第41話 研究員寮
エルドレッド様の変わりように驚いた私たちだが、実験室に帰ってきたエルドレッド様は普段の紳士に戻っていた。
「まずはこちらがホリーさんの身分証となります。研究所内を歩く際は必ず所持していてください。また、寮を利用する際にも必要となります。紛失にはご注意ください」
「はい」
そうして手渡されたのは一枚の半透明のプレートだ。私の名前と出身地、性別、そして容姿の特徴が書かれている。
「続いてニールさんですが、ニールさんにはゲストの身分証をお渡しいたします。こちらの身分証は毎日正午に更新が必要となりますが、寮のゲストルームに宿泊することができます。ただし、ゲストの身分証ですと研究所内を一人で歩き回ることはできません。寮から出て研究所内を歩く際は必ず、私かホリーさんと一緒に行動してください」
「わかりました。ありがとうございます」
そうしてニール兄さんには銅のプレートが手渡された。
「それでは、寮までご案内いたします」
エルドレッド様は今回も流れるように私の手を取り、エスコートしてくれる。
そうして一度一階に降りた私たちは長い廊下を歩き、やがて一つの扉をくぐる。
するとこれまでシンプルだった内装が突然煌びやかなホテルのような雰囲気へと変わった。
「こちらが研究員のための寮です。本来のエントランスはあちらですが、研究員は寮と研究室を往復するだけの生活をする者も多いため、このように棟続きになっています」
そう言ってエルドレッド様は右手を指さした。
その先にはたしかに立派な扉があり、そちらが本来の入口であることをアピールしている。
「それと男性寮と女性寮は建物が別れています。男性はこの建物ですが女性はもう一つ向こうの建物となります」
そう言ってエルドレッド様はもう一つの扉を指さした。
「ニールさん、女性寮に男子は立ち入ることができません。もしホリーさんにご用の際は使用人までお申し付けください」
「わかりました」
それからエルドレッド様は本来の入口の近くに行き、そこに置いてあったベルを鳴らした。
チリーンと澄んだ音が鳴り響く。
すると遠くからパタパタと誰かが走ってくる音が聞こえてきた。
「お待たせしました……あら! 坊ちゃん! もしかしてこの可愛らしいお嬢さんが? あらあらまあまあ!」
メイド服を着た恰幅のいい中年の女性がやってくるなり笑顔でそう言ってきた。
「ブリジット、彼女が特別研究員として研究にご協力いただくホワイトホルンのホリーさんで、隣の男性は試作品のモニターをしていただくニールさんです。よろしく頼みます」
「はいはい。お任せあれ、坊ちゃま♪」
ブリジットと呼ばれたメイドさんは楽しそうにそう答えた。
「あらぁ、本当に可愛らしいお嬢さんねぇ。その綺麗な髪と瞳は人族よね? お肌もキレイだし、そのお洋服もとっても素敵ですねぇ。ホリーさん、私はブリジット。この寮のメイドをしています。よろしくお願いしますね」
「は、はい」
「ニールさんも、よろしくね!」
「はい」
「それじゃあ、坊ちゃま。ニールさんの案内は頼みましたよ。さ、ホリーさん。お部屋に案内しますからね」
「え? え?」
「さあさあ、こちらです」
私はブリジットさんの押しに負け、そのままブリジットさんの後を追った。その途中でちらりと振り返ると、なんとエルドレッド様がニール兄さんを案内していた。
よく分からないが、どうやらエルドレッド様がニール兄さんを案内してくれるということで問題ないようだ。
「さあさあ、ホリーさん。こちらですよ!」
ブリジットさんがずいずいと歩いていくので、私は慌ててそれを追いかける。
そして階段を上がり、四階の廊下を歩いて一番奥突き当りにある部屋にやってきた。
「ホリーさんのお部屋はこちらにしましょう」
「えっと……」
登り階段がなかったのでここが最上階だと思うのだが、最上階の一番奥の部屋といえば偉い人が泊まる部屋のはずだ。
私なんかが泊まっていいんだろうか?
「いいんですよ! どうせ女子寮には一人しかいませんからね! それにあの人は変人ですから。ホリーさんのような可愛らしいお嬢さんが使ったほうが部屋も喜びますよ。さあさあ、お入りください」
ブリジットさんは鍵を開け、扉を開いた。するとなんとそこははシュワインベルグで泊めてもらったホテルもかくやというほど豪華な部屋だった。
見るからに高級そうな調度品に天蓋付きのベッドなど、明らかに私のような庶民が泊まるような部屋ではない。
「え? あの?」
「さあさあ、どうぞお使いください。使われないよりも使われたほうが部屋も家具も喜びますよ」
「はぁ……」
私はブリジットさんの迫力に押し負け、そのまま部屋の中に入った。
「寮の夕食は午後五時から、朝食は七時からですよ。昼食はありませんから、近くのレストランなどでご自身で食べてくださいね。それからお湯はそちらの水道を、氷はそちらの冷蔵庫をご利用くださいね」
「あ、すみません。私、魔道具が使えないんです」
「あら! まあまあ、そうだったのですね。それなら、お水と氷は今のうちにご用意しますね」
ブリジットさんはそう言って冷蔵庫の取っ手に手を当てた。するとブーンという小さな音がして、内部からカタカタ氷が出来上がる音がした。冷蔵庫は製氷の魔道具と断熱性の高い箱を組み合わせた道具で、食べ物を保存しておくことができるという優れモノだ。
続いてブリジットさんは水道の取っ手に手を当てて水を桶にためてくれた。
そう言ってブリジットさんは魔道具を使い、桶に水を溜めてくれた。
「お茶やお菓子は無料ですからね。遠慮せずに食べてくださいね。他にもご用があればこちらのベルを鳴らしてくださいね」
「は、はい」
「それじゃあ、ホリーさん。夕食の時間になりましたらお迎えに上がりますので、それまではごゆっくり」
ブリジットさんはそう言って足早に部屋を退出していったのだった。
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