↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元トラック運転手の俺、ダンジョン宅配を始めたら攻略クランが俺なしで潜れなくなった  作者: ヲワ・おわり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/22

第22話 荷を降ろす相手がいない荷は、ただの重い箱だ

 【台車】ミナトの運び屋について語るスレ4


 201:名無しの探索者

  例の運び屋、二十一層でやらかしたらしい。オルカの子が担架で出てきた


 209:名無しの探索者

  時間ぴったりが売りなんじゃなかったのかよ


 215:名無しの探索者

  四十分遅れたって聞いた


 220:名無しの探索者

  素人に深層任せるほうが悪いわ


 224:名無しの探索者

  いや、そもそも非戦闘員が二十一層って無理があるだろ


 228:名無しの探索者

  でも九層〜三十四層が静かなのは事実なんだよな。あれ何なの


 231:名無しの探索者

  だから関係ないって


 235:名無しの探索者

  関係ないって言うやつ、まだいたんだ


 236:名無しの探索者

  関係ないだろ


  *


 七月一日。


 依頼ゼロの、六日目。


  *


 朝、鉄工所に寄った。


 台車の車輪が、片方すり減っている。


「これ、替え時だ」


「いくらですか」


「いらん」


「それは困ります」


「困れ」


 千代さんは車輪を外しながら、こちらを見もせずに言った。


「金、ないだろ」


「あります」


「いくらだ」


 俺は答えなかった。


 失業保険は、七月の頭で切れる。今日が、その七月一日だ。


「それ見ろ」


「あります」


「じゃあ言ってみろ」


 千代さんが手を止めて、顔を上げた。


 俺は、言わなかった。


  *


 新しい車輪がついた。


 千代さんは工具を片付けながら、背中で言った。


「あんた」


「はい」


「荷がないのに、毎日どこ行ってんだ」


「道を、消さないように」


 工具箱の蓋が、閉まった。


  *


「そりゃ、荷主がいなきゃ意味ないだろ」


  *


 俺は、何も言えなかった。


 千代さんは振り返らなかった。


「道ってのはな。誰かが通るから道なんだ」


「はい」


「あんた一人が通ってる道は、道じゃねえよ。轍だ」


「はい」


「轍は、雨が降ったら消える」


  *


 俺は工場の戸口で、しばらく立っていた。


「千代さん」


「なんだ」


「轍は、消えます」


「消えるだろうな」


「でも、消える前にもう一回通れば、残ります」


 千代さんが振り返った。


「何十回でもか」


「何十回でも」


「あんたが死ぬまでか」


 俺は、答えられなかった。


「あんたな」


 千代さんは工具箱に腰かけた。


「あたしは、車輪を作る。車輪は減る。減ったら替える。それでいい」


「はい」


「でもな、道を作るのは、そういうのとは違うだろ」


「どう違いますか」


「替えが利かねえだろ。あんたが倒れたら、そこで終わりだ」


  *


 その日も、五時に入った。


 第五層。第七層。第九層。第十六層。


 全部、空荷で通り抜けた。


  *


 第十六層の中継点に着いた。


 八時二十分。


 誰もいない。


 俺は台車を止めて、いつもの位置に寄せた。


 荷を降ろす動作を、身体が勝手にやろうとする。


 ベルトに手をかけて、止めた。


 外すものが、ない。


  *


 俺は伝票を出した。


 品名の欄が、白い。


 数量の欄も、白い。


 受取人の欄も。


  *


 二十年、荷を降ろしてきた。


 朝に積んで、走って、降ろして、サインをもらう。


 降ろす相手がいない荷は、荷ではない。


 ただの、重い箱だ。


  *


 今日の台車には、その重い箱すら載っていない。


 俺は伝票を鞄に戻して、時計を見た。


 八時二十二分。


 次の区間に出る時刻は、八時三十分。


 八分、ある。


  *


 八分、そこに立っていた。


 誰も来なかった。


  *


 十七時に上がった。


 真木さんが記録をつけた。


「十七時ちょうどです」


「はい」


 それ以上は、何も言われなかった。


  *


 売店で、田淵さんが茶を出した。


「今日は飯を炊いとらん」


「いえ」


「明日は炊く」


「はい」


 俺は茶を飲んだ。


 田淵さんが、こちらを見ずに言った。


「新藤さん」


「はい」


「千代さんに、何か言われたか」


「なぜですか」


「顔が、今日はちょっと違う」


 俺は茶碗を置いた。


「轍だと言われました」


「轍」


「一人で通ってる道は、道じゃなくて轍だと」


 田淵さんが、長いこと黙った。


 それから、湯呑を持ち上げて言った。


「そうやな」


「はい」


「あの人の言うことは、だいたい正しい」


  *


 帰り道、携帯が鳴った。


 知らない番号だった。


「はい」


『あの、すいません。新藤運送さんですか』


「そうです」


『第五層まで、水を運んでもらえるって聞いて』


 俺は、足を止めた。


「いつでしょうか」


『あの、明日とか』


「何時にお届けしますか」


『えっと、朝のうちとか?』


「六時ちょうどでどうですか」


『六時!? 朝の!?』


「はい」


『えっ、あの、そんな朝から動けないんですけど』


「では、何時に」


『十時とか』


「十時だと、第五層の順番が合いません」


『じゃあ無理っすか』


「無理ではありません。時刻を変えます」


 俺は歩きながら、頭の中の時刻表を引いた。


 十時。第九層から第十六層へ向かう途中だ。第五層へは戻れない。


 戻れないなら、順番を入れ替える。


「明日の十時に、第五層へお届けします」


『ほんとっすか!』


「はい」


『あの、いくらすか』


「三千五百円です」


『安っ』


  *


 電話を切って、俺はしばらく立っていた。


 十一日ぶりの、依頼だった。


  *


 その夜、アパートに帰って、机に座った。


 模造紙を見上げる。


 五本の線と、時刻が並んでいる。


 今日も、その通りに歩いた。一分も狂わずに。


 そして、誰にも会わなかった。


  *


 鉛筆を持って、紙の隅に何か書こうとした。


 書くことが、思いつかなかった。


 ・依頼ゼロ、六日目。


 それだけ書いて、置いた。


  *


 翌朝、十時に第五層へ水を届けた。


 依頼主は二十歳くらいの男で、寝癖がついていた。


「うわ、ほんとに来た」


「十時ちょうどです」


「え、すご」


 男は水のケースを抱えて、それから思い出したように言った。


「あの、これ、順番変えてもらったんすよね」


「はい」


「他の人、大丈夫だったすか」


「他の依頼がないので」


「あ」


 男が気まずそうにした。


 俺は伝票を出した。


「サインを、お願いします」


 男が書いた字は、まだ子どもの字だった。


  *


 その日から、少しずつ増えた。


 一日一件。二日で三件。


 どれも浅い層で、運賃は安い。一件三千五百円だ。


 それでも、伝票の欄が埋まるようになった。


  *


 七月六日。


 依頼ゼロの、十一日目。


 その朝、五時に入ろうとして、上屋の下で足を止めた。


 売店の前に、人が立っていた。


 小柄で、短髪で、日に焼けている。


 装備は着ていない。私服だった。


 手に、折り畳んだ紙を持っている。


  *


 鵜飼さんは、こちらを見て言った。


「あんた」


「はい」


「あの日、何があったか。話してくれる?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。