祝福の鐘とお披露目会
今日は待ちに待ったお披露目会の日なのです。
ででーん。
カリダーデ様は朝からメイドさんたちと打ち合わせ。エレオス様は早朝から騎士のみんなと朝の森の巡回と、2人ともとっても忙しそう。
エレオス様たちは普段から時間を見つけては森の巡回をフェイマーに乗ってしているみたいだけど、今日はお披露目会だから特に念入りに時間をかけているみたい。まだ戻ってないからおはようの挨拶してないんだよね。
ウラノスの抱っこで窓の外を見ると、お披露目会の会場となるお城の中庭には色とりどりのお花が飾られていて、テーブルにはたくさんの料理がこれでもかと並べられていくのが見える。
今日はお城で働いている人が総出でいろんな準備をしてくれてるんだけど、みんな楽しそうでにこにこ働いてる。お城の人がお披露目会を楽しみにしてくれてるってアンナが言ってたけど本当みたい。
「あぶぶぶぶー」
私は花を整える庭師のおじいちゃんに手を振った。
「アウローラのお披露目会だからね。みんな張り切って準備してくれてるんだよ」
ちゅうと頭のてっぺんにキスされる。
「お菓子もいっぱいあるんだよー」
双子たちも興奮している。いいなーお菓子。まだ私食べられないんだよねぇ。考えただけでよだれが出ちゃう。
「お菓子ばかり食べすぎちゃだめだよ」
シエルが微笑んで双子の頭を撫でる。
「わかってます!やさいもたべます」
「アウローラのお手本になります」
ふんすと胸を張る双子は今日も可愛い。
「それより2人とも、誓いの言葉はちゃんと覚えてる?」
ヒンメルが双子に目線を会わせる。
「はい!きちんとおぼえました」
「ちゃんとできます!」
「すごいな。楽しみにしてるから頑張るんだよ」
ウラノスとシエルも双子を愛おしそうに撫でる。
誓いの言葉?結婚式じゃないけど、そういうのがあるんだね。
私は頑張ってほしくて手を叩いて応援した。
正装したエレオス様に抱っこされて馬車に乗っております。私もカリダーデ様もおめかし。
街もずいぶんとお祭りムードだ。前に買い物に来た時とは雰囲気がまた違う。屋台もいっぱい出てるしそこかしこからこちらに向かって「おめでとうございます!」とお祝いの声がかかる。
「うーうー」
私は馬車の向かっている建物を指さす。
「そうよ。あれが教会よ」
向かいに座るカリダーデ様が私の指さした先を見て教えてくれる。
「教会で手続きをしたら正式に俺たちの娘になるからな」
「あーう」
そうか。そういう手続きがあったんだね。それが終わってからのお披露目会。なるほど。
教会では真っ白な長ーいお髭のおじいちゃんが歓迎してくれた。
「こちらが姫様ですか。なんと美しい……」
おじいちゃんに抱っこされて私は思わずそのお髭を掴む。
「おお、おお。元気でいい子じゃ」
ちょっとごわごわの髭を引っ張ったがおじいちゃんは嬉しそうに私の頭を撫でてくれる。
「なんと。姫様は灰銀色の瞳ですな。吉兆じゃ」
「そうなんですの。この子の名前はアウローラ。私たちの宝です」
「辺境伯領はこれからますます発展するでしょうな」
サンタクロースみたいにふぉっふぉっふぉと笑うおじいちゃんの腕からエレオス様にバトンタッチ。
私は祭壇の前に運ばれて、何気なくその奥に飾ってある巨大な女神像を見て固まった。
あれは紛れもなくイラーハさん!魂の管理者ってこの世界の神様だったんかい!!
エレオス様とカリダーデ様はおじいちゃんが用意してくれた紙にペンでサラサラとサインする。
「これよりアウローラは正式にプテリュクス家の養女となりました。女神イラーハの祝福があらんことを」
カラーーーーーン……カラーーーーーン……カラーーーーーーン……
急に教会の鐘が鳴って、私はビクッと体を震わせた。
「おお!イラーハ様の祝福の鐘!!」
おじいちゃんがくわっと目を見開いて天井に吊るされた鐘を見た。
「エレオス様……」
「司祭。これは?」
「この鐘は普段は音が鳴りませんからな。なんせ壊れてる」
おじいちゃんはけろりという。
え?壊れてるの?めっちゃきれいな音がしてるけど?
「なんで壊れた鐘が勝手に鳴るのかと聞いてるんだ」
エレオス様があきれたように尋ねると、おじいちゃんはまた笑いだした。
「ふぉっふぉっふぉ。それこそ女神イラーハの祝福でしょう。私もここへ来て長いが鐘の音を聞いたのは初めてですなー。ありがたいことです」
「どんだけ祝福されたらそうなるんだよ」
エレオス様は困ったようにおでこを押さえる。
イラーハさん。生まれ変わりの時は張り切ってたし祝福も大盛りにしてくれたのかなぁ?今も見守ってくれてる?ありがたく私は鐘に向かって手を振った。
「いいではありませんか。素晴らしいことですわ」
カリダーデ様がちゅうとほっぺにキスしてくれる。
「この子がこの世界に来たことも、私たちの子になってくれたのもきっと女神さまのおぼしめしですわ」
「そうだな。女神の祝福だというのなら、ありがたく受け取らなきゃな」
エレオス様もにっこり笑ってキスしてくれる。2人からの祝福にまた鐘が鳴った。
「ご存知の通り、女神イラーハは生死を司る女神です。姫様の誕生はこの辺境の地に必要な運命だったのでしょう。祝福の鐘がその証です。姫様の健やかなる成長をお祈りいたします」
「ありがとうございます」
教会での祭事は「壊れた鐘が鳴っちゃう」というハプニングはあったものの無事に終わった。
2人のサインが入った養子縁組の用紙はおじいちゃんのハンコを押した後、きれいに丸めリボンがかけられてカリダーデ様の手に。
「もうこれで、お前はどこに行くこともないぞ。正式にプテリュクス家の娘だー!」
「きゃっきゃ!」
エレオス様が教会を出て私を高い高いしてくれる。
「よかったわ。今日という日を無事に迎えられて」
「まだまだ祝いは終わってないぞ。これから城に戻ってお披露目会だ」
「あーう」
馬車に乗り込んで走り出すと、教会からお城までの道は街の人でぎちぎちだった。
慌てて駆けつけてくれたピスティスによると、教会の鐘の音を聞いた街の人たちが「領主が迎えた姫が女神の祝福をもらった」と大騒ぎになっているらしく、一目見ようとお城までの道をびっちりと埋めてしまったようだ。
「姫に危険はないと思いたいですが、護衛につきます」
ピスティスとコンフィアンスが馬で前後を固めて付き添ってくれる。
ぎゅうぎゅうになってる人たちも危ないからね。先導してくれる人は必要かも。
「姫様ー!!」
「おめでとうございます!」
「プテリュクス家に幸あれ!」
大きな歓声とお祝いの言葉。私は窓から街の人たちを見る。
本当にみんなにこにことお祝いの言葉をかけてくれる。嬉しいなぁ。胸がポカポカするよ。
「領主様ばんざーい!」
子どもたちが籠に入った花びらを一生懸命に撒いているのが見えた。
「うー!うー!」
「きれいねー。お花よ、お花。よかったわねー」
カリダーデ様のお膝で興奮する私。
ピンクや白の細かい花びらはまるで前世の桜吹雪のように視界を埋め尽くす。懐かしさに胸がきゅうんとした。
お城に着くと、たくさんの人が会場の中庭に集まっていた。
正装したおにいちゃんたちの出迎えで馬車を降りる。
「アウローラ。よかった」
ウラノスたちは街の人が道に集まっているのを知って心配していてくれたようだ。ぎゅうと抱きしめられる。
「心配したんだよ」
「あーう」
大丈夫だよ、お兄ちゃんたち。街の人もみんな優しかったもの。
「奥様―!」
アンナが走ってきた。
「ああ。ようございました。なかなか戻られないので心配しておりました。皆様お待ちですよ」
「わかったわ」
大きな拍手に迎えられ、私はエレオス様の抱っこで中庭へ続く花のアーチをくぐって入場する。
会場にはステージがあり、家族全員でそこへ向かう。
まずはエレオス様が招待客へ私がプテリュクス家の正式な養女となったことを発表。
そのあと、お兄ちゃんたちが順番に並んで私に
「どんなことからも守り愛します」
「慈しみの心をもち愛します」
「最後まで信じ抜き愛します」
「幸せを分け合い愛します」
「全員で助け合い愛します」
とそれぞれ誓ってくれた。
なんて、なんて優しい誓いだろうか。私はまたうれし泣きだ。胸がいっぱいになって涙がぽろりと落ちた。
そんな私の涙を、同じく涙ぐんだカリダーデ様が優しくぬぐってくれる。
「女神の祝福に!」
「女神の祝福に!」
エレオス様の乾杯の音頭で食事のスタート。
会場が一気ににぎやかになった。
「エレオス!」
こちらへ向かって走ってきた大きな男の人の声にビクっとして、私は離乳食を口からこぼしてしまった。
「ヒーメロス!」
立ち上がったエレオス様がその大柄な男性とがしっと抱き合う。おお。エレオス様と同じくらい大きいぞ。カリダーデ様に口を拭いてもらいながら眺めていると「私の兄よ」とカリダーデ様が紹介してくれた。カリダーデ様にはお兄ちゃんがいたのか。
「来てくれたんだな」
「当たり前だ。プテリュクス家待望の女の子だ。駆けつけるに決まってる」
くるっとこちらを向いたヒーメロス様。エレオス様は熊みたいだけど、ヒーメロス様は整った顔立ちの男前だ。確かに目鼻立ちもカリダーデ様に似ているかもしれない。髪はカリダーデ様よりちょっと濃い金色で、瞳の色はカリダーデ様にそっくりの青。長い髪を三つ編みにして垂らしている。
「この子がアウローラか。手紙の通りきれいな子だ。よかったなカリダーデ。エレオスも」
「俺たちの自慢の娘だ」
「教会の鐘の音はこの子のためか?」
「ああ。女神の祝福だ」
「なんとまあ。今日は良き日だな」
「ありがとうございますお兄様」
カリダーデ様とヒーメロス様が抱き合う。
「カリダーデ。本当におめでとう」
「みんな今日は素晴らしい会に招いてくれてありがとう」
ちょっと年配の男女が近づいてきた。
「お父様。お母様」
カリダーデ様が抱き合って挨拶をする。
おお。おじいちゃんとおばあちゃんだね。カリダーデ様に雰囲気がよく似てる。
「ああ。なんてきれいな子なの……。おばあちゃまよ。抱っこさせてちょうだい」
おばあちゃんは涙ぐみながら私に手を伸ばしてくれる。
「うっうー」
「懐かしい。カリダーデの赤ちゃんの時を思い出しちゃうわ」
「私にも抱かせてくれ。アウローラ。おじいちゃんだよ」
おじいちゃんが焦って私に手を伸ばすがおばあちゃんは私をまだ抱いたままだ。
「もう少しお待ちくださいな」
「交代だ。交代」
「そんなに慌てないでください」
2人は私を奪い合う。やめてー。私のことでケンカしないでー。
「お父様、お母様も落ち着いてくださいな」
「そうだよ2人とも。久しぶりの赤ちゃんだからってケンカしないで」
カリダーデ様とヒーメロス様があきれたようにいう。
「今日からしばらくお2人は城に滞在するのでしょう?そんなに慌てなくても」
ヒーメロス様が私をおばあちゃんから取り上げた。
「私は明日帰るのですから、私を優先していただきたいですね」
「ヒーメロス!ずるいぞ!」
おじいちゃんの抗議にヒーメロス様は知らん顔。
「あー。女の子はやっぱり小さくてかわいいなぁ」
「あうー」
「うんうん。アウローラの伯父さんだよ。でもヒーメロス兄様と呼んでほしいなぁ」
ヒーメロス様の言葉を聞いたうちのお兄ちゃんたちが近づいてきた。
「伯父上。それは出来ません」
「そうです。まだ僕たちも兄様と呼んでもらっていません」
「おじうえが先はだめです」
「ぼくたちが先です」
口々に抗議するが、ごめんねお兄ちゃんたち。まだ全然しゃべられないんだよ私。
以前「アウローラの刺繍は誰が一番最初にもらうか」競争が勃発していたが、知らない間に「誰が一番最初に名前を呼ばれるか」競争まで始まってしまっていたのらしい。
「まあまあ。男性たちは競争が好きですねぇ」
一足先に「ママ」を獲得しているカリダーデ様は余裕の笑顔だった。母は強し。




