雪の積もった日は
「あ、雪だ」
ヒンメルの声に窓を見ると雪がちらついています。
「去年より遅かったね」
シエルがカレンダーを見ながら教えてくれます。
異世界に来て、初めての雪です。
「ゆ!ゆ!」
「そうだよアウローラ。雪だよ」
ウラノスの抱っこで窓に近づくと、雪がちらちら舞っているのが見える。
「んぶー!」
「きれいだねー」
双子も窓に近づいて一緒に雪を見る。
今日は休日。
家族みんなでまったりとお昼を過ごしている。
前世ではあまり雪が降らない地域に住んでいたので、雪を見るとテンション上がったんだよねー。
積もるかなぁ?
「明日にはここが一面雪になるよ」
「おっお!」
北の領地は冬は雪に閉ざされるらしく、もう街の人たちも近くの村の人たちも冬ごもりの準備をすっかり済ませているのだそうだ。
今年はプテリュクス領の作物の収穫量が上がったり、ミルクの出がよかったので加工品の準備が早く済んで食料や燃料に関しては心配ないのらしい。
精霊王の祝福万歳だ。
街はこれからあまりにも雪が多い日はお店がお休みになるところも多いので、人通りも少なくなって寂しくなるみたい。
無理して営業しないスタイル、いいと思います。
前世では雪とか台風で電車が止まっても会社休みにならなかったもんなぁ……。
「アウローラ」
遠い目をしていたらカリダーデ様に呼ばれる。
「ほら。みんなの靴下ができましたよ」
「きゃー」
みんなにお揃いの靴下を編んでくれていたカリダーデ様。
それぞれに名前の刺繍が入っていて可愛い。
私はぱちぱち拍手して喜ぶ。
「ありがとうございます、母上」
お兄ちゃんたちも嬉しそう。
みんなで履いて見せあう。靴下もみんなもあったかくて幸せだ。
「じゃあ、さっそく新しい靴下で歩く練習をしようか」
「あうー」
ふかふかマットの上に降ろされた私は、手先の器用な騎士さんが薪割のついでに作ってくれた手押し車を押して端から端まで歩く。
ふぅ。
足がちゃんと左右スムーズにまだ動かせないんだよね。
よいしょ、よいしょ。
「アウローラ、じょうずだねー」
双子が折り返し地点で待っててくれてハグとキス。
そして反対に向かって手押し車と体を方向転換させてくれる。
「さあ、今度はこっちだよ」
パチパチと手を叩くシエルとヒンメルのいる場所に向かって歩く。
よいしょ、よいしょ。
「頑張ったね」
ヒンメルとシエルにもハグとキス。
今度はくるっとウラノスの方へ。
「こっちだアウローラ」
よいしょ。よいしょ。
ぽてん。
「あうーん」
お尻ついちゃった。
「アウローラ。大丈夫だよ。ゆっくりでいいからね」
「あう」
私はぐっと力を入れて立ち上がり、手押し車の持ち手を再度握る。
よいしょ、よいしょ。
「アウローラ!頑張ったね!えらいよ」
ゴールにいたウラノスにハグとキスされてふぅっと一息。
「お前たち、いつもこんな風に歩く練習させてるのか?」
「そうです」
エレオス様に笑顔のお兄ちゃんたちが返事する。
「道理で立つのも歩くのも早いと思ってたんだ」
「手押し車を気に入ってるので、アウローラは歩く練習が好きなようです」
「そうかそうか。アウローラはがんばり屋だな」
お仕事で忙しいエレオス様はあんまり私にかかりっきりじゃないから、会うたびに成長している私にびっくりしてたもんね。
「本当。赤ちゃんの成長スピードって何度見ても驚くわ」
嬉しそうにカリダーデ様が微笑む。
カリダーデ様も最近は領主の奥さんとしての仕事をする時間を以前のように戻したらしく忙しい。それも私が大きくなってアンナに安心して私を任せられるようになったからみたい。
「さあ、少し休憩しなさいな」
カリダーデ様が適温に冷ましたミルクの入ったコップを手渡してくれる。
「あうー」
ごくごくとそれを両手に掴んで飲む。
ちょっと前からストローじゃなくて、コップでそのまま飲むようになったんだよ。これは地味に嬉しい。
みんなも椅子に座って紅茶を飲んでいる。
茶葉とシナモンのいい香りがするんだよねぇ。私も早く飲めるようになりたいな。
ぴすぴすと鼻を動かしていたのがばれたらしく、ヒンメルに笑われる。
「アウローラは食いしん坊だ」
「そうだよね。僕らが食べてるものなんでも食べたそうにしてる」
ぎく
バレてたか。
結構食べられるものが増えてきたので余計に食べたくなるんだよね。
パンも本当はパン粥から始めたかったと言われたが、エレオス様の食べてるパンちぎって勝手に食べちゃったもんね。それでもお腹壊さなかったので、今はちょっとだけパンも食べさせてもらってる。
「あら。赤ちゃんってこんな感じよ。それにアウローラは何でも好き嫌いがなく食べてくれるから楽なのよ」
カリダーデ様が嬉しそうに言う。
双子が気まずそう。2人とも野菜が苦手だもんね。
「お野菜、がんばって食べます」
しょんぼりとしてるけど、2人とも美味しく食べられるようになるといいね。
「アウローラ。雪が積もったわよ」
翌日はウラノスがいった通りに雪がしっかり積もっていた。
私は起きて一番にカリダーデ様の抱っこで外の景色を見せてもらった。
「わーう」
「ええ。わーうね」
カリダーデ様がくすくす笑う。
「今日は朝ご飯を食べたら訓練場に行きましょうね」
「うぶー?」
寒くなってから屋外の訓練場には連れて行ってもらってない。久しぶりだけど何かあるのかな?
「さあ。そうと決まれば朝の支度よ」
私はささっと身支度を整えてもらって食堂へと運ばれた。
朝ご飯を食べていても、どうもお兄ちゃんたちソワソワしてるみたい。
「ルーチェ、ルークス。ちゃんと噛んで食べなさい。雪は逃げませんよ」
「でも……」
「あんまり急ぐとお腹が痛くなりますからね」
「はい、ははうえ」
それでも野菜をかきこむスピードが速い。
なんだか私もつられてソワソワしちゃって、麺を勢いよく啜った。
「アウローラも。急がなくていいわよ」
「あーう」
怒られちゃった。
食後にちょっと休憩してから、カリダーデ様に連れられてもう一度着替え。
冬のお洋服でむくむくになって、帽子と手袋、マフラーとブーツを装着していざお外へ。
「あーうー」
「寒いわねぇ」
外はキラキラのパウダースノーが積もってる。
「きゃーう!」
雪を指さしたら、カリダーデ様がちょっとこんもり積もってるところに私を座らせてくれた。
「きゃー!!」
「冷たいわね。これが雪よ。ゆーき」
「ゆ!ゆ!」
「そうそう。雪ですよ」
私は手袋越しに雪を掴んでばっと上に投げた。
キラキラの雪が舞ってきれいだ。楽しい!
その場で遊んでいたら、訓練場の方から楽しそうな声が聞こえてきた。
「うー?」
「ふふふ。アウローラに見せたいのはあっちよ。行きましょう」
抱っこで運ばれた先、訓練場ではたくさんの子供たちが集まっていた。
だいたい小姓よりも小さい子たちが多い印象だ。
「初雪の日の翌日はね、朝から街の子供たちに訓練場を解放してるの」
「わーう!」
こちらの世界へ来てから初めてこんなにたくさんの子供たちがいるところを見た!
「みんなで雪遊びするのが恒例なのよ」
「きゃー」
私がじたばたしていたら、ルークスとルーチェが走ってきた。
「アウローラ!」
「うー」
「寒くない?だいじょうぶ?」
「あう!」
「アウローラに見てほしいものがあるんだ!早く早く!」
双子の案内で訓練場からちょっと離れたところにある小さな丸太小屋に連れていかれた。
「おう、アウローラ」
なにがあるのかと思ったら、小屋からエレオス様と狼姿のファイルーズが出てきた。
「あーう!あーう!」
久しぶりの狼姿のファイルーズは毛並みがもこもこで冬毛に変わったのがよくわかる。
真っ白な毛並みが雪に溶けてトルコ石みたいな目が際立ってる。きれいだな。
私はカリダーデ様に降ろしてもらってお座りするファイルーズに抱きついた。はふぅ。気持ちいい。
「エレオス様、完成しましたの?」
「勿論。今日に合わせて準備してたからな」
エレオス様は小屋の裏手に回って、ズルズルと何かを引きずって戻ってきた。
「アウローラへのプレゼントだ」
「うー?」
「なんだ?わからんか?」
木でできたこの形は……。
「そりだよ。ほら、ここをファイルーズにつけて……」
エレオス様は小さなそりの前に繋がっている革ひもをファイルーズの体に装着する。
「ほら!乗ってみろ」
「きゃーう!」
エレオス様にソリの後ろに乗せてもらって騒ぐ私。
なんだこれは!?犬ぞりって夢のようではないか!!
「ほら!ファイルーズ行け!」
「わふ!」
「きゃーーーーう!!」
ファイルーズ1人だけどすごいパワー!私を乗せてぐんぐん走る。
あっという間にお城の近くへ到着。
「あ。アウローラ」
「にーにー」
ヒンメルとシエルがお城から出てくるところだった。
「よかったな。ファイルーズに遊んでもらって」
「うー!」
「落っこちないようにちゃんと捕まってるんだよ」
「あうー!」
2人に見送られて、ファイルーズはまた訓練場に向かって走り出した。
なんだこれ!本当に楽しすぎる!!
真っ白な地面にぐんぐん流れていく景色。
私はよだれが垂れるほど笑ってそのスピードを楽しんだ。
前世でもジェットコースター大好きだったんだよねぇ。
それより地面すれすれに低くてスピードがあるように感じるからスリル満点だ。
「あらあら。アウローラったら」
スタート地点に戻ってカリダーデ様によだれを拭いてもらう。
「うぶ」
「楽しかったみたいね」
「あーう!」
じたばた暴れて全身で喜びを表現しておいた。
そのあとは着替えたファイルーズにお兄ちゃんたちも加わって、雪で存分に遊び倒した。
初めて会う自分と同じくらいの子供たちと遊ぶのも楽しかった。
荷物を運ぶためのとっても大きな馬たちがつけたそりにみんなで乗って、馬場をゆっくり走ってもらったのもよかった。
ここでも馬に囲まれてハミハミされて、一緒にいた小さい子たちがキャーキャー泣いてたけど。
食べられると思ったみたい。
それを見た子たちはみんなびくびくしてたけど、乗ってしまえば楽しそうだった。
雪だるま作ったり、訓練で慣れてる騎士さんが作ったかまくらにみんなで入ってお人形遊びもした。
今日は騎士さんたちも大半はお休みで、当番の人たちが子供たちの面倒を見てるのらしい。
ちなみに、小さな子供のいる騎士さんたちはお休みだけど子供を連れて遊びに来てる。お父さんの職場見学をさせているみたい。
こうやって小さな頃から騎士が身近な存在であると示してみんなに親しみを持ってもらいやすくするのも大切な教育らしい。
「だーう」
「あぶー」
「あっばっばー」
「きゃー」
残念なことに、私は赤ちゃんなのに赤ちゃんの言葉が分からないということだけは分かった。
「姫様」
かまくらにファイルーズが入ってきた。
「少し休憩しましょう。顔が赤くなってる」
ファイルーズに抱っこされてかまくらを出ると、ちょっと私よりも大きい子たちに囲まれた。
「ファイルーズさま、その子だれー?」
「しらないこだー」
「はじめましての子だー」
ファイルーズの足元からじっと見つめられる。
「プテリュクスの大事な大事な姫様だよ」
「あ!ぼくしってるよ!あうろーらひめでしょ?」
「わー!ほんもののおひめさま!」
「かわいいねー」
どんどん子どもたちがキャーキャー言って集まってくる。
「おひめさま!ぼくきしだんにはいっておとうさんみたいなきしになるんだ!」
「ぼくもー!」
「あたしはおしろではたらきたいの!」
「おまえ、ファイルーズさま好きだもんな!」
「きゃあ!なにいうのよ!!」
女の子が真っ赤になる。
聞けばファイルーズは獣人で初めての騎士見習い、しかも美少年ということで子供たちの人気者らしい。
「ファイルーズさまが前に言ってた大切な人って、そのおひめさまのこと?」
「そうだよ。私の命より大切な人だよ」
「きゃー!!」
女の子たちがきゃあきゃあと喜ぶ。
また女の子が喜びそうなことを。
ファイルーズってば女ったらしでは……?
「姫様。私がこんなことを言うのは姫様だけですよ?」
やっぱり女ったらし……。
真っ赤になった顔をみたお兄ちゃんたちにもくすくす笑われてしまったのでした。




