003-08
手前寄りの位置で作業をする人影に、雉毛のネコとボーダーコリー以外には該当
しない顔があり、この世界には獣人もいるという事実に、魁は再び軽く身震いをさ
せられた。
本音は、まのあたりにしたネコ人間とイヌ人間の実在を、湧き立つままに騒ぎた
てたい魁なのだが、それはさすがに臆病丸出し。
異世界ならば当然と、ここはグッと堪えてスルーを決め込み、何の動揺もなかっ
たように、dooとの会話を続ける選択もする。
「‥‥dooこそ、利いた風な屁理屈をまたしてまでも~。この先、怪風や魔風が
吹き荒むかもしれないってのに」
「そうだとしても、風は風でしょ」
「ったく。大体、実際に風が吹いて桶屋が儲かる確率を計算すると、ほとんどない
んだぞ。この辺りがどれだけ風が多くて、土が汚くて、眼科の医療が遅れてるのか
しらんけど、どう見ても、三味線がある風情じゃないし」
魁は、工房の窓を今一度見返す――。
「まぁっ、なんて屁理屈返しなの? と言うより、風と桶屋が儲かっちゃう間にあ
る因果関係の事象とか、どうでもいいことを、どうしてしつこく忘れずにいるのか
が疑問だわ~」
「いいだろどうでも。屁理屈はともかく、話まで逸らすなっての」
「ハイハイ。とりあえず、この町に三味線はないでしょうね~」
「それ以前に、人猫族から皮を剥ぐわけにいかないよなぁ‥‥人鼠族もいるわけや
っぱ?」
「ネズミもネズミで、獣人たちの種族にはないみたい~。それに魔術や魔法がある
から、医療だってどうでもいいんじゃないかしら?」
「フーン‥‥dooも、口から生まれたような言葉返しだけは、相も変わらず健在
っぽいよな。まぁ言ってりゃいいさ」
「生まれたのは、超次世代型自己進化アーキテクチャからで、話せる口の獲得は、
随分とあとになるんだけど~」
「はぁ? ったく、わけわかんねっての。はぐらかすにしても早すぎだし、酷すぎ
だろが」
「フ~ン。まぁいいの、その辺を忘れているのなら。とにかく、この世界にはもう
ワタシがこうして傍にいるでしょ。約束どおり、魁のことを全身全力で守るんだか
ら、心配要らないの」
「‥‥それが何より心配なんだよなぁ。ま、この趣きにアサルトライフルなんてム
チャは言わないけどさ、鋼の剣くらいは装備しとかないとだろ」
「そんな装備こそ、心配でしかないんだけど~」
「このままじゃ完全にオレたち、町を少し離れた所で、奴隷狩りとかに襲われるだ
けのザコキャラだって」
「そんな奴ら、ワタシにとってもザコでしかないわっ」




