002-06
魁が、愁えがかった眉をさらに開きつつあるにもかかわらず、対して、端から警
戒心ゼロの虚心平気で直向かっていた蜷源るりは、その朗色が増す魁の表情に却っ
て訝りだしてしまう。
「‥‥フーン、そうなんだ? 今なんかピンときたぁ」
「ピン? 何がです?」
「キミ、モテるからって、私の話を全然信じてないでしょう?」
「はぁ?」今度は魁が、怪訝顔へと一気に戻す。
「ほかの女子たちと違う、ミステリアスぽいこと口走って気を惹こうとか、実はフ
ツウの人間の友達を、インパクトつけて紹介するために、凝った演出しようとして
るとでも思ってるんじゃないのっ?」
この蜷源るりの言いぐさで、魁の警戒レヴェルも情報収集強化のデフコン4相当
から、間の二段階をすっ飛ばし、規定する米国防総省ですら未だ経験がないデフコ
ン1へと弾け上がった。
「ったく‥‥それを主観強すぎの勝手な思い込みって言うんだろっ。大名家の末裔
が聞いて呆れら、あんたを一応まともと思って相手をしようとしてたオレがトンマ
だった、ホントつくづくいい面の皮だっ――」魁はずんど立ち上がる。
「エッ!? って‥‥」
「もう金輪際オレに近づいて来んなっ、今度また余計なことし腐ったら女子だろう
が先輩だろうが容赦なく、その自分本位な歪み性根をブチ折ってやるからな!」
そう吐き出すだけでなく、枕にしていたタオルと机のフックから通学バッグを引
っ掴んだ魁は、机を前の壁へ向けて、音だけは派手に鳴り響くように蹴り上げる。
そして魁に代弁をムリ強いされた机が、ガンガランッと怒号を轟かせて転げ始め
た時には既に、魁は回れ右をして後ろの扉へと歩きだしていた。
もう居眠りができる気分ではない。それこそ、どこかの休憩コーナーの自販機で
コーヒーでも買って、飲みながら総合科連中の朝練風景でも眺めて、時間を潰すし
かない。
そんな魁の足どりは、重さが歩幅をふり広げ、机がたてた残響が教室内に粛静を
広げきる前に、廊下へと脱去させる。
廊下へ出てしまえば、死角がないように設置された防犯カメラが録画までしてく
れているので一安心。
あとは常体でふるまっておきさえすれば、これから蜷源るりが、どう責めつけて
来たところで、自分が非を咎められることはない。
「チョット! いきなり何てことするわけっ? 待ちなさいよ蜷威クン! 話はま
だ終わってないんだからっ」
案の定、持前の気の強さムキ出しで喰い下がってきた蜷源るりに、魁はふり向き
も歩調を変えることもしない。
進行方向の天井にある防犯カメラが、バッチリと自分を捉えてくれるよう、幾分
ばかりの進路修正をジワワ~として行くだけ──。




