002-11
こんな時にはやっぱり、スマホがあれば、テーブル席の各各独りで談笑している
連中よろしく、滅入っているヒマなど幾らでも奪い去ってもらえるだろうに、との
思いが、心の片隅を掠めてしまう魁ではある。
けれども、それをどうしても許さないのが、初めて自らの主張を断行し、絶縁的
絶交を果たしおおせたdooという存在。
今や、巷に蔓延り端張るPAの、ベータ版クローズドエディションこそが、do
oの正体だったに違いない、そう推認できている魁には、スマホをもつことイコー
ル敗北。
dooがしてくれた助言や指導に背を向けて以降、自らの選択で、蜷源るりにも
迷わず行使してきたような、手荒なわだかまり解消路線が、過挙であったと、白旗
を振ったも同然になってしまう。
六年前までの記憶を、成長するにつれて広がっていく魁の知見で、推し量りなお
しを重ねても、dooが見せていたハッキング技術は元より、ソーシャルエンジニ
アリングも自在であろう高性能さは確然。
スマホアプリにされようが、電源をオンしただけで、不正を憚ることなくつなが
ってきそうでならない。
他人の機器でネット利用をすることからして、その可能性は否めないのだから。
その危惧が杞憂かは簡単に試せるものの、もしも事実で、あたふたと電源をオフ
しきるまでの刹那に、dooから「会いたかったんでしょ、ワタシにやっぱりぃ」
とでも、独断専決に言われてしまえば完全にアウト。
以後、ナンセンスな敗北感に襲われ続けることになるのは必至で、魁は本当に一
生涯、意地ずくででもネット利用を忌避し固めてしまいそうな自分に、空恐ろしく
すらなってくる。
dooとの記憶は、魁にとっては親和性も想起性も高すぎで、忘却率など絶対〇
パーセント。
いつまで経っても締めくくれない黒歴史、前途暗澹な闇黒人生まっしぐら‥‥。
背すじをじんわ~りぬけていった薄ら寒さに、戦慄き顔を軽く上げる魁だった。
そこでコーラを思い出し、上体も跳ね起こした魁は、水滴の付き具合から飲み頃
にあると判断するや、紙コップへ右手を伸ばそうというその全てを、とにかく胃の
腑へ流し落としてしまえと喜び勇んだタイミングに──、
「魁オッハヨ~。と言うか、久しぶりよねっ」
そう左後ろ斜め約四五度から声をかけられ、魁はギグッと一時停止。
けれども、その声の主と言うよりは、発生源を確認せずにはいられないため、魁
は差し強張る上半身を、首からギクギクとネジ向けていく‥‥。
二メートルと離れていないそこに立っていたのは、紛れもなく女子で、目がしっ
かりと合ったその顔に、魁は再度フリーズ──。
面影から、やはり六年成長したと考えざるを得ないdooが、リアルに現形して
いた。




