第9章 王都に、他人の記憶が降る
その夜。
王都には。
雨ではなく。
人の人生が降った。
◇
「窓を閉めろ!」
王宮の廊下を。
衛兵たちが走る。
「触れるな!」
「外へ出るな!」
「記憶光に接触した者は西広間へ!」
命令。
悲鳴。
鐘。
全部が。
同時に聞こえる。
私は。
王宮二階の回廊から。
王都を見ていた。
空。
無数の光。
雪のように。
ゆっくり。
でも。
絶え間なく。
降り続ける。
「地下の流出は?」
レオンが。
駆けてきた侍従へ尋ねる。
「封印術師が対応中です!」
「止まりそうか」
「分かりません!」
「分からない?」
「壊された保管区画が多すぎます!」
侍従の顔。
青い。
「地下宮殿の存在を知る術師が」
「何人いる」
「三人です」
「少なすぎる」
「皇太后陛下の許可がなければ」
レオンが。
目を閉じた。
「もう許可を待つな」
「殿下?」
「使える人間を全員入れろ」
「しかし機密が」
「もう空から降ってる!」
声が。
廊下へ響く。
侍従が。
息を呑む。
「……承知しました」
走っていく。
私は。
レオンを見る。
「大丈夫ですか」
「全然」
「私もです」
「そう言うと思った」
そして。
窓の向こう。
また。
一つの光が。
王宮前広場へ落ちた。
◇
触れた男が。
突然。
膝をついた。
広場。
商人らしい。
四十代。
両手で。
頭を抱える。
「違う!」
叫ぶ。
「俺じゃない!」
周囲。
人が離れる。
「違う!」
男は。
泣いていた。
「俺は殺してない!」
衛兵が。
近づく。
「落ち着け!」
「俺じゃない!」
「あなたの記憶ではありません!」
「でも見た!」
男。
自分の手を見る。
「俺の手で」
震える。
「人を刺した」
違う。
誰かの記憶だ。
でも。
本人にとっては。
自分が経験したように感じる。
「西広間へ!」
衛兵が。
連れていく。
別の場所。
若い女性。
笑っている。
「お姉ちゃん」
誰もいない空間へ。
手を伸ばす。
「まだ生きてた」
でも。
数秒後。
表情が変わる。
「……違う」
泣く。
「私のお姉ちゃんじゃない」
知らない誰かの。
家族の記憶。
隣。
老人。
「海だ」
呟く。
「俺は海なんて見たことがない」
なのに。
目を閉じて。
「塩の匂いがする」
記憶は。
映像だけではない。
匂い。
音。
感情。
痛み。
愛情。
全部。
誰かの人生が。
別の誰かへ。
流れ込む。
「まずいですね」
私は言った。
「うん」
レオン。
「記憶だけならまだしも」
「感情まで」
「自分と他人の区別がつかなくなる人間が出る」
「早く知らせないと」
「何を?」
「これは」
私は。
王都を見る。
「あなた自身の記憶ではないと」
◇
王宮前広場へ。
急ごしらえの演台が作られた。
王太子が。
国民の前に出る。
それだけで。
危険だった。
「殿下」
護衛隊長が止める。
「今、民衆は混乱しています」
「だから出る」
「石を投げられる可能性があります」
「当たったら痛いだけだ」
「そういう問題では」
「隊長」
レオン。
静かに。
「王宮に隠れて命令だけ出したら」
広場を見る。
「もっと危険になる」
護衛隊長は。
何も言えなかった。
「私も行きます」
言うと。
レオンが振り返る。
「エレナ」
「何です」
「君は残って」
「嫌です」
「即答?」
「当然です」
「危険だよ」
「殿下が出るのに?」
「私は王太子だから」
「私は王太子妃になる予定の者です」
「まだなってない」
「では婚約者として」
「もっと残ってほしい」
「却下です」
「最近それ多いな」
「便利なので」
レオンが。
困ったように笑った。
でも。
止めなかった。
「離れないで」
「はい」
「絶対」
「はい」
私は。
彼の隣へ。
並んだ。
◇
扉が開く。
外。
音。
一気に。
押し寄せる。
「王家は何をした!」
「返せ!」
「俺の母の記憶はどこだ!」
「嘘つき!」
怒号。
泣き声。
衛兵が。
槍で線を作る。
「下がれ!」
「押すな!」
「王太子だ!」
人の波。
ざわめき。
レオンが。
演台へ上がる。
私は。
一歩後ろ。
ユリウスも。
その隣へ。
「兄上」
「何だ」
「今なら逃げても誰も責めないよ」
「お前は?」
「逃げるなら一緒に」
「却下」
「エレナ嬢みたいになってきた」
私を見る。
「悪い影響ですか」
「かなり」
「ユリウス」
「はいはい」
レオン。
前を見る。
そして。
声を上げた。
「聞いてくれ!」
群衆。
少しずつ。
静まる。
「今、王都へ降っている光は」
一度。
息を吸う。
「人間の記憶だ」
ざわめき。
大きくなる。
「王家は!」
誰かが叫ぶ。
「俺たちから記憶を盗んでいたのか!」
別。
「妻が十年前から俺を知らない!」
「王家がやったのか!」
「子どもを忘れた女を知ってるぞ!」
レオンが。
黙る。
言い訳。
できる。
一部は。
婚姻制度。
一部は。
国家機密。
必要だった。
そう説明できる。
でも。
「そうだ」
彼が言った。
私は。
彼を見る。
広場。
静かになった。
「王家は」
レオン。
「長い間」
声が。
少し震える。
「人々から記憶を預かってきた」
「預かった?」
男が叫ぶ。
「返してないだろ!」
「その通りだ」
「なら盗んだのと同じだ!」
「そう思われても仕方がない」
衛兵たちが。
互いを見る。
「殿下」
護衛隊長が。
小声。
「これ以上は」
「続ける」
レオン。
「その制度が正しかったのか」
「……」
「必要だったのか」
「……」
「私は今」
民衆を見る。
「調べている」
罵声。
「今さらか!」
「王太子なのに知らなかったのか!」
「知らなかった」
レオン。
逃げなかった。
「私は」
強い声。
「知らなかった」
その言葉。
広場へ。
重く。
落ちた。
「だが」
続ける。
「知らなかったことを言い訳にはしない」
私は。
彼の背中を見る。
「今夜」
「……」
「すべてを止める」
「……」
「そして」
彼が。
言った。
「王家が何をしてきたのか」
少し間。
「公表する」
ユリウスが。
横で。
息を止めた。
私も。
「兄上」
小声。
「それ」
「分かってる」
「祖母上が」
「分かってる」
「王家が終わるかも」
「それも」
レオン。
前を見る。
「分かってる」
◇
最初の石が。
飛んできたのは。
その直後だった。
「殿下!」
護衛。
前へ。
でも。
石は。
私たちには届かなかった。
途中。
光にぶつかった。
記憶。
青い光。
弾けた。
そして。
広場の。
何十人かが。
同時に。
息を呑んだ。
「……何」
私にも。
見えた。
◇
知らない。
部屋。
古い王宮。
女。
若い。
青いドレス。
金色の髪。
肖像画。
見たことがある。
「リディア」
私は。
呟いた。
歴史から消された。
最初の王妃。
彼女の。
記憶。
◇
『本当にやるの?』
男の声。
エドガー三世。
若い。
王冠を。
まだ。
被っていない。
『ええ』
リディア。
机。
その上。
設計図。
『記憶を切り離す術なんて』
エドガー。
『危険すぎる』
『だから保存するの』
『消すのではなく?』
『消してはいけない』
リディア。
強い目。
『人が生きた証でしょう』
『でも、その記憶を持っていれば』
『殺される人がいる』
『そうだ』
『だから一度だけ』
彼女。
設計図へ。
指を置く。
『預ける』
『一度だけ?』
『危険がなくなるまで』
記憶。
揺れる。
『必ず返す』
リディア。
『国家が人の心を所有するようになったら』
笑わない。
『それはもう国ではないわ』
私は。
息を止めた。
周囲。
広場の人々も。
同じ記憶を見ている。
◇
次の場面。
地下宮殿。
建設途中。
白い石。
金の扉。
リディア。
術師たち。
『保管庫はここ』
『記憶は個人ごとに分ける』
『陛下』
術師。
『危険です』
『何が』
『返還すると』
『ええ』
『忘れていた感情も戻ります』
『当然でしょう』
『苦しむ者も』
『それでも』
リディア。
言う。
『苦しむ権利まで、国が奪ってはいけない』
私は。
母を思った。
皇太后を。
歴代王妃を。
苦しむ権利。
忘れることで。
守られた。
でも。
同時に。
選ぶ権利を。
失った。
◇
次。
リディア。
一冊の。
白い帳簿。
表紙。
何も書かれていない。
『返還記録は?』
『こちらへ』
術師。
『献納記録とは別に?』
『ええ』
『なぜ』
『王が』
リディア。
『いつか、この制度を都合よく使わない保証はない』
『陛下』
『人を信用することと』
微笑む。
『制度を信用することは別です』
白い帳簿。
『だから』
『誰の記憶を』
頁。
『なぜ預かったか』
次。
『いつ返すべきか』
次。
『すべて残す』
最後。
『そして』
彼女は。
術師を見る。
『返還できることを』
強く。
『絶対に隠してはならない』
◇
光。
消えた。
王都。
広場。
戻る。
誰も。
声を出さない。
私の。
心臓。
速い。
「返せる」
誰かが。
呟く。
「記憶は」
別の声。
「返せるのか?」
ざわめき。
「王家は知っていたのか!」
「返せ!」
「俺の家族の記憶を!」
人の波。
一気に。
動く。
「下がれ!」
衛兵。
「押すな!」
「王宮へ入れるな!」
「レオン!」
「エレナ、下がって!」
群衆。
前へ。
このままでは。
暴動。
そこへ。
「全員、止まりなさい!」
声。
大きくはない。
でも。
不思議なほど。
通った。
広場。
動きが。
止まる。
王宮階段。
白銀の髪。
皇太后アデライド。
◇
「祖母上」
レオン。
彼女は。
ゆっくり。
演台へ。
衛兵たちが。
道を開ける。
「皇太后だ」
「白銀の母」
「全部知ってるのか」
民衆。
ざわめく。
皇太后は。
レオンの隣へ。
そして。
広場を見る。
「返還は可能です」
一言。
私は。
息を呑んだ。
「祖母上」
「あなたが公表すると言ったのでしょう」
「……はい」
「なら途中で止める方が愚かです」
皇太后。
前を見る。
「記憶献納制度には」
「……」
「返還制度があります」
怒号。
「なぜ返さなかった!」
「誰が決めた!」
「俺の母は!」
皇太后。
逃げない。
「王家が」
言った。
「返さないことを選びました」
広場。
完全に。
静かになる。
「……何?」
「制度創設時」
皇太后。
「記憶は一時的に保全し、危険が消えた時点で本人へ返すことになっていました」
「なら」
男。
「なぜ!」
「後の王たちが」
皇太后。
「制度を変えたからです」
「王家が?」
「そうです」
「自分たちの都合で?」
「そうです」
レオンが。
祖母を見る。
彼女は。
一度も。
躊躇しない。
「そして」
皇太后。
「私も」
杖を。
握る。
「その制度を維持しました」
民衆の顔。
変わる。
「皇太后陛下も?」
「なぜ!」
「あなたは俺たちを守る人じゃ」
「守ろうとしました」
皇太后。
静かに。
「それが」
一瞬。
声が。
揺れる。
「正しいと思っていました」
私は。
初めて。
この人が。
国民へ。
迷いを見せたのを見た。
「秘密を知れば」
皇太后。
「殺される者がいる」
「……」
「戦争になることもある」
「……」
「だから」
目を閉じる。
「忘れさせる方が」
また。
目を開く。
「優しいと思った」
誰も。
声を出さない。
「でも」
皇太后。
空。
降る記憶を見る。
「優しさとは」
小さく。
「選択を奪うことではなかったのかもしれません」
私は。
彼女を見る。
皇太后アデライド。
四十年。
国を守った。
そのために。
夫を忘れた。
自分の心を。
切り離した。
そして。
他人にも。
同じことをした。
「祖母上」
レオン。
小声。
「白い帳簿を知っていますか」
皇太后の顔。
変わる。
「何?」
「リディア王妃の記憶に」
私が続ける。
「返還記録を残す白い帳簿が」
「……」
「献納記録とは別に」
皇太后。
黙った。
「ご存じですね」
私が言う。
「どこにあります」
「……」
「皇太后陛下」
「ありません」
「え?」
「少なくとも」
皇太后。
「私が引き継いだときには」
目を細める。
「存在していませんでした」
「失われた?」
レオン。
「あるいは」
私は。
記憶の中の。
リディアの言葉を思い出す。
『王が、いつかこの制度を都合よく使わない保証はない』
「隠された」
皇太后が。
私を見る。
「可能性はあります」
「白い帳簿には」
「誰の記憶を」
レオン。
「なぜ預かったか」
私。
「いつ返すべきか」
皇太后。
そして。
「制度を変えた記録も」
私は言う。
「残っているかもしれません」
◇
その瞬間。
また。
空が。
強く光った。
「何!」
人々が。
見上げる。
王宮上空。
大量の記憶光。
一か所へ。
集まっている。
「流出が」
レオン。
「変わった?」
光。
渦。
そして。
北へ。
一気に。
流れた。
「どこへ」
ユリウス。
顔色が変わる。
「地下宮殿!」
「何です」
「奴ら」
「記憶解放同盟?」
「違う」
ユリウス。
走り出す。
「おい!」
レオン。
「ユリウス!」
「あれは解放じゃない!」
振り返る。
「集めてる!」
「誰が」
「分からない!」
「何のために!」
ユリウス。
一瞬。
止まる。
「記憶を」
空。
北へ流れる光。
「一か所へ集めたら」
息を呑む。
「誰か一人に入れることができる」
「一人に?」
私。
「大量の記憶を?」
「理論上は」
「そんなことをしたら」
「普通なら壊れる」
レオン。
「なら何のため」
ユリウス。
低く。
「王家の秘密を全部」
私たちを見る。
「一人の人間に持たせるためかもしれない」
◇
地下宮殿へ。
再び。
走る。
私。
レオン。
ユリウス。
衛兵十名。
今度は。
隠さない。
第三扉。
開く。
「おかしい」
中。
昨日まで。
淡く。
光っていた。
地下宮殿。
暗い。
「魔力が」
術師。
「吸われています」
「どこへ」
「中央区画」
私たちは。
進む。
記憶庫。
棚。
大量の。
空瓶。
「こんなに」
レオン。
「全部割られた?」
「いいえ」
私は。
瓶を取る。
割れていない。
空。
「中身だけ」
「抜かれてる?」
「はい」
中央へ。
光。
強くなる。
そして。
今まで。
閉まっていた。
一枚の扉。
白。
真っ白。
「こんな扉」
レオン。
「昨日はなかった」
「いえ」
私は。
壁を見る。
「ありました」
「どこに」
「壁と同じ色で」
取っ手も。
鍵穴もない。
でも。
中央。
文字。
《第一管理室》
「第一」
私は。
母の。
真鍮の鍵を思い出した。
第三扉。
第一。
第二。
第三。
地下宮殿の。
入口だけでは。
なかった?
「開け方は」
術師が。
調べる。
「王族認証」
「私が」
レオン。
手を置く。
反応。
なし。
「開かない」
「なぜ」
ユリウスも。
手を置く。
なし。
「王族じゃない?」
「違います」
私は。
扉の文字を見る。
その下。
小さい。
古代語。
「読めますか」
レオン。
「少し」
私は。
指で。
なぞる。
《創設者権限》
「創設者」
「リディア?」
「そしてエドガー三世」
レオン。
「でも二人とも」
「死んでいます」
なら。
開かない。
はず。
そのとき。
扉が。
内側から。
開いた。
◇
誰も。
動けなかった。
白い光。
その中。
一人。
男。
黒い衣。
顔。
隠していない。
三十代。
見覚え。
ない。
でも。
胸。
紋章。
切れた鎖。
「記憶解放同盟」
レオン。
剣を抜く。
「動くな」
男。
笑う。
「遅かったですね」
「誰だ」
「名前は重要ではありません」
「何をした」
「返しただけです」
「誰に」
「王国へ」
「嘘をつくな」
ユリウス。
「お前たちはこんなやり方を」
「あなたの知る同盟とは少し違う」
男。
「ユリウス殿下」
ユリウス。
顔が変わる。
「俺を知ってる?」
「もちろん」
「お前」
「我々の中にも」
男。
「穏健派と」
少し。
笑う。
「そうでない者がいる」
「何をするつもりだ」
レオン。
「王国を」
男。
「本来の状態へ戻す」
「記憶をばら撒いて?」
「いいえ」
男が。
背後を見る。
白い部屋。
中央。
一冊。
帳簿。
白。
私は。
息を止めた。
「白い帳簿」
「エレナ?」
「リディア王妃の」
男。
私を見る。
「よくご存じで」
「渡してください」
「これは」
男。
手を置く。
「王家のものではない」
「誰のものです」
「記憶を奪われた」
声が。
低くなる。
「すべての人間のものです」
「なら公開すればいい」
レオン。
「そうします」
「ではなぜ逃げる」
「公開の前に」
男。
白い帳簿を。
持ち上げる。
「王家が百二十年かけて消した」
私を見る。
「最後の事実を」
「最後?」
「ええ」
白い頁。
一枚。
開く。
「リディア王妃が」
男。
「記憶保全制度を作った本当の理由」
「本当の理由は」
私は言う。
「国家機密を持つ人間を守るため」
「それは半分」
「では」
男。
笑みを消す。
「王家が」
言った。
「人の記憶を奪う必要がなくなる日を」
一頁。
「最初から」
また。
一頁。
「彼女は用意していた」
私は。
白い帳簿を見る。
「どういう意味です」
「返還制度です」
「それは知っています」
「違う」
男。
首を振る。
「一人ずつ返す話ではない」
白い頁。
最後。
そこに。
大きな。
魔術式。
「全部」
私は。
息を止めた。
「返せる?」
「一度に」
男。
「王国中の」
記憶。
空。
地下。
瓶。
「献納された記憶を」
そして。
言った。
「すべて、本来の持ち主へ戻せます」
レオンが。
黙る。
ユリウスも。
私も。
「ただし」
男。
白い帳簿を閉じる。
「代償があります」
「何です」
私が尋ねる。
男は。
答える。
「返還を開始すれば」
白い部屋。
光が。
強くなる。
「記憶宮そのものが」
低い振動。
「二度と」
床。
揺れる。
「使えなくなります」
制度。
百二十年。
王国。
その根。
「つまり」
私は。
呟く。
「一度全部返したら」
「そうです」
男。
「もう」
白い帳簿を。
抱える。
「誰からも」
一歩。
「記憶を奪うことはできない」
そして。
地下宮殿全体に。
鐘のような。
音が響いた。
記憶を返すための。
最初の魔術式が。
誰かの手によって。
すでに。
動き始めていた。




