大事な思い出
会場の控え室。
控え室には誰もおらず、私とユーリ様の二人だけがいた。
私は先程の格好とは違い、ユーリ様が用意してくれたシルクのパステルカラーの紫色のシンプルで体のラインが出るドレスにアクセントで首元には蝶のかたちをしたネックレス、パールのイヤリングを付けていた。
替えのドレスと思えない程の豪華さ。
流石は王族。
侮れない……。
私はソファの向かい側に座るユーリ様にお礼を言った。
「ありがとうございます。素敵なドレスをご用意してもらいまして…」
「このくらい何でもないよ。本当は時間があったらきみにもっと素敵なドレスを贈りたかったのだけどね」
「そ、そんな充分すぎるほどですよ!」
私は慌てて手を振った。
王子から何着もドレスを贈って貰う訳にはいかない。
それにこの人なら本当にやりかねそうだ。
「ねぇ、ハルカ。今から中庭に行ってみないか?夜だけど、この屋敷には美しい花が咲いていると先程聞いたんだ。挨拶回りも終わったことだし、どうだろうか?」
「素敵ですね。では御一緒させて頂きます」
彼の誘いを断る理由もなく、私は彼の誘いに応じることにした。
屋敷の中庭に行くと、そこには噴水と周囲にはピンクの薔薇幾つも美しく咲き誇っていた。
夜だというのに、その美しさは月夜に照らされて神秘的にも見えた。
「綺麗ですね。月明かりが薔薇を照らしていて、まるで魔法みたいです」
「きみは変わってないね」
ユーリ様はふっと優しく笑い、静かに私の隣に立ち、そっと薔薇に手を触れた。
「あの時もきみは同じことを言ったんだよ」
「あの時…」
「きみは忘れてしまったのかもしれないけど…」
ユーリ様は一度言葉を切り、口を開く。
大切な思い出を口にするように。
「幼い頃、僕が母上の教育が厳しすぎて勉強が嫌になって、夜に庭園の隅に隠れるように泣いていたとき、きみが一番に私を見つけてくれたんだ。その時のきみはただ『城に戻ろう』でも『どうしたの?』と聞くわけでもなく、僕の隣に座って、『見てください。夜のお花って綺麗ですね!月明かりに手照らされて、まるで絵本に出て来る魔法ですね』そう言ったんだ。あの時の私はきみの寄り添う心に救われたんだ」
「ユーリ様……」
その時のことなら覚えている。
正確には私の中にあるハルカの記憶だ。
彼女は確かに我儘で傲慢だったが、幼い頃はユーリ様に釣り合うために教養、勉学を頑張っていた。
だからこそ教育が厳しくなって、勉学が嫌になった幼い頃のユーリ様の心に寄り添うことができたのかもしれない。
それに王族の教育は厳しい。
それもそのはずだ。
王族は民を守り、国を背負わなければならない。王族、次期国王となればその責任は常に重く肩に伸し掛ること。
必然的に厳しくなるのも頷けるはず。
私は今まで小説で読んだハルカのことしか知らなかった。
だけど改めて自分の中にある記憶とユーリ様の話を聞いて、そんなに悪い女ではないかもしれない……。
そう思ってしまった。
ユーリ様は私の手を取り、優しく手の甲にキスを落とした。
彼の行動に私は思わず顔を赤くする。
そんな私に対して彼は優しく微笑んだ。




