003-01
眩暈を覚え、右手の指先で閉じた瞼の上から押さえていたのは、長くても二、三
分のことだったはず──。
だのに、眼球のヒクつきが収まったと判断して、目を開けた魁の前には業務用エ
レヴェーターの大きやかな扉ではなしに、町の風景が広がっていた。
「‥‥どして? 何だここ‥‥」
そう驚愕を絞り洩らした途端、町の喧騒までが耳に飛び込んできて、魁を一層混
乱させる。
石畳の道路を通り過ぎて行く荷馬車。
一歩進むたびにこすれ鳴る、ミディアムアーマーを身に着けた者たち。
よく響くことだけが際やかな、何かを売る客寄せの口上に、見る見る全力疾走で
逃げ去って行く男へ向けた女性のガナリ立て‥‥。
魁自身がキョトつきまくって、目移りも激しくしているのだが、恰も複数の間違
い探し動画が、一つのスクリーンで同時上映されているに等しいこんぐらかり情況
へと、無抵抗なまでに引きずり込まれだしている魁だった。
表口を並べ連ねる建物からも明らかに、ここがもう魁の生活圏ではないことを突
きつけられる。
それどころか時代すら違うとしか思えない魁は、別段詳しくもないために、いつ
か地上波のTV番組で観たであろう、中世から残るヨーロッパの街並みや、そうし
た世界観を売りにするテーマパークが、もったりと想起されてくる。
──が、ようやくどうにか現実的思考をしようと、ジタバタの悪戦苦闘に陥って
いく魁の意識は、向かいの角から沿道へと折れ現れた容貌魁偉に、いともサックリ
裂き散らされてしまう。
身の丈は二メートルを軽く超えていそうで、筋骨も隆隆な体躯に、傷みが激しい
胴丸タイプの鎧を身に着けているその男──頭にヤマアラシを被ったような、ハリ
ハリの長髪を、無造作に分けて露わにする額には、二本の鋭いツノが突き出してい
た。
「鬼じゃなくオーガよ~、あれは」
余力で少しヨロけるほどの勢いで、魁は全身を半回転させふり返る──。
魁に声をかけたのは、魁が佇んでいた後ろの建物から出て来たdoo。
その建物は、道路に面してこぢんまりとした店構えが並ぶ中の一軒であったが、
間口全開で商品を見せる店舗ではなく、密やかな事務所めいた雰囲気。
また窓やガラス戸越しには、内部がほとんど窺えず、何の業種かなどは全くわか
らない。
「‥‥dooなのか? さっきの超──リアルそっくりさんじゃなく?」
そうは言ったものの、魁も先ほど接した超美女子、偽リアルdooとの違いは、
印象からまで、瞬時に感取をし終えていた。
画面上でしかあり得なかった、アホ毛がしっかりと立ち揺れている上に、服装は
まるでコスプレ‥‥。




