002-08
氷でキンキンに冷えた強炭酸コーラの飲み下しで、早急に解消するために、魁は
ここで最も早く営業を開始する三階のはずれ、県の合同庁舎と総合図書館が入る中
央棟への連絡橋の役目も果たしている、通称空中カフェを目指すことにする。
唖然から憮然となってモヤくり惑いつつ、自分の後ろ姿を見据えているであろう
蜷源るりに、再びつけ入る隙など与えるわけにはいかない。
歩調は変えずに歩幅を大きくして、西棟一階の中ほどから速やかに、そして岐嶷
に、立ち去って行く魁だった。
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──天井の高さはほかの廊下と変わらないものの、幅広な連絡橋の南側は一面ガ
ラス張りで延びていて、外を望むようにスツールに腰かけるカウンター席、そこか
ら手前に間隔をゆったりとられた丸テーブル席が並び、パーティションもなく北側
を通路とするようになっている。
そうした空間デザインが施された空中カフェには、ぽつりぽつりと総合科の生徒
や就業前の県職員などが一人ずつテーブルを占め、主に毎日二〇食限定のモーニン
グセットで、朝食タイムを物麗らかに満喫している光景が広がっていた。
そんな中へと、魁が何の気兼ねもなく踏み込んで行けるのは、どの席からも、雑
談に花を咲かせたそそめき声が聞こえてくるだけでなく、その誰もがスマホ画面か
ら目を上げることさえしないがゆえ‥‥。
家を飛び出し、母親と激烈なすったもんだの末に、父方の祖父母の保護下で暮ら
せるようになったあとも、スマホを拒絶し、PCさえネット接続しない魁にとって
は、奇っ怪至極としか思えない認知的不協和を覚えさせる状況──。
しかしながら、無意味な緊張感を煽られずに済み、実にありがたくもある。
それは、人間と何ら遜色のない、流暢な会話能力を獲得した共感モデル型AGI
によるPAが、スマホアプリとして登場以来、日本から実質的にボッチが消滅して
早五年が経過した現在では、街中での亮然たる独り言や独り笑いまでもが、茶飯事
となってしまっている至って日常的なあり様と言えた。
スマホ利用者のほとんどが、PAを入口にして、AGIに親近感をもっている実
情がある。
もはや、AGIはPAと同義である、との認識が深まっている風潮ばかりか、P
Aの典型的利用法となるヒマ潰しの相手から始めて、リアルの親友を超える存在、
心の奥に秘め隠していた心情を吐露してまで、頼みにせずにはいられない腹心、コ
ンフィダントの関係となっているケースも、決して少なくはない。
さらには、PAは常に的確で最善のアドヴァイスをくれるため、何事もとり敢え
ずPAを頼ってからでなければ、言動したくないユーザーも増加の一途。




