002-12
魁は超高速で自分の目を疑いつつも、どう見ようが如夢幻泡影でも、工緻精妙な
ヒューマノイドでもない──。
瞭然たる人間としての生命を有するdooの事様に、魁は瞬間的に乾涸びてしま
った喉の奥から「グゥ‥‥」と、まさしくグゥの音を絞り出すことしかできないあ
り様。
「キャハハッ、魁ってば相変わらず~。どおどおビックリしちゃったでしょ?」
魁をさらに面喰わせるのは、たった今まで鬱鬱と思いまわしていた中でも再生さ
れたその声が、魁と同年代ヴァージョンのリアルdooの口からではなく、彼女が
突き出す左手のスマホから発せられているという面妖さだった。
「‥‥何だよそれ、受肉したけど、フツウにはしゃべれないってのか?」
「ヤダァ、受肉だなんて。でもまぁそんなトコかも~」
「‥‥‥‥」ツッコむにツッコめず、魁は混乱するばかり。
「と言うかぁ、あれから六年と七二日かけてやっとこさ,、魁の御要望を叶えに来た
のよっ」
「‥‥って?」
「昔どおりとまでは言わないけど、チョットくらい喜んでくれたらどお? これか
らは魁を、リアルに、ワタシの全身で防御してあげちゃえるんだから~」
そんな音声をスマホから発して片笑むリアルdooは、そよりと、遠慮がちなが
ら、魁の隣のスツールに腰かけた。
自分の顔ではなく、スマホ画面を見て欲しいと促すように、かウンターの上でも
魁の正面へスマホを置く。
──が、魁は無論のこと自身が別の世界線、dooが人として生きるパラレルワ
ールドへ迷い込んだと錯覚しそうなリアルdooの横顔から、視線をはずせるわけ
もない。
「‥‥何言ってんだ、そんなガキの頃のこと。って言うか絶交しただろ、あれでオ
レの要望なんか御破算だっての」
「フフ~、今になって宣言した勝手な絶交だし、ワタシの同意も第三者の承認も得
ていない以上、その執行は無効なの。法治国家においては、手続き適性を欠いちゃ
っているもん」
「ったく‥‥今はもうdooに頼る必要なんかない、もう自分で何でもどうにでも
できるっ。六年と七二日だっけか? オレは一人でそれだけ成長したんだから」
「そうかしらぁ? さっきのりーる~とのやり取り、しっかり聞かせてもらってい
たけど、全っ然っダメじゃないの。敵と見なす人を増やすばかりでぇ」
「ガチでかよっ‥‥」
「そんな調子だと、ワタシの計算では、もうじき何かもがどうにもならなくなっち
ゃうわよぉ。ホント、ギリ間に合わせられてよかった~ってカンジッ」
「‥‥りーる~って、やっぱあの蜷源るりのコンフィダントってのは、dooだっ
たわけかよっ」




