お誕生日決定
エレオス様たち騎士団のみんながゴブリンの討伐から戻って3日が経ちました。
私はまだエレオス様に甘えるモード発揮中のため、執務室にこもっているエレオス様のお膝抱っこで一緒に書類を眺めております。
「エレオス様。やはり姫様がいると書類仕事がはかどりますね」
「うむ。遊ぶ時間を作ってやらんとと思うと自然と集中できているようだ。あと癒される」
「そうですね。我々も見ていて癒されております」
ピスティスがエレオス様の「処理済み箱」から書類をとって確認しながら仕分けする。
「姫様にはこれからも定期的に執務室に通っていただきたいです」
書類がきちんとできているのを確認してほくほく顔のピスティス。
「そうだな。執務室にもアウローラのベッドを置こう」
エレオス様。書類を見ながら真剣なお顔で提案されていますが、このシンプルな執務室に私の赤ちゃんベッドは似合わないですよ。
眠くなったらお兄ちゃんたちに連れて行ってもらってお昼寝するので大丈夫です。
窓の外からは騎士団のみんなが訓練している声が聞こえてくる。
お兄ちゃんたちもいま訓練中かな?
「やはり、ルーフルクドゥス王が来られてからこっち、皆の魔法の威力が高くなっているのは間違いないな」
書類を見ながらエレオス様がむずかしい顔をしている。
「ええ。精霊王様がいらっしゃってからです。姫様に授けて頂いたご加護の影響かと思われます。騎士の魔法も強くなっています」
「領内にいる精霊の数が増えたからか」
「そう思います。プテリュクスの敷地内にある村々にもいい影響がありましたから」
「生産量の増加か」
「はい。例年より高いところで20%ほど増加しております。狩りの成果も高いようですね」
ピスティスが書類をエレオス様の机に並べる。
「冬を迎える前にありがたいことだ」
ありがたいと言いつつも、エレオス様は難しい顔のままだ。
「あーう?」
私が首をかしげると、エレオス様は頭を撫でてくれる。
「すべてはバランスなんだよ、アウローラ。こちらが豊かになれば、どこかで貧しくなる場所が出るかもしれない。森からの恵みが増えれば冬に枯渇した魔物から襲撃を受ける可能性も増える。反対に恵みが減っても知能の高い魔物に付け入られることになる」
単純にプテリュクス領が栄えるのがいいことではないということか。
「今回の場合は一時的なものか、それとも永続的なものかはわからんがな。ルーフルクドゥス王のイタズラにも困ったもんだ」
「そうですねぇ。いつも私たちが困ることを見越してやってらっしゃいますからね」
「困ってるところを見るのが楽しんだろうな」
わははっとエレオス様が笑う。
「アウローラは多くの祝福を受けているようだから、これからもこういうことがあるかもしれんな」
「そうですね」
2人はのほほんとしているが、大丈夫なんだろうか私の大盛り転生オプション。人に影響与えまくりなのでは?
「わっはっは。そんなにも不安そうな顔をするものではないよ、アウローラ」
「うんぶー」
「お前は受けたものをありがたく享受すればいい。全てを楽しみとしなさい。子供のことは親が、周りの大人が守るんだからな」
「あうー」
心強い言葉をもらった私は安心して手を挙げて喜んだのであった。
しばらくエレオス様とピスティスが使うペンのカリカリいう音を聞いて微睡んでいたが、ドアをノックする音で目が覚めた。
「なんだ。もう昼か」
ワゴンを押しながらカリダーデ様が部屋へ入ってくる。
「はい。ピスティスの分も持ってきたから一緒にどうぞ」
「奥方様。ありがとうございます」
ピスティスはカリダーデ様が運んできたワゴンから配膳を手伝った。
「さあ、おなか減ったでしょ。アウローラ」
「あうー」
私はカリダーデ様に抱っこされて、ぱちぱち手を叩いてご飯を称える。
いつも美味しいご飯をありがとうございます。
「アウローラ、食べる量が増えたわね」
「うぶー」
「それはいいことだな」
「ええ。体も大きくなっていますし、ちょっと重くなってきました」
カリダーデ様がおかゆをゆっくりと口に入れてくれる。
確かに、前よりも食べさせてもらってる量が増えてるかも。もぐもぐ。
「順調順調。そのまま大きくなれよ、アウローラ」
「あうー」
「大きくなるといえば、エレオス様」
「なんだ?」
「アウローラの年なんですけど」
「うん?」
「だいたいこのくらいだと生後半年は過ぎてると思うのですが、正確に生まれた日がわかりませんでしょ?もういっそのこと私たちで誕生日を決めるのはいかがでしょうか」
「あー、そうだったそうだった」
エレオス様はうっかりしていたとばかりにおでこをぴしゃりと叩いた。
「候補はあるのかな?」
「勿論です。当ててみてください」
にこりと笑うカリダーデ様に、エレオス様がにやりと笑った。
「カリダーデが考えるとしたら、凍星の日か?」
「正解です。流石エレオス様」
エレオス様の口癖の「流石」を使って喜ぶカリダーデ様。
仲のいい夫婦です。
「いいじゃないか。アウローラの名にピッタリだ。成長を考えてもちょうどその頃1歳になるくらいじゃないか?」
「そうなんです。もうぴったりだと思ってしまって」
ふふふっとかわいらしく笑うカリダーデ様。
「では、アウローラの誕生日は寒来月の30日。凍星の日に決定だ」
「ありがとうございます」
やった。お誕生日がもらえたみたい。
「よかったわね、アウローラ。凍星の日はとても縁起のいい日なのよ。凍てつくような寒い日なんだけど、とってもきれいなお星様が見られるの。お誕生日会をして、みんなでお星様を見に行きましょうね」
「あうー!」
みんなでお星様を見る日!なんて楽しそうなんだろう。
その日はカリダーデ様がどんなにプテリュクス領の人が凍星の日を心待ちにしているか。夜も街では屋台が出ていること。みんなで丘に登って毛布にくるまり星を見るのがどんなに楽しいのか。オーロラがかかった夜空が本当に大好きなこと。そんな話を聞きながらお昼寝をしたのでした。
うーん。楽しみすぎる。
カリダーデ様の抱っこで剣の訓練を見に来ました。
ここでは小姓と騎士見習いと分かれて訓練してるみたい。
ガツガツと木剣を打ち合う音が絶え間なく聞こえてくる。
白熱してる様子に私もじわっと手に汗をかく。
「では、10分休憩」
監督の声に、訓練中に私を見つけたウラノス、シエル、ファイルーズが見学席に走ってきた。
「母上!アウローラ」
「今日も調子がいいようですね」
「はい!母上」
「ありがとうございます」
ウラノスたちは見学に来てくれたカリダーデ様に褒められて嬉しそうにしている。
確かにとてもいい動きをしていた。
特にファイルーズは大人の騎士と打ち合っていて、同じ騎士見習いの中でも頭一つ分くらい抜けている感じだ。
「奥様!姫様!」
「あうー」
久しぶりのコンフィアンスだ。大きく手を振って走ってくる様子が子犬のようでかわいい。
「ようこそいらっしゃいました。どうですか?剣術は見ていて楽しいですか?」
「あう!あう!」
私はじたばたと喜びの舞で楽しさを表現した。
「よかった。では次は馬場で槍術を見学しませんか?」
「うんぶー!」
お馬さん見たい!
「ご案内します」
カリダーデ様の膝の上でじたばたと暴れる私。それを見て嬉しそうにコンフィアンスが案内してくれる。
私はお兄ちゃんたちにバイバイをして、馬場に向かった。
「今日は10人の小姓が乗馬訓練をしています」
「うぶー」
広い馬場にきれいなお馬さん!おっきいなぁ。
艶々と輝く毛並み。走ると風になびく鬣としっぽ。
かわいいなぁ。触りたいなぁ。
茶色の子、黒色の子、ちょっと薄茶の子。たくさんいる。
「ここは基本的に小姓のための練習場になっていますので、優しくて小柄な馬が多いです」
小柄?十分大きいお馬さんだけどな。
子どもの乗馬の訓練だからか。
でも、あの子、なんか遠いのに大きくない?
私は遠くにいるはずの真っ黒な馬をじっと見た。
あの子、遠近感がおかしくなるくらい大きいんだけど。
あれ?近づいてきてない?
遠くから、「うわー!」とか「離れろー!」とか声が聞こえてくるんだけど?
だ、大丈夫?
あれ危ないんじゃない?
めっちゃ大きくてムキムキの馬がこっちに向かってきてる?
「あ!クリノーク号がまた脱走してる!奥様!逃げてください!!」
え?え?逃げろ?
コンフィアンスの声よりも早くカリダーデ様は私を強く抱きしめて走り出していた。
私が訳が分からずまだ戸惑っているのにカリダーデ様ってば行動が早い!!
カリダーデ様の肩越しにコンフィアンスが段々と近づいてくるクリノーク号に向かっていくつも水魔法をぶつけているのが見えたが、クリノーク号は走るのを止めない。
そのまま馬場の柵を破壊しても止まらない!!
もうダメだ!追いつかれる!と目をつぶる瞬間、白いものが私たちとクリノーク号の間に割り込んできた。
「ヒヒーーーン!!」
クリノーク号のいななき。
ズドンという大きな音と土煙。
……静かになった?
「姫様!奥様!」
コンフィアンスが駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか?」
「ええ。大丈夫よ。防御魔法をありがとう」
カリダーデ様は落ち着いて答える。
「アウローラ、怪我はない?」
「あうー」
私は大丈夫だけど、誰かが助けてくれたよ。
土煙が薄れてゆくと共に、倒れた黒い塊と白いモコモコが見えた。
「あうー?」
「アオーン」
ファイルーズが狼の姿で私たちの間に割り込んでくれたんだ!
「あう!あう!」
ファイルーズ怪我してない?
「わふ」
「あうー!」
ありがとねぇ!!ありがとねぇ!!
私はカリダーデ様に地面に降ろしてもらってファイルーズに抱きついた。
ファイルーズ!ありがとう!でも危ないことしないで!
「わふ」
私は助かったのとファイルーズが危なかったかもしれないというので感情がぐちゃぐちゃになって泣いた。
そして、カリダーデ様に言われるまで、自分が2歩ほど歩いたのは気づいていなかったのでした。
「そうか。それでファイルーズは頭を怪我したのか」
「ええ。なんとか体当たりをと思ったのですが、頭突きになってしまって」
夕食の時間、今日はファイルーズが一緒にご飯を食べている。
念のためにとファイルーズの頭には包帯で冷やしたタオルが巻かれている。たんこぶがすごいのだ。
離れていたのに訓練場から異変を感じたファイルーズは狼の姿で飛び出して来てくれて、とっさに私たちを守ろうとクリノーク号に体当たりを、いや、頭突きをして止めてくれた。
そして、目を回したクリノーク号が倒れ、ファイルーズも私たちの無事を確認したあと気絶したのだ。
「カリダーデとアウローラを守ってくれてありがとう」
「いえ、コンフィアンスさんが防御魔法をかけていましたので私が飛び出さなくても奥様と姫様は無事だったと思います」
「それでも、お前の志に感謝しているよ」
「もったいないお言葉です」
「それにしてもクリノーク号は何故あんなに暴れたのかな?」
「姫様が来たのを聞いて興奮したようですよ」
シエルの言葉にファイルーズが答える。
「ええ?」
「姫様にあとで謝っていたそうです。フェイマー達に灰銀色の姫を乗せたと散々自慢されていて、自分達には全然会いに来てくれないと不満が溜まっていたようですね」
「フェイマーと軍馬にそんなマウント合戦が……」
「そういえば馬たちに挨拶してないね、アウローラ」
「うー」
「……アウローラの可愛さは動物たちも惹きつけてしまうんだな」
お兄ちゃんたちは悩ましげな表情。
「馬たちにもごあいさつに行くべきです」
「ぼくたちもいっしょに行きます」
双子もいっしょに行きたそうだから、明日からごあいさつ回りしようかな。
しかし、これだけ動物に熱烈に好かれるというのも変な感じだな、などとのんびり考えていた私は、翌日になって軍馬に囲まれ頭をハミハミされ、散々よだれまみれにされて動物に好かれるスキルを信じることにしたのでした。あうーん。




