003-12
「フッフ~ン。とにかくその生大刀で、一先ずは安心しちゃってよぉ」
「‥‥言われてできたら、気休めなんか要らないってのっ」
魁は自分の言葉で思い出し、手にしている明王斬りへ目を落とす。
「フツウの刀じゃないから変わっているんだし、まさに蜷源家が秘蔵してきた伝家
の宝刀なんだからぁ」
「‥‥宝刀も秘蔵の? これがねぇ‥‥」
「魁のために借り受けるまで、手間ヒマもかかっていることを忘れないでよねっ」
恩着せがましくも、恬淡と言い添えて笑み傾くdooに、魁はモヤつかずにはい
られない。
「どう言うことだよ。生大刀って、生命力がある刀って意味だったはずだろ?」
「ムフ。やっぱり刀のことも詳しかったのね~」
「‥‥じゃぁこれって、妖刀や怪刀の類なのか? それで全てが蜷源のシンボルカ
ラー、蜷色をしてるってわけ?」
「まぁ、そう言うことなの」
「別に詳しかない。平治の乱で都から下らざるを得なくなった、清和源氏の一支流
だった蜷源の始祖一族が、鬼を討伐して、牛耳ってた土地を、そのまま所領にした
際の伝奇ホラーを、ガッコの怪談みたいに、誰からともなく聞いたくらいだ」
「それって、どんなホラーなの?」
「‥‥蜷源の始祖一族ってのは、鬼を鬼ともしない冷徹で厳烈な強さときてて、逃
げ惑い息絶えた鬼どもの血が、一帯を青黒く染め尽くしたってオチだからな」
「青黒く、ね‥‥」
「あぁ。全国に蜷川は数あれど、自然の豊かさじゃなく、鬼の怨念で青黒いのは、
蜷源の領地を流れる蜷川のみだとさ」
「そのローカルナレッジがあるなら、さらなる説明もし甲斐ありそ~」
「何だよそれ? ‥‥聞いてもいいけどさ」
「まず由来と言うか家譜と言うか~、鬼の血が蜷色に染めて、妖魔怪獣も寄せつけ
ない土地を治める源氏支族、それで蜷源を名乗るようになったわけ」
「‥‥フーン、まぁそれはな」
「つまりその色は、鬼をも滅ぼす武力の象徴なの」
「‥‥青黒い源氏パワーってか‥‥」
「蜷源の兵衆のために、青黒い蜷備えをつくった魁の家と同じで、その刀銘に入る
蜷戈も、蜷色の打ち物を拵える刀工の家柄と言うことね」
「へ~、そいつは祖父ちゃんから聞いてなかったな‥‥」
魁は明王斬りへ、あらためて目をやった。
「魁に持たせるなら、やっぱり蜷戈でも、最上大業物を超えちゃうそれしかないで
しょ~」
「‥‥よく知らんけど、最上大業物ってのは刀工自体の評価だ。職人技の最高ラン
クで、優れた出来の刀を意味する言葉じゃない。そう認められた刀工が打てば、全
部が最上大業物なんだ」
「ウンウン、それで~?」




