003-07
そんな魁なので、何度思い浮かべたかしれやしない──鼻血塗れな自分が独り佇
む足元に、不逞のヤカラどもが転がる殺伐としたイメージ──それが、またチラと
脳裏で喚想されて、ゾッとしてしまう魁でもあった。
そんな足どり重い魁と並び歩くために、dooはピョンと一戻り。
「なぁに~、冷静でも用心深さでもなく、臆病風に吹かれていただけなのぉ?」
「フン。強がりより、臆病の方がアドヴァンテージがあるんだよっ。て言うかdo
o、まさか専門分野だったことまで、どうでもいいと忘れちまってるのか?」
「‥‥そうかも~? けど別に、魁を臆病だと言ったわけじゃないわよ。魁が臆病
を、方便にしていることはわかるもん」
「‥‥そ。ま、ならいいって」
「本当の臆病者は、ビビる理由を分析しきれなくて、行動へ踏み出せない人のこと
を言うの」
「‥‥あぁ、だな」
「成功者の多くが臆病タイプと言われるのも、何かと入念で慎重なだけで、分析結
果を踏まえて行動するから、成功もできるんだし」
「忘れちゃいないみたいだけどさ、臆病効果ってのもあったろ?」
「ビビっていたら、簡単なことでも変に失敗しちゃうぅ、ってヤツね」
「それ。分析しようにも、まだここの情報が、全然足りないって言ってんだよ」
「けど、魁は屁理屈をこねながらも、実際にこうして踏み出しているぅ」
「‥‥これはdooにとっては大したことない一歩でも、オレ的には、かなり大き
な一歩なんだってことを忘れんなっての」
「キャハハッ、ウケるんだけど~。グッド・クラック(愉快なヤツ)になってくれ
ていて嬉しぃ。ワタシが手塩にかけて、腕自慢の勇者にしてあげなくちゃだわっ」
「‥‥しらんけど。それは遠慮しとく」
「でもまぁ、臆病風でも向こう風でも、吹いているなら、ワタシたちも儲けて成功
できるんじゃない? 桶屋が儲かるくらいなんだから」
「屁理屈をこね返しまわすなっての」
「ちなみに、この町には桶屋はなくて、樽屋とウッドワーカーが、桶の類の全般を
つくって、直売しているみたい」
「ウッド? ‥‥木工職人ってことかよ」
「ちょうどホラ、そこがウッドワーカーの工房の一つねっ──」
dooが指し示したのは、道路をはさんだ向こう側で一番奥まった二階建てと、
ほぼ同じ高さの木造倉庫を思わせる店拵え。
間口に対して一際大きな両開きのガラス戸は、酒類を醸造する大樽や大桶を搬出
ため、であろうことも推察に容易い。
さらには、ガラス戸の両側に並ぶ窓も大きく、嵌る格子の間隔も広いことから、
工房内が見通せる。




