004-20
「額当てを縛る布地の色が燻べ銀だから、アージェン侯の臣下だわ~」
「アージェン、侯? なんか違和感あるよな‥‥まぁ、藩主や大名だったとしても
そうだけどさ」
「そこは異世界だし~、日本ぽくても似つかないもん全然」
「‥‥鬼族ってのは、天子の下に諸侯が何人かいて、それらが各各の国を治めてる
体制なのか?」
「そう言うこと。諸侯は六人で、六つの領国にはそれぞれ色とか紋章とか、チョッ
トだけどスタイルの明確な違いとか、一目で区別できるシンボルがあるの」
「ふ~ん‥‥確かにな。今の距離なら、鎧ってるのが日本の様式とはどこか違うっ
てことがわかるし。古い西洋のとも中国のとも、明らかに違うカンジだ‥‥」
「チョットォ、ワタシの話、しっかり聞いてくれているわけ~?」
「あぁ、だよな。そもそも世界が異なるんだから、当然だった‥‥」
老鬼女隊長が着具う大鎧モドキに、視線を繁繁と注いでしまっている魁は、それ
が弓を射易くつくられた鎧であることを、完全に失念させられていた。
三メートル近くあるオーガの上から放たれる矢は、地面に腹這おうが避けきれな
い。
にもかかわらず魁は、あのレヴェルの威し立ちに求められる手細工ならば、自分
の未熟な腕でも熟せそうな自信が湧きあがってきて、甚だもって場違いな、精神的
余裕までもを転がり込ませていた。
さらに魁の視点は、老鬼女隊長が手綱同然に握る、オーガの顎へ嵌め留めた張綱
へと移る。
ウマあつかいをされているものの、急所も急死所で、死角でもある後ろ首から後
頭部を、大鎧に身を包んだ乗り手が防御する格好になり、言わば御主人様と愛オー
ガの関係性。
そこへ思い及べば、オーガの行き届いた胴丸モドキからも、存外あのオーガは、
老鬼女隊長から鍾愛されているのかもしれないとの推察ができて、話の通じる隊長
であることにも、魁は期待を厚くし始めていた。
が――。
「何だおめぇら、妖変事に乗じて渡って来んなっ。さっさと自分たちの土地へ引き
返さなけりゃ、殺してサカナのエサにすんぞ!」
そう最も接近しているホブゴブリンから、怒鳴り声とともに槍を突きつけられて
しまっては、彼らの境涯まで思い巡らせてなどいられない。
魁は一歩ばかりたじろいで、五匹がどう攻めに出て来ようが、反応しきれるだけ
の間合いをとった。
けれどもすかさず、その魁の一歩の間に、dooが身を滑り込ませての言葉返し
に出る──。
「あなたの目は節穴ねっ、ワタシたちの後ろの景色が見えないわけぇ? ワタシた
ちが元どおりにしてあげたのに、なんて言いぐさなのかしら」




