003-13
「確か十数名しかいなったはずだし、蜷戈なんて刀銘も見たことすらないな‥‥そ
れも、またオレが忘れちまってるだけかもだけどさ」
「ンフ~。じゃぁ魁は、一般的な歴史の書物で、蜷備えの鎧兜が載っているのを見
たことあるわけ?」
「‥‥えっと、どうだろ? それは、どっちか言うことすらできないなぁ」
「赤備えは武田や真田、黒備えは伊達で有名なのに。第一、廃藩置県まで続きおお
せた蜷源家自体が、表舞台にはまず出てこないでしょ。それってなぜだと思ってい
るのかしらぁ?」
人差し指まで差し立ててくるdooに、正面を向くことで顔を逸らす魁だった。
「知るもんかよそんなこと。オレは世界史の方が遠遠しくて好きだし‥‥北条の五
色備えの中には、青があったはずだけどな」
「そう言うことじゃないわ。蜷源の繁栄は裏面史、人ならざるモノのチカラを劫掠
した強さによって、築きあげられたわけだから」
「‥‥って。まぁ、いかにもではあるけどさ‥‥」
「蜷色は、鬼を始めとする異形異類の血の色なの。そして当然だけど、青黒いアイ
テムは、人為を超えた怪力乱神を巻き起こしちゃうぅ」
「それが日本のファンタジー、伝奇やお伽話ってヤツだろが」
「なんかノりが悪いぃ。嫌いじゃないでしょ、歴史ファンタジーな大河物語は遠遠
しくて~」
「って言うか、鈍く輝く青黒い蜷源の刀身は、銅とか不純物が残る鋼しかつくり出
せなかった時代の物で、硬さは充分でも、靭性が低くて折れ易い。ファンタジーも
何もないっての」
「だからぁ?」
「鎬を削り合ったり、鐔迫り合いを頻繁にすると、折れちまうから、心理的な小細
工で鐔の形を蜷源の家紋にして、刀身同士を重ね難くしたんだとも聞いたぞ」
「フゥ~ン、お祖父さんから、そう言うことも学んでいたわけね。なら蜷源が武昌
以降、どこからも攻められたことがないほど、強かった事実も聞いているはずぅ」
「だから、蜷源の強さは、体術をとり入れた高度な剣術にあるんだって。刀はあく
まで、敵を闘えなくしたりトドメを刺すための物であって、力任せに振り回すわ打
っつけるわの勢いで、敵を圧倒しようとする使い方はしないんだ」
「フ~ン。でも蜷源の家伝書の一つ『蜷封境怪事』にはね、鬼を始めとしたバケモ
ノ、鬼魅たちがあれこれ登場して、血や体の一部、爪とか牙とか鱗とかを、武具づ
くりに使うために、抑奪したことが綴られているの~」
「それこそ、蜷源に手を出させないために広めた、浮説の元ネタかもだろが」




