精霊のイタズラ???
「あうー」
私は手づかみでマカロニを口に入れて、もっちもっちと咀嚼しております。
食べてもいいものが増えて毎回のお食事が楽しみです。
「アウローラ、上手よ」
口と手をべたべたにしても褒められる。ここは天国か。
よだれを拭いてもらいながら、私は幸せとマカロニをかみしめております。
手で食べるのも食事に興味がでてきたとか、自分でやりたい欲求がでてきたという成長の証らしく、5人も子育てしてきたカリダーデ様にとっては何のこともない赤ちゃんの行動なので暖かく見守ってもらってます。
「アウローラはいつも美味しそうに食べるね」
「うんぶー」
シエルににっこりと微笑まれて私も笑う。
だって美味しいですよ、おうちのご飯。厨房のみんなが一生懸命工夫して作ってくれてるの知ってるからね。
お腹がいっぱいになったらちょっと休憩して、みんなに遊んでもらって、お風呂に入って今日も幸せな一日が終わる。
「おやすみなさい、アウローラ」
「あうあう~」
カリダーデ様、今日はまだやらなくてはいけないことが終わってなかったみたいで、私をベッドに寝かせて部屋を暗くしたがデスクのランプを付けて書類仕事をしている。
横を向くとカリダーデ様の手元を照らすほのかなランプの明り、規則正しいカリカリいうペンの音が聞こえてくる。ほっこりする気持ちで眺める。そして暖炉の薪がぱちぱちいう音にだんだんと瞼が重くなってくる。
私はしばらくうつらうつらとしながら自分の足先をいじったりして一人遊びで過ごしていたが、いつの間にか眠っていた。ぐぅ。
アウローラ。
アウローラってば。
んえ?
ひそひそとささやくような声が聞こえてきて目が覚めた。
まだ部屋は真っ暗だし、カリダーデ様だってもう眠ってる。こんな時間にどうして起こされたのかな?
私は目をぐしぐしこすって体を起こした。
アウローラ。
アウローラ起きた?
今度はささやき声だったものがはっきり聞こえた。
そしてベビーベッドの周りを金平糖みたいにいろんな色のチカチカ輝く星が無数に囲んでいるのが見えた。
「うきゃ!」
しー。
アウローラしー。
静かにと言われて口を抑えたが、私の声に反応したカリダーデ様がさっと目を覚まして私に駆け寄ってくる。
「アウローラ!」
あーあ。
起きちゃったね。
アウローラまたね。
カリダーデ様が私を抱き上げると声と光はすっと消えてしまった。
「今のは……精霊?」
「あーう」
「何か言われた?」
「うんぶんぶー」
私は首を振って否定する。特に何を言われたわけじゃなくて、起きてって言われただけだもんね。
「そう……。今日はもう帰ったみたいだから安心して眠って」
「あーぶ」
くわっとあくびするとカリダーデ様がベッドにゆっくりと寝かせてくれる。
「おやすみなさい、アウローラ」
「おっおー」
私は深く考えずにカリダーデ様にバイバイと手を振ってまた眠ったのでした。ぐぅ。
どさー
大きな音に目が覚めた。
なにかが滑り落ちたような音だ。
「おはよう、アウローラ。寝たりないのではなくて?」
起き上がると笑顔のカリダーデ様から1日が始まる。
最高の目覚めだ。
「あうー」
「ええ。雪が落ちた音よ」
窓の外を指さすと、カリダーデ様が抱っこで連れて行ってくれる。
「雪、たくさんでしょ?」
「うー」
今日も窓の外は一面の銀世界だ。
とんがり屋根から積もった雪が落ちたのかな?それとも木の枝に積もった雪が落ちたのかな?ここから見える街の大きな建物は屋根の色だけがはっきり見えてる。
「さあ、アウローラ。今日も素敵な一日を過ごしましょうね」
「うっうっうー」
「父上。母上。アウローラ。おはようございます」
「みんなおはよう」
「おっおー」
「アウローラは今日もかわいいね」
「うんぶー」
今日もお兄ちゃんたちの溺愛ありがとうございます。お兄ちゃんたちもかっこいいですよ。
ぺこりと頭を下げる。
柔らかいお芋をもっちもっちと手づかみで食べていたら、「今朝はまず雪かきだな」と外を見ながらエレオス様が呟いた。
「ちちうえ!ぼくたちもさんかしたいです!」
双子が手を上げる。
「そうかそうか。参加するものは多いほうがいい。自分でできることを見つけてしっかりやるんだぞ」
「はい!」
参加を許されて双子は嬉しそうに顔を見合わせて笑っている。
「うっうー」
私も両手を上げて参加したいと言ってみたが、「アウローラはお留守番だな」と言われてしまった。
まあ、足手まといですものね。はい。
「アウローラ。その代わり今日はドレスのサイズ直しをしましょうね」
「うー」
私のお誕生日の凍星の日はもうすぐ。
そのため作ってもらったドレスのサイズをちょっと直してもらうことになったのだ。赤ちゃんってすごい勢いで大きくなるからね。ちゃんと成長してるって言われてるみたいで嬉しい。
「アウローラの分もがんばってくるからね」
「アウローラはあたたかいお部屋で待っててね」
「終わったら呼びに来るからね」
「あうー」
お兄ちゃんたちは食事を終えると挨拶をして食堂から出て行ってしまった。
私はちょっとしょんぼりしながら手と顔をカリダーデ様に拭いてもらう。
「アウローラはお兄様たちと遊ぶのが大好きね」
「あう!にーにー」
「ふふふ。サイズを計ったら遊びに行ってもいいですからね」
「うっうー」
カリダーデ様とアンナの2人に体のあちこちサイズを計ってもらって疲れた私は、若いメイドのキアラに抱っこされて気分転換に窓の外を見ている。
キアラは背が高く、ウェーブのかかった柔らかい茶色の髪をまとめてお団子にしている女性だ。
落ち着いた声をしていて、キアラに話しかけられるのは心地よい。絵本を読んでもらうとすぐに寝ちゃう。
なので最近は忙しいカリダーデ様に代わって、アンナとキアラに面倒をみてもらうことも増えた。
「姫様、見えますか?ルークス様とルーチェ様が手を振っていらっしゃいますよ」
「うー」
雪かきを手伝っているルーチェとルークスがこちらに気が付いて手を振ってくれる。2人は雪を運ぶ仕事をしているみたい。
ちいさなそりに雪を乗せて2人で一生懸命運んでいるのが見えた。
2人はそばにいた誰かに声をかけて手招きする。
すぐにファイルーズがやって来て、こちらを見上げ手を振ってくれた。
相変わらずキラキラしい見た目をしておられる。雪に反射して白髪が輝いてるんだよねぇ。きれいな人だ。
「そうか。精霊が……」
テーブルではエレオス様とカリダーデ様がむずかしい顔して話しあっている。
昨日の夜に現れた光の粒、精霊のことみたい。
「私は精霊がアウローラを攫いに来たのではないかと心配です」
「しかし、アウローラが結んだ『約束』には期限がないぞ?アウローラがルーフルクドゥス王の奥方に会いたいと思った時に果たされるものだ。勝手には連れて行かんだろう」
「精霊の愛し子ですもの。精霊の遊び相手に選ばれることもあると聞きますし……」
「ふむ。カリダーデの心配する気持ちはわかる。愛し子が精霊に攫われて何年も返ってこなかったなんてことも聞くからな」
え?
何年も帰ってこなかった??
どゆこと?
「気休めかもしれんが、今日にも結界師に精霊除けを頼んでおこう」
「ありがとうございます」
エレオス様の言葉に、カリダーデ様が少しホッとした顔をする。
「奥様。私もキアラも夜の間は控えておりますのでご安心ください」
アンナとキアラがきりりとした顔をして頭を下げた。
「2人がいてくれたら頼もしいわ」
「お任せください」
こんなに心配されるくらいだから、めちゃくちゃ怖いことが起こってしまうのでは……?
私はちょっと震えた。
「アウローラ。雪かきがおわったから遊びに行こう!」
そこへ、ルークスとルーチェ、ファイルーズが真っ赤な顔して迎えに来てくれた。
随分急いで呼びに来てくれたみたい。
「あうぶぶぶー」
「アウローラ。上着を着てから行きましょうね」
「あう!」
双子とファイルーズと4人で雪玉を投げたり、仲良くかまくらでお人形遊びをしたり、そりで走り回ったりと、雪遊びで体力を使い果たしたころにはすっかり精霊のことなんて私の頭からすっぽり抜けてきれいさっぱり消えてしまっていた。
ほら、赤ちゃんって1つのことしか考えてないから。
むずかしいこと考えていられないから。
疲れ果てて眠くって、ご飯も半分眠りながら食べて、お風呂は完全に寝てたから覚えてない。
いまは湯たんぽで温めてもらってたお布団に入ってすっかり寝てます。ぐぅ。
アウローラ。
アウローラ起きて。
アウローラ遊ぼうよ。
ざわざわとした気配がする。
アウローラ。
アウローラは寝坊助だ。
アウローラは精霊王のお気に入り。
アウローラは僕らとニンゲンをつなぐ扉。
しばらく無視していたのに口々に話しかけられて、私はむっとしながら薄目を開ける。
「うんぶー!!」
うるさい!!まぶしい!!こっちは寝てるんだぞ!!
大声で叫んだ。
「アウローラ!」
「姫様!」
駆け寄ってきたカリダーデ様が私を抱きあげる。
キアラが厚手の皮手袋を付けた両手で光をわしっと一掴みに握った。
ぎゃあ!!
放せ放せ!!
「キアラ!」
アンナが手持ちのオイルランプの扉を開けて差し出すと、キアラは手の中の光をランプの中に突っ込んで慌てて扉を閉めた。
「ふぅ……」
全員がほっと一息ついたが、私は訳が分からなかった。
「うぶー?」
「よかったわ、アウローラ」
カリダーデ様にきゅうっと抱きしめられた。
ランプの中では虫かごの中の蛍みたいに光がいくつも瞬いてる。
「精霊じゃなくて、妖精のいたずらだったか」
「はい。念のため妖精の捕獲セットを騎士団から借りていてよかったです」
騒ぎを聞きつけてやって来たエレオス様に、ランプを手渡しながらキアラがほっと溜息をつく。
妖精の捕獲セットってあるんだ……。やっぱり蛍みたい。
「よくやった。キアラもアンナも大したものだ」
「ありがとうございます」
「やはりルーフルクドゥス王の加護として付けてもらった精霊がアウローラを勝手に連れていくとは思えなかったが妖精か」
頭の高さまで掲げたランプの中をじっと見つめるエレオス様。
光はぶんぶん飛び回っている。
「妖精だったのなら納得だが、これはこれで問題だな」
「そうですね。その辺に放り出すわけにもいきませんものね」
カリダーデ様も困り顔だ。
どうやら精霊と妖精とは違う存在のようだ。
「うーん。やはり返しに行くしかないな」
「うー?」
どこに返しに行くの?
「ルーフルクドゥス王の所へ返しに行くんだ。せっかくだし、アウローラを連れて奥方にご挨拶に行くにもちょうどいいのかもしれん」
「まあ!冬に赤子を連れて精霊の森に入るなんてとんでもない!」
私の頭を撫でながら言うエレオス様に、アンナがぷりぷり怒る。
「もちろん春になってからだ。それまでは研究室で封印しておけばいいだろう」
「そうですね」
カリダーデ様も同意する。
「なあ、アウローラ。パパがついていくから一緒に奥方のいらっしゃる森に行こうな」
「あうー!」
行くー!
私の手がカッと光った。
「あ」
エレオス様の間の抜けた声。
「しまった!アウローラ!!」
「アウローラ!」
「姫様!!」
私の体は全身真っ白な光に包まれて、抱っこしてくれてるはずのカリダーデ様の手も感じられなくなる。
「あうー!!」
まぶちい!!
「アウローラ!必ず迎えに行く!!心配するな!!」
「アウローラ!!泣かないで待っていて!!」
「姫様!!すぐにお助けいたしますから!!」
「姫様!!」
みんなが口々に叫んでいるが、私の意識はどんどん光に飲み込まれて薄れていく。
お腹の中で誰かが暴れてる。
熱い!
思わずぐっと目を閉じる。
そして、光も熱さも感じなくなったところで目を開けたんだけど、私はひとりぼっちで何もない宇宙空間みたいなところに立っていたのでした。
ココドコー?




