お買い物DAY
「はぷぅー」
いま私はメイドのアンナとカリダーデ様の2人にお世話されながらお風呂です。お風呂と言ってもたらいにお湯を張ってもらったものです。全身丸洗いされました。
やっぱりお風呂はいいね。自然と声が出ちゃう。シャワーを浴びる程度だとやっぱり疲れってとれないんだなとしみじみ。
「姫様、大人みたいな姿ですね」
「本当ね」
アンナとカリダーデ様はお湯に浸かってため息をつく私を見てくすくす笑っている。
アンナは黒髪をきっちりまとめているが、ふっくらとした優しそうな見た目の女性だ。なんとピスティスのお母さんだという。長くこのお屋敷に勤めていて、5人のお兄ちゃんたちもみんなアンナにお世話してもらっていたらしい。
「アウローラ、もう温まった?」
「あうー」
私はお湯をぱちゃぱちゃ叩いて遊ぶ。水面が揺れるのが妙に楽しい。
「あんまり長く入るとのぼせちゃうわよ」
「あうー」
ぱちゃぱちゃがやめられなくなっていた私をカリダーデ様が持ち上げたところに、アンナがささっとタオルを持って来て全身拭き拭き。素晴らしい連係プレイ。
「今日は古着で我慢してちょうだいね」
お兄ちゃんの誰かが使っていたんだろう寝巻を着せてもらう。古着でも柔らかくて着心地がいいので十分です。
「明日はあなたの物を買いに行きましょうね」
「奥様の念願の女の子ですものね」
「おほほほほ。もちろんしっかりとアウローラに似合うものを揃えてみせるわ」
2人から気合を感じる。
お風呂から出て寝室に連れて行ってもらう。涼しい風が気持ちいい。やっぱりちょっとのぼせてたみたい。
「姫様は本当にきれいな灰銀の瞳ですね」
「ほんと。私もここまで見事な灰銀色は見たことないわ」
ベビーベッドに座っていたら、じいっと2人に見つめられて、ぱちぱち瞬き。
そっか。この世界でも珍しい色なのか。鏡を見た時は私もびっくりしたもんなぁ。幻想的というか、生身の人間にしては浮世離れしてるというか。
「さあ姫様。お水を飲みましょう」
細い棒が刺さったコップを差し出された。
棒?
なんなのかわからず棒をツンツンしたら、「ストローですよ」とアンナが私の口に咥えさせる。
確かに中が空洞になっていて吸うことが出来る。なるほど。この世界のストローは木で出来てるんだな。
「そうそう。上手よ」
ストローで飲んだだけで褒められる生活、サイコーだ。
お水飲んでいたら、控えめなノックの音が聞こえた。
「あらあら」
カリダーデ様はノックの音だけで誰が来たのかわかったみたい。
アンナが扉を開けると、そこにはウラノスを先頭にお兄ちゃんたちが集まっている。
「母上、すみません。アウローラに寝る前の挨拶がしたくて来てしまいました」
ウラノスは顔を赤くしてもじもじしてる。
「まあ。それで全員来ちゃったのね」
「はい」
「いいわよ。入って。アウローラにお休みのキスを」
わーいと喜んで駆け込んできたのは双子のルーチェとルークス。
2人に左右からキスされる。
そして、ウラノス、シエル、ヒンメルにも順番に挨拶とキスをされた。
「おやすみアウローラ。また明日ね」
「あうー」
きちんとカリダーデ様とアンナにもご挨拶してお兄ちゃんたちが帰って行ったら次は入れ替わりでエレオス様がやって来た。
「まだアウローラは起きてるか?」
「ええ。まだ元気に起きてますよ」
「なんだ。夜更かしだな」
赤ちゃん初日、興奮して寝られないだけです。
アンナが洗濯物を持って部屋から下がると、エレオス様が私を高い高いする。
「アウローラ。パパだぞー」
「んぱー」
「惜しい。もうちょっと!」
「ダメですよ。ママが先ですよー。アウローラ。ママ。ママよ」
「まんまー」
「上手よアウローラ。ママともう一度」
「ままー」
「やったわ!娘が最初に呼んだのはママよ!!」
「ああ……めでたいな、カリダーデ」
エレオス様ががっくりと肩を落としていらっしゃる……。すみませんまだちゃんと喋れなくて。
「パパもあと少しなんだがなぁ」
「んぱー。んぷー」
パパって難しい。練習しなきゃ。
エレオス様は私とカリダーデ様にキスして「おやすみ」を言ってくれた。
私はベビーベッドに寝かされて、まだ起きていたかったのに布団をかけられたらすぐに眠ってしまったようだ。やっぱり赤ちゃんの体力って急に切れるんだなぁ。ぐぅ。
翌朝、私が目を覚ますとカリダーデ様がもう起きていて、着替えを終えるところだった。
なんだ。赤ちゃんになっちゃったの夢かと思ったけどちゃんとまだ続いてる。伸びをしながら横目でちらりと見ていたら、カリダーデ様と目が合った。
「アウローラ。起きたのね。おはよう」
「あううー」
今日も美人のカリダーデ様はすぐに私を抱き上げてくれた。
暖かくてほっとする。ほんと陽だまりみたいな人だ。
「顔を拭いて、寝癖を直しましょうね」
くすくす笑われる。
どうやら私の寝癖がすごいのらしい。
暖かいタオルで顔を拭いて、髪の毛を蒸らして大人しくさせてもらう。
どうせまだ短い髪だから、すぐ直るでしょう。
「お腹は減ったかしら?もうすぐ朝ご飯の時間よ」
「ううー!」
カリダーデ様は私の寝巻を脱がせて、昨日とは違う服を着せてくれた。お兄ちゃんのおさがりかな?動きやすいズボンで嬉しい。
「さあ、食堂に行きましょう」
「あう」
カリダーデ様の抱っこで食堂に向かった。
「おはようございます」
「ああ。カリダーデ。アウローラ。おはよう」
朝日の差し込む家族の使う食堂には、もうすでにエレオス様が座っていた。椅子から立ち上がると、カリダーデ様と私にキス。
うーん。キスは文化なんだろうけどまだ慣れないなぁ。
「息子たちが使っていた椅子なんだが、アウローラはここに大人しく座れるかな?」
「あう」
これでも中身は大人ですから。ご安心ください。
テーブル付きの椅子はカリダーデ様とエレオス様の間に置かれている。私はそこにちゃんと納まった。
「おはようございます!父上!母上!アウローラ!」
今日もウラノスを筆頭に、5人のお兄ちゃんたちが元気いっぱいに挨拶してくれる。もちろん全員とキス。うーん。やっぱり慣れない。照れくさい。
「アウローラ。おなか減ったー?」
「アウローラはなに食べるのー?」
双子が興味津々にテーブルに用意された離乳食を覗き込む。
「離乳食よ。すりつぶしたり柔らかくした野菜ね」
「えー!アウローラもうおやさい食べれるのー?」
「すごいねー。ぼくたちまだたべれないのに」
「食べられないじゃなくて、食べなさい。強くなれないぞ」
フッと笑ってエレオス様が双子を椅子に座らせる。
朝のお祈りの後に食事が始まるとさっそく離乳食を口に入れられる。
みんなの席にはスープと野菜とベーコン、目玉焼きにフルーツ。焼き立てパンは籠に山盛り。
あーん。私も早く普通の食事が食べたいよう。
離乳食も美味しいんだけどね。美味しいんだけども。あっちの方が輝いて見えるんだよね。くぅ。
「アウローラ。ほら、よそ見してないでちゃんとあーんして」
「あーむ」
むぐむぐ。今日も素材の味が生きてますね。美味しいです。
途中からあっという間に食事を終えたエレオス様がカリダーデ様と交代してくれた。
流石エレオス様。気遣いのできる男。
「母上。今日はアウローラと出かけると聞きました」
「そうよ。ちゃんとした女の子のお洋服を着せてあげたいの」
「僕たちも行きたいです」
「ダメよ。みんなそれぞれ今日の予定があるでしょ?」
ダメと言われて落ち込む上のお兄ちゃんたち3人。
「ぼくたちはきょうお休みだよー」
双子が手を挙げた。
「2人は今日お休みだから、シエルの魔法の練習が見たいって言ってたじゃない」
「でもー」
「2人に今日はコンフィアンスが魔法を教えてくれる予定だったんだがなぁ」
「えー!?」
おお、魔法の訓練。それは魅力的だろうな。
エレオス様の提案に、双子は目がきらきらしてる。
「今回は俺も行けないんだから、お前たちも諦めろ」
「はぁい」
双子たちはあっさり諦めた。さすが魔法。お買い物よりもそっちの方がいいよね。うんうん。
私はカリダーテ様に膝抱っこされながら、馬車に揺られております。
「ば!ば!」
「ええ。馬車よ。ばーしゃ」
カッポカッポ歩く馬の蹄の音や車輪のカラカラいう音が新鮮で、興奮しております。
馬車が通れるように広めに作ってる大通りをゆったりと進む。
「う!う!」
「お店がいっぱいあるでしょ?辺境伯領とは言っても大きな街なのよ」
私が窓を指さすと、カリダーデ様が「あれはパン屋さん」「あれはお菓子屋さん」と教えてくれる。
大通りは行き交う人が多くて活気があるように見えるし、道もゴミが落ちてなくてキレイ。きちんと管理されているのがわかる。
「姫様のお披露目会は盛大なものができるといいですね」
「そうね、プテリュクス家待望の女の子ですもの。ちゃんとお祝いしないと」
アンナとカリダーデ様が真剣に話し合ってるけど、お披露目会?そんなのあるの?
「お披露目会は城のみんなも楽しみにしてますのよ」
「そうね。最近はお祝い事が少なかったから」
「ええ。ええ。張り切って準備を進めておりますので奥様も楽しみになさってください」
アンナもニコニコだ。
「奥様。つきましたよ」
馬車が大きなお店の前に止まった。
「さあ、アウローラ。今日はゆっくりお買い物しましょうねー」
「あうー」
カリダーデ様に抱っこされて、私は子供服店に足を踏み入れたのであった。
「こちらのデザイン画、それと、これとこれ。あとこちらもお願いするわ」
ローテーブルに準備されたデザイン画集を見て、カリダーデ様がどんどん注文をするのでお店の人も印をつけるのが大変みたい。スタッフが4人も付きっきりである。
「靴も合わせて作ってください。でもこのデザインはだめよ。こちらの靴のほうが履きやすそうね。形はこれで、色違いでそれぞれ作ってくださいな。装飾はお任せします」
「畏まりました」
スタッフの一人はずっと速記のようにカリダーデ様の注文をメモしてデザイン画に張り付けていく。
私はというと、既製品の中からすぐに着れそうなものをアンナに選んでもらって着せ替え人形にされている。
「奥様―!天使がいますー」
はわわーという感じでアンナが特に気に入ったものをカリダーデ様に見せると、にっこり笑って「アンナに任せて正解ね」と購入決定である。すでに着せ替えになって10着目。靴下も、靴もだ。あとおしめも大量に。
さすがに買いすぎではないだろうか。いくら待望の女の子といえど、私は一人である。
きっとすぐにサイズが合わなくなるだろうにいいのだろうか。おしめは必要だと思うけど。
「あううーん」
「あら、アウローラ。飽きたのかしら?」
私はハイハイしてその場から逃げようとしたが、アンナに捕まってしまった。私のハイハイはポーズだけだ。まだ進めない。
「アンナが選んだものは包んで馬車へお願いね。オーダーはどれくらいで出来ますかしら?」
「3週間でお城へお届けいたします」
「ありがとう。では3週間後に届けて頂いた時に、お披露目会のドレスと息子たちの服もオーダーをしたいのでまたご相談させてくださいな」
「畏まりました。こちらこそありがとうございます」
店長さんとスタッフさん、これ以上ないくらいのお辞儀でお見送りしてくれた。
「さあ、次はおもちゃよ」
いやに大きな馬車で来た理由が分かった。私のお洋服たちがどんどん積み込まれてゆく。
「あううーん」
「息子たちのおもちゃは木剣や外遊びの物ばかりでつまらなかったのよ。お部屋にドールハウスを飾りたいわ。アウローラ。おままごとして遊びましょうね」
もうこうなったらカリダーテ様の「娘がいたらやりたかった夢」を叶えるしかないのである。
「う!う!」
私もとことんまで付き合いましょう!!
そうして私はカリダーデ様とアンナに連れまわされて馬車を買い物袋や箱でパンパンにし、お城へ帰るころには疲れ果てて眠っていたのであった。ぐぅ。




