンで離乳食を食べております。もぐもぐ。
やっと私を抱っこできたおじいちゃんはデレデレと私の頭を撫でて、おばあちゃんは一口ごとにメロメロです。
口を動かすだけで喜ばれる存在。それが赤ちゃん。赤ちゃん生活充実しております。
エレオス様とカリダーデ様はお祝いに来てくれた人たちとひっきりなしにご挨拶をしていて忙しそう。
ヒーメロス様にご挨拶に行く人も行列を作っている。ヒーメロス様とおじいちゃんたちが住んでいる南の領地はここから遠いらしく、なかなか会えない人たちが多いみたいだね。
私もお兄ちゃんたちに見守られながら、やってくるお客様たちがお祝いを言ってくれたり手を振ってくれたりするのでそれに応える。忙しい。食べながらだから。もぐもぐ。
「よく食べて元気でいいわね」
おばあちゃんが私の食べっぷりに喜んでくれる。
「おばあ様。アウローラのかわいさはそれだけではありません」
ウラノスがまじめな顔になって言う。
「まあ?あとはどんな素敵なことがあるの?」
「アウローラはかしこいです」
「もうぼくたちのいうことがわかっています」
双子がにこにこで報告する。
「まあまあまあ!ステキね!」
おばあちゃんはにこにこ顔で答えてくれるけど、完全に信じてはいないようだ。
「ほんとうですよ、おばあ様」
「アウローラはちゃんと僕たちの言うことを聞いてます」
ヒンメルとシエルも続く。
「そうなのか?本当だとしたら凄いことだぞ」
おじいちゃんがちょっと慌てた顔をする。
「灰銀色の瞳は精霊に愛された証と言われているし、女神の鐘が鳴ったのも偶然ではないのかもしれない……。なにかしらの加護が……?」
ちょっと深く考えるような素振りのおじいちゃん。あれ?あんまりわかってる風なところ見せない方がいい感じ?
「ほら、アウローラ。いつものやつやってみよう」
にっこりと笑ったシエルが私を抱っこして、おもちゃの入った籠の上に掲げる。
「アウローラ、まるの形の積み木はどれ?」
「あう」
私はまるでクレーンゲームのように両手でまるの積み木を掴む。
「正解。次は三角だよ」
「あう」
今度は三角を掴む。
「アウローラ。ファイルーズはどれ?」
「あう」
狼ファイルーズのぬいぐるみを掴んで抱っこする。
「ほらねー」
「すごいでしょ?」
双子がキャッキャと喜ぶ声とは反対に、おじいちゃんとおばあちゃんがあっけにとられた顔をしてこっちを見ている。
その顔を見て私は思った。
あ、やっちまった。
だってだって、あのクレーンゲーム楽しいんだもん!!
できたらご褒美にちょぴっとだけ果汁がもらえるんだもん!!
こちとら甘味に飢えてるんだよおお!!
「はい。ご褒美だよ」
私は水で薄めた果汁をストローでごくごく飲んだ。ぷはー!悔いはない!!
「……す」
す?
「素晴らしいわ!!!」
「うちの孫万歳!!!」
駆け寄ってきたおばあちゃんとおじいちゃんに高い高いされたり抱きしめられて頬ずりされたりと、もみくちゃにされた。うわー。
「落ち着いてください、父上!母上!」
興奮した二人の声を聞いて、ヒーメロス様が慌てて駆けつけてくれた。
「何があったんです?」
2人の手から私を奪い取る。
「ヒーメロス。アウローラは天才だ!!」
「はぁ?」
呆れたように返事するヒーメロス様。そらそうだよ。みんな突然そんなこと言われたらびっくりするよ。
「おじうえもみてください」
「ねー」
今度は双子が手をつないでくるくる回る。
ピタッと止まって声をそろえる。
「ルークスどーっちだ」
「うっ!」
「せいかーい」
指さしたルークスが嬉しそうに笑う。
ルークスとルーチェはそっくりなんだけど、やっぱり並べて見るとちょっとだけ違う。ルークスの方が目元がきりっとしてて、ルーチェは優し気なんだよね。
また双子が右に左にとくるくる回って難易度をあげてから「ルーチェどーっちだ」と歌う。
「うっ!」
「またせいかーい」
双子がぱちぱち手を叩く。
双子はよく名前を間違われるから、間違えないで指さすと本当に嬉しそうにしてくれるのだ。その笑顔が見たくて私も真剣に取り組んでいる。
「これは……すごいな」
私を抱っこしていたヒーメロス様がぽかんと呟いた。
「もう人の言ってることが分かるのか……」
「ちゃんとわかってますよ、アウローラは」
ウラノスが嬉しそうに答える。
「そうか……。もうわかってるのか……」
ヒーメロス様はまじまじと私の顔を見る。
「アウローラ。お前に会えて嬉しいよ」
ゆっくりと、ゆっくりと、私と目を合わせながら言葉を紡ぐ。
「アウローラが私の姪になったことが本当に嬉しいよ」
「うっ!」
私はひしっとヒーメロス様に抱きついた。気持ちが伝わるように。
「そうか。お前も私を受け入れてくれるか?」
「うっ!」
私はもうヒーメロス様やおじいちゃんおばあちゃん達が大好きだ。
みんなの抱っこはエレオス様やカリダーデ様とおんなじで暖かい。
私もこのお家の一員になれたこと、本当にうれしいんだよ。私を拾ってくれてありがとう。ヒーメロス様たちも私を認めてくれてありがとう。
そんな気持ちを込めて抱きしめた。
「アウローラ姫 万歳!」
「プテリュクスの姫 万歳!」
周りで見守っていてくれたお客さんたちがみんな大きな声と拍手で歓迎してくれるのが嬉しい。
「さあ!みなグラスをもってくれ!何度でも乾杯しよう!!」
エレオス様が大きな声で呼びかける。
「アウローラを含め、プテリュクスがいる限りこの北方は守られる!!」
「おおおおおお!」
警備をしていてくれる騎士たちからも大きな歓声が上がる。
「女神の祝福に!!」
「女神の祝福に!!!!」
そこからはもう、お客さんも、非番の騎士たちや街の人も、しっちゃかめっちゃかになるような大騒ぎだったらしい。
らしい、というのは「教育に悪いから」とカリダーデ様に抱っこされてお昼寝タイムを迎えていたので、私はその騒ぎを見ていないのだ。おにいちゃんたちも。
街も辺境伯領の庇護下にある村々の人にもアルコールやジュース、食事やお土産のお菓子まで領主エレオス様から大盤振る舞いされていて、一日中大騒ぎ。
そのお祝いの声は真夜中まで続いてたのだという。
「あなた。お年を考えないと」
「……すまない」
翌日、談話室では二日酔いでヨレヨレのおじいちゃんが静かにおばあちゃんから怒られていた。
おじいちゃん、エレオス様に付き合って夜中まで酒盛りしていたのらしい。
「あー……頭いてぇ」
「エレオス様……」
「すまん……」
おばあちゃんと同じ目をしたカリダーデ様に渡された水でエレオス様は二日酔いの薬を飲んだ。
ちなみに私はお兄ちゃんたちとファイルーズで談話室に朝の挨拶に来たのだが、部屋に立ち込めるお酒臭さに早々に退散することにした。
ちゃんと換気したほうがいいよあれ。ファイルーズが匂いだけで酔っ払いそうになってたもん。
「アウローラ。おはよう」
「おっ!おっ!」
「伯父上、おはようございます」
食堂に入ったら、さわやかな様子のヒーメロス様が挨拶してくれた。
もうきちんと着替えて髪も整っている。
ヒーメロスさんは今日帰っちゃうっていってたものね。もう準備万端みたい。
「おじうえー。本当に朝に帰ってしまうの?」
「おじうえももう少し泊まってほしいー」
昨日はヒーメロス様とお風呂に入ったり、南の話をきいていたという双子は伯父さんにべったりだ。
ヒーメロス様もそこそこお酒も飲んでいたはずだが、全然くたびれた様子が見えない。お酒強いのかな?
「そうしたいのはやまやまなんだが、うちの坊主たちに領地を任せてきてしまったからな。長居するわけにいかないんだ」
「もうエザフォスのお兄様たちはロンに乗れるのですか?」
ウラノスが驚いている。
「いや、まだ乗れるのは一番上だけだな。あとの2人はからきしだよ」
「姫様。ヒーメロス様はここより南の辺境伯領主でいらっしゃいます。ロンという巨大な魔獣を従えて空を飛ぶんですよ」
「あう」
なる程。
私はファイルーズの説明に頷く。プテリュクスにはペガサスのフェイマーがいるけど、ヒーメロス様の領にも特別な生き物「ロン」がいるのね。
「そうだ。ロンに認められて乗ることができたら一人前だな。それはここでも変わらんだろう。フェイマーに乗れてやっと一人前の騎士だ」
それを聞いてウラノスがちょっと寂し気に目線を下げた。
「なんだ?ウラノス。お前まだ騎士見習いにもなっていないだろう?」
「……はい」
「うちのと比べてどうする。一番上のセヴァスはもう騎士見習いだぞ?年が違う」
「はい」
「まあ、焦る気持ちはわからんでもないがな。私も兄上がいらっしゃったときには年齢など関係なく兄上が出来ていることを見ては落ち込んだものだ」
フッと笑うヒーメロス様。
「伯父上も?」
お兄ちゃんたちみんな驚いてる。
「ああ、そうだよ。また同じ年にエレオスがいたからなぁ。よく比べられたよ。エレオスは魔獣を操る才能があるし、魔法の力も強い。体もデカかったし、何なら剣だって一級品だ。私ができないことを軽々やって見せるんだ。もちろん嫉妬したよ。しかもそんな奴が大事な大事なカリダーデに恋をしたって毎日のようにフェイマーに乗ってエザフォスの領まで押しかけてくるんだぞ?腹立つだろ?」
ヒーメロス様の言葉に、みんなイヤーな顔。
そうか、エレオス様は熊さんみたいな見た目で、結構何でもできる天才タイプだったのか。
「アウローラにもしもそんなことがあったら……」
ヒンメルがぽつりとつぶやく。
「やめて、ヒンメル。言葉にしたら本当になりそうだから」
シエルが慌てて止める。
「大丈夫ですよ、シエル様。私がいる限り、不届き者は姫様の視界に入ることすらできません」
ファイルーズが私に離乳食を食べさせながら、にこにこと怖いことを言う。
「そうだ!うちにはファイルーズがいた!」
「ファイルーズもアウローラを守ってくれるもん」
「任せてください、ルークス様。ルーチェ様」
盛り上がる双子とファイルーズは置いとこう。
「まあ、だからウラノスが焦る気持ちは痛いほどわかる。誰かと比べてしまう気持ちも」
「伯父上……」
「うん。だがそこで終わってはいけないよ。自分を小さくしてはいけない。せっかくの成長期なんだから、自分で自分の器の大きさを決めてはいけないんだ。どんどんこれから体も大きくなるだろ?心はもっと自由に大きくするんだよ」
自由か。
イラーハさんも「どんなことをしてもいい。どんなふうに生きてもいい」ってすごく言ってくれてたな。「心が喜ぶことをしなさい」って。
それが魂の栄養になるんだって。
お兄ちゃんたちも自由に大きく育ってほしいな。
私が隣の席のウラノスの手をきゅっと握ったら、ウラノスは少しびっくりしたみたいだけど、へにゃっと笑ってまだ小さい手で私の手を包み込んでくれた。
ヒーメロス様は朝食が終わるとすぐに帰り支度を始めた。
名残惜しい私たちは、ヒーメロス様をお見送りすることにした。
まだおじいちゃんは復活できてないがエレオス様はいる。
「では、見送りありがとう」
魔物除けのない城壁の外にある場所に繋がれていたヒーメロス様のロンがこっちに向かって歩いてきて驚いた。
ロンって、竜のことだったのね。
めっちゃ竜。めちゃめちゃ水墨画の竜。これ以上ないくらいの黒竜。
そして私ははちゃめちゃに懐かれた。
べろべろに嘗められてロンに服の端を器用に咥えられてエザフォス領に持って帰られそうなくらい懐かれた。
ロンをしかりつけて私のお持ち帰りを阻止していたカリダーデ様は、エザフォス領にいた時ロンの一番の使い手だったのらしい。お淑やかなのに意外な面を見られて楽しかったです。ビッシビシしてたよ。




