004-14
「そっか‥‥なら、まだ希望はもてそうだよな‥‥」
「だから、繊巧な器用さや実用的知識に精通していると、重宝がられちゃうわけ。
魁もワタシも、差し当たっては乱暴なあつかいをされないってことよ」
「なるほどな‥‥でも重宝がられすぎて、奴隷あつかいまではされないにしても、
ブラック企業張りにコキ使われそうだけど」
「フゥ。じゃぁさっきの疑問に答えておくけど、鬼の目にも涙とか、鬼の霍乱って
言うでしょ。鬼人にもいろいろいて、人情味があったり、人と同じくらい繊弱やか
だったりもするんじゃないかしらぁ?」
「繊弱やかな、鬼なぁ‥‥」
「鬼が住んでいたって、蛇まで出るかはわからないのに~。臆想で臆してそんな臆
面を晒していると、鬼が笑いコケちゃうの」
「はいはい、言ってろ~‥‥じゃぁまずオレが跳ぶんで、よく見て加速のつけ方と
か踏みきり位置とか、dooは自分のために、より確実に調整してくれ」
「ハイハ~イ。ワタシのこの目を、口ほどにモノ言わせちゃうからぁ」
dooはよく見て取ることを、両目に当てた両手を閉じ開きするジェスチャーで
も伝えてくるが、魁は無論スルー。
「変に高く跳びすぎても、届きさえすればオレが引っ張り込んであげるから、ナメ
ずに全力で跳ぶようになっ」
「ワタシもまずはちゃんと跳んで見せて、やさしい魁がそんな風に、親切を装った
ナメ方をしないようにしなくちゃね~」
今回は一つきりの図星を丸丸指し砕いてくれたdooに、魁は顔ごと視線を前方
へ戻し、両手を軽く上げ開いてのシュラッギングで応えるしかない。
走り幅跳びの要領で渡ろうというその着地点、オオカミ巨岩の鼻先は、今の位置
からでは、こちら側とさほど離れていないように見受けられる。
けれども、間近まで行けば、実際には跳び移れるかどうかビミョ~な距離が開い
ているというのが、魁のこれまでの経験則。
──オオカミ巨岩に近づくにつれ、今回も案の定そんな予覚がしてくる魁は、自
分こそ全力で、確実に跳びおおせるためのイメージトレーニングをと、とり急ぎな
がら大マジメに開始する。
失敗って落ちた場合、ざっと二〇メートルはありそうな下で待ち受けるのは、ヤ
ケに苛高さが目立つ波状岩が凝り敷く波食棚。
まさしく、鬼の洗濯板への、死のダイヴになることは必至。
dooがまた駄弁に託けて、イズドーズ大陸に関する予備知識を語りなし始めて
いたが、鬼と出っ交せたかのごとき鹿爪顔を貼りつけた魁の耳には、一節さえも届
きはしない。




