二人の思い出の始まり
「お前を蔑ろにする女性とは結婚しない!」
「だから、私は嫌ですって」
シスコン前回に否定する兄に対して私は即座に突っ込み、否定し返す。
私のことを大事にしてくれるのは有難いが、私が逆の立場なら絶対に嫌だ。
小姑がいる家に嫁ぎたくない。
「そんなに彼女が心配なら私が彼女をもらいます」
いつの間にか私の隣にいたアマリアは私の肩を抱き、笑顔でお兄様に言った。
「あ、あのアマリア…」
アマリアに対して私は慌てながらも、お兄様の顔をチラッと見る。
お兄様は既に固まっていた。
「では、私たちは失礼しますね」
私を連れてその場を後にしようとするアマリアに対して慌ててお兄様は声を掛ける。
「ま、待ってくれ!」
「大丈夫です。ちゃんと私が王子として責任を持ち、彼女を寮まで送り届けますので」
誰もが魅了されてしまう彼の微笑みにお兄様は何も言えなくなってしまった。
きっとお兄様は私がユーリ様と婚約破棄して欲しいのは本音だが、他の男性との結婚を望んでおらず、私がアマリアの傍に入れば男避けになるという浅はかな期待をしたのだろう。
だが彼は私に好意があることを示した。
お兄様の心中では期待が外れてしまったのかもしれない。
お兄様がシスコンなのはいつものこと。
私は彼をフォローせず、アマリアと共にその場を後にしたのだった。
****
夕方。
デートを楽しんだ私達は学園の女子寮の近くの門に帰って来た。
「今日は有難う。とても楽しかったよ」
「私の方こそ。あなたと一緒にいられて嬉しかったよ」
幸せそうに微笑むアマリアに私はスッと彼にあるものを差し出した。
「もし良かったら、貰ってくれるかな?」
「刺繍のハンカチ…」
「いつもお弁当作ってもらっているお礼と今日誘ってくれたことも兼ねて」
今日の為に私は今まで学園が終わってから夜に刺繍のハンカチを作っていた。
他の令嬢みたいに手先は器用ではなく、不器用でハンカチの刺繍した模様は鈴蘭だったが、葉の所など不器用で少しはみ出している。
はっきり言ってしまって美しい刺繍では無い。
美しいものが好きなアマリアに対してそぐわないかもしれない。
その事に気づいた私はハンカチを慌てて引っ込めようとした。
「あ…、ごめんなさい。こんな物貰っても困るわよね。お礼はまた別の物を用意するから…」
「待って!勝手に決めないでくれる」
そう言ってアマリアは私が差し出したハンカチをそっと受け取った。
「ありがとう。頂くよ」
「でも、上手に出来ていないし、それにあなたは美しい物が好きでしょう?」
戸惑うように言う私に彼は被りを振った。
「何言ってるの。このハンカチは見た目は不器用だけど、心が暖かくなる。私のために作ってくれた物なんて初めて見たよ。だから私にとって綺麗だとか、美しいだけとかではなく、相手を思いやって作ってもらった物こそが何よりも特別…そう思うよ」
そう言って彼は破顔した。
「大切に使わせてもらうね。ありがとう」
その笑顔は今まで見たどの笑顔より綺麗で、美しくて。
私の心を捕らえて離さなかった。
彼の為に作って良かった。
そう思い、私は胸が熱くなるのを感じた。
「ハルカ…」




