第40話 魔動義手
2022/09/17 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
「義手ですが、こちらは隣の第三実験室に用意してあります」
エルドレッド様はそう言って扉の一つを指さした。
「ご案内します。ホリーさんはいかがなさいますか? 見学されますか?」
「はい。ぜひ」
「それでは、ご案内いたします」
エルドレッド様は再び私の手を取り、エスコートしてくれる。
恥ずかしいけれど、こうしてものすごくかっこいい王子様にお姫様扱いされるのはなんだか気分がいい。
もちろんエルドレッド様はマナーとしてやってくれているだけであることはわかっているが、それでもまるで自分が本当にお姫様になったのではないかと錯覚してしまいそうになる。
そうしてエルドレッド様に手を引かれて隣の部屋に入る。その部屋の中央には大きなテーブルが置かれており、その上に無骨な金属製の腕のようなものが置かれていた。
「こちらが今回ニールさんのために開発した衛兵向けの戦闘用魔動義手の試作品となります」
「これが……」
エルドレッド様は義手を手に持つと、ニール兄さんの前に差し出した。
「まずはフィッティングをしましょう」
「お願いします」
エルドレッド様はニール兄さんの左腕を露出させると、そこに義手を押しあてた。
「なるほど。太さは大丈夫そうですね。腕の先から装着面に向かって魔力を流してください。ああ、もう少し弱く、そう。そのくらいです」
するとニール兄さんの残った左腕を包むように金属の部分が伸びていき、やがて肩まで金属で覆われた。
まるでニール兄さんの左腕が丸ごと金属になったみたいだ。
「ああ、少し義手が長すぎましたね。ここは後で調整しましょう。それでは肘を動かしてみましょう。肘を動かすには――」
そうしてエルドレッド様は義手の機能を一通り説明してくれた。
衛兵のための戦闘義手ということもあってか、義手の先端が刺股に変形する機能など日常生活では使いそうもない機能もあったが、衛兵として仕事をするのであればプラスに働くかもしれない。
「最後に外し方ですが、義手を机の上に置いて魔力を切ってください。すると自動的に外れるようになっています」
ニール兄さんが義手を動かして机の上に腕ごと載せるような体勢を取った。すると徐々にニール兄さんの肩まで覆っていた金属が引っ込んでいき、やがてニール兄さんの腕から義手からポロリと外れる。
「すごい……」
私が思わずそう呟くと、エルドレッド様は私のほうを向いて優しく微笑んだ。
「お褒めに与り光栄です。ですが魔動義手はすでに存在している技術ですからね。私はそれをベースに改良を加えただけですよ」
事もなげにそう言っているが、それでもこれはすごいのではないだろうか?
「たとえばキエルナ魔道具工房社製魔動義手の基本モデルであれば、一万リーレほどで買えますよ」
え? いちまん……?
「あの殿下、こんなにすごいものを買えるほどのお金は……」
ニール兄さんも同じことを考えたのか、遠慮がちにそう切りだす。
「ああ、無償で構いませんよ」
「え? ですが……」
「それは試作品ですからね。衛兵で腕を失っている人なんてまずいません。ですから、ニールさんは耐久性や使い勝手などをレポートしてください。そうすれば私は改良を重ねてより良い魔道具を開発できますから」
「いいんですか?」
「もちろんです。使われない道具など意味がありませんからね」
「ありがとうございます!」
「ニール兄さん、良かったね!」
「ああ!」
ニール兄さんは嬉しそうにそう答えた。
「では長さの調整をしておきますので、明日取りに来てください」
「はい!」
ニール兄さんの返事を確認すると、エルドレッド様は再び私のほうに顔を向けた。
「それでは最後にホリーさん、ご依頼した件ですが考えていただけましたでしょうか?」
「はい。浄化や治癒の奇跡が使える魔道具ができたらきっとたくさんの人を救えると思うので、ぜひ協力させてください。ただ私はホワイトホルンにお店を持っていて、お薬を待っている人たちがいます。だから、この町で暮らして研究に協力するということはできません。ですが、ホワイトホルンの雪がなくなるころまででしたら協力させてください」
「本当ですか? それは良かった! 私は冬の間ずっとホリーさんとのことが頭を離れなかったのです」
エルドレッド様はまるで子供のように無邪気な笑顔を浮かべ、私の両手を取って喜んでいる。
う……このかっこいい顔でこれをされるとものすごく恥ずかしい。
「ではホリーさんを私の工房の特別研究員として登録しておきましょう。そうすればいつでもこちらに来られますし、その際には従業員寮を予約なしで利用できますから」
「は、はい」
「ああ、こうなれば善は急げだ。ホリーさん、しばらくお待ちください」
エルドレッド様は嬉しさが押さえきれないといった様子で実験室から飛び出していく。残された私たちは呆然とその様子を見送ったのだった。




