第八話 寄らば大樹の陰(やられたら倍返し)
俺、月見里栄太の彼女、別所響はイジメを受けている。その事実を知って、俺は激怒した。
「絶対に、許さん」
俺は家に帰るや否や「響救出作戦」を考えた。しかし、現況を鑑みるほど、俺の頭が重量を増していく。
これ、一朝一夕で解決できるほど簡単じゃない。
響を取り巻く状況は窮地と言って良い。一年生は敵だらけで味方は無いも同然だ。多勢に無勢、四面楚歌、孤立無援状態だ。
この逆境を覆す為に、俺は「三段階の加害者包囲網」を計画した。
先ず、正しい情報の発信、及び喧伝。
次に、一人でも多くの生徒を響の味方にする。対象は一年生だけじゃない。全校生徒だ。
最後に、イジメの証拠(物証)集め。それを学校長に突き出して、イジメの加害者にトドメを刺す。
俺は各段階で効果的と思える具体的な方法を幾つも練った。中には結構な料金を掛けるものも有った。しかし、手段を選ぶ気は毛頭無い。
全力で響を救う。
俺は逸る心に急かされるまま、翌日から行動を開始した。
朝、俺は二年A組教室に入るや否や、響との関係を大声でカミングアウトした。その際、俺のトラウマ、ズゥちゃんにフラれたことも伝えている。
これに対して、居合わせた生徒達は、
「何事?」
それぞれ首を捻っていた。しかし、俺が話し終わった頃には、
「そうだったのか」
それぞれ頻りに頷いている。皆、一ミリも疑っていない様子。嘗ての俺であれば、このような反応は得られなかっただろう。しかし、今の俺は違う。
俺は「学校一の有名人」という肩書をフル活用した。自分の影響力を信じて、各教室で同じ内容を訴え続けた。
先ずは二年生のクラス。続いて一年生のクラス。最後に三年生のクラス。全ての教室で、同じ内容を繰り返した。
当然ながら、響がいるクラスでも、ズゥちゃんがいるクラスでも、俺は全力でカミングアウトしている。尤も、幸か不幸か当の本人達は教室の中にいなかった。
響は、トイレに入って泣いていた。
ズゥちゃんは、友達と一緒に屋上階段前にいた。
尤も、これらの事実を知ったのは後のこと。
俺は自分が立てた計画を遂行すべく、それに全力集中していた。その努力の成果は、それなりに現れている。
俺のカミングアウトによって、響を誹謗中傷する根本原因「二年生のカップルに対する略奪愛」は取り除かれた。それを信じていた生徒達の何人かは、トイレから戻ってきた響に謝罪している。しかしながら、未だ全員という訳ではない。
一年生のライン上では、未だに響の略奪愛を主張する投稿が続いていた。
投稿者は、学年カースト最上位の陽キャ達。一年生の中では多大な影響力を持っている。
しかし、投稿内容を信じる生徒は殆どいなくなっていた。
俺、月見里栄太の影響力は、一年生カースト最上位を凌駕していた。「学校一の有名人」の肩書は伊達ではなかった。この一件で、その事実を改めて確信した。作戦の第一段階は大成功と言える。この時点で決着は付いたも同然だ。
しかし、今の俺には油断する気も、容赦する気も無い。
俺は続け様に作戦の第二段階を実行した。
響の味方を得る為に、俺は――職員室に突入した。
俺は居合わせた教職員達に向かって、響の現状を語って聞かせた。その中にスーツ姿の壮年女性、一年A組担任、西野虹子先生の姿も有った。
西野先生は、俺の話中、ずっと眉を「八」の字に曲げていた。それなりに、思うところがある様子。俺は彼女の顔を見詰めながら、居合わせた教職員全員に向かって大声で訴えた。
「どうか、響を守る為に力を貸してくださいっ!」
俺は皆に向かって頭を下げた。すると、俺の耳に「分かりました」と女性の声が飛び込んだ。
かくして、俺は教職員を味方に付けた。しかし、これで満足する訳にはいかない。
教師の次は――生徒だ。
俺は自分に近しい生徒達から順に「響きを守って」と頼み込んだ。すると、存外に多くの協力者を得ることができた。
その中で最も目覚ましい活躍してくれた生徒は、一年生の道明寺大吉だ。俺に響のイジメを教えてくれた生徒だ。
大吉は、ラインの一年生グループで響を擁護する投稿を続けた。
当初、大吉に賛同する声は無かった。むしろ、大吉を責める内容ばかりが投稿された。それらのメッセージの投稿者は、例の陽キャグループだ。
一年生にとってはラスボスと言える存在だ。一人で立ち向かうことは無謀だろう。しかし、大吉は擁護を止めなかった。その勇気と努力は、無駄ではなかった。
大吉が投稿し続けている内、次第に賛同する声が上がり出した。しかも、日増しに増えていく。
最終的に、グループ内は響を擁護するメッセージで埋め尽くされるようになっていた。その状況は、ラインを見る全ての一年生の視界に映っている。それぞれの心に、それなりの効果を与えたことは想像に易い。
教職員と、多くの生徒が響の味方に付いた。完全に形勢逆転だ。しかし、ここで止めるつもりは毛頭無い。
俺は作戦の最終段階を発動した。
俺はイジメの証拠(物証)集める為に、地元の興信所に突入した。
所長の風見酉之助さんと契約して、証拠集めのテクニックを伝授して貰った。その際、隠しカメラや収音マイクなど、証拠集めの七つ道具を借り受けている。
俺は七つ道具を響の席、及び下駄箱に設置した。一応、事前に響と響の保護者達から許可を得た。学校に対しては――
「偶々居合わせた生徒がスマホで撮影しました」
嘘も方便。大吉を始めとした一年生達と口裏を合わせて誤魔化している。手段を選ぶ気は無い。しかし、思うところが全くなかった訳ではない。
正直に言えば、七つ道具が活躍しない方が良い。加害者達が反省して、これ以上響に手を出さないようになることが最善だろう。
しかし、俺の密かな願いは叶わなかった。
加害者達は響に対する嫌がらせを止めなかった。俺が仕掛けた罠は、その役目を十全に果たしていた。
隠しカメラに映っていた生徒の顔は、或る意味予想通りのものであった。
一年生カースト最上位の陽キャグループ。最初にゴシップネタを投稿して、今も執拗に響を誹謗中傷し続けている連中だ。
一体、何が陽キャ達を衝き動かしているのか? 未だに動機は不明だ。しかし、どんな理由が有ろうとも、彼らの蛮行を許すつもりは無い。
俺は響の保護者を同伴して学校長、奥蘭成子先生に加害者達の処分を求めた。
俺達は、スーツ姿の老齢の女性の前に立ち、これまで収拾した証拠を提示した。その際、「警察」という言葉をチラつかせている。
俺の脅しに学校長、奥蘭成子先生は屈した。
奥蘭校長は、イジメの主要メンバー達に「停学二か月」の処分が下した。彼らがやってきたことを鑑みると「軽過ぎる」と思う。
しかし、俺の心情は兎も角、響も、響の保護者達も、これで手打ちにすることを望んだ。俺の心底の奥深くにも、似たような想いが有った。それらの想いを無視することは、俺にはできなかった。
俺は、これ以上加害者達を追い込むことは控えた。だからと言って、何もかも無かったことにする気は無い。証拠は消去せずに保存している。
次に響に何か有っら、こんどこど警察だ。
そのときが来れば、俺は躊躇わない。尤も、今の俺の心底には「そうならなければ良いな」という期待が有った。
しかし、それは裏切られた。
天災は、忘れた頃にやってくる。俺達が安穏な学生生活を謳歌している最中、響の身にイジメを超える災厄が降り掛かった。




