彼女のために
きっと屈辱を受けた私がこの場で泣いて帰ると思ったのだろう。
だがお生憎様。
前世で私は嫌という程、虐められて恋人を寝盗られたことがあるのだ。
この程度で負け帰るなどしない。
(さて、どうしようかしら…)
この状況をどうしたものかと考えを巡らせていると、突然後ろから声がした。
「何の騒ぎですか」
後ろを振り向くと、そこには先程挨拶に行ったユーリ様の姿があった。
ユーリ様は私の傍に静かに近寄って来る。
その表情は硬い。
あれは明らかに怒っている…。
私はルピナス嬢達の方にチラッと視線を向けると彼女達は青い顔をしていた。
それもそうだろう。
王子の婚約者の私にわざとではなく、意図的にワインを掛けてしまったのだから。
言い訳なんて出来ないはずだ。
ユーリ様は私の姿を見て僅かに眉をひそめる。
「これは…」
「あ、大丈夫なので気にしないで下さい」
「そんなこと言っている場合ですか。すぐに着替えを用意します。こちらへ…」
ユーリ様は私の手を取ると、その場から歩き出そうとした。
だが、ルピナス嬢は彼に追いすがるように彼に悲しそうな視線を向ける。
「あ、あの…ユーリ様…」
ユーリ様は彼女に冷たく一瞥しながら冷たい声音で言った。
「この件はあとで然るべき方法で抗議させて頂きます。それと…」
彼はスっと目を細めながら言った。
「今度また僕の婚約者に手を出したら容赦しないからね」
ひゅっと周囲の空気が凍るような感覚がした。
これは本気でガチで怒っている……。
ルピナス嬢はすでに涙目になっていた。
そんな彼女に目もくれず、私はユーリ様に手を引かれて会場を出た。
廊下を歩く中。
私は慌ててユーリ様に話し掛ける。
「ま、待って下さい!ユーリ様!先程の女の子をルピナス嬢達のところに一人取り残してしまっているので、せめて彼女をご両親の元に連れて行ってあげないと…」
ユーリ様は足を止め、心配する私に優しく言った。
「心配しなくて良い。先程、僕の従者にあの子のことを任せている。今頃、両親の元に戻っているだろう」
「そうですか。良かったです」
私はほっと胸を撫で下ろす。
「それより、まずはきみのことだ。こんな格好をしていると風邪をひいてしまう。行こう」
「あっ…」
そう言って、ユーリ様は私をその場から連れて歩いて行くのだった。




