005-17
ロンイェールビの海岸から望み見た、不吉なまでの暗雲に覆われるのも、時間の
問題と思えてきて、それがまた無性に魁を焦らせる。
いっそのこと、今度はこの町を高高ととり囲むクレーターウォールの一部を、斬
り消してやろうかと血迷い始め、腰から明王斬りも抜いていた魁だった。
だが、斜面の向こう側に何があるのかわからない上、わかっている西南側には、
倒してきた老鬼女隊長たちがいるため、斬ってしまうわけにもいかない。
思い惑って天を仰いだ魁は、この逆上せあがりと、そうさせたきっかけの両方を
解消する策をひらめくと、それについてはもう、迷うことすらもできずに敢行。
空を曇らかしている薄雲そのものを、斬り掃ってしまえばいい。魁は、早く自分
の心をも晴らそうと、真上に向け明王斬りを全力で振り延う――。
が、頭上の空は、晴れあがって明るい青さをとり戻すどころか、闇黒の夜空へと
一変した。
しかし、実際に夜になったわけでも、町の上空にだけ宇宙空間が覗けているわけ
でもないことは、星星が全く散り見えていないため、直感的に判断できる。
とにかく、とんでもないことをやらかしてしまったと、先ほどを超える血迷いに
襲いかかられる魁だけれども、それすら寸秒ほどしか許されない。
魁が、空を穿いたことになる歪で真っ黒な大穴から、その穴を塞がんばかりに巨
大な鬼の顔がぬぬ~と現れ出て、真下で見上げる魁を瞋恚に燃える血走った眼でギ
ロリ、石と化さんとするほどに射竦めてくる。
‥‥それは、二本のツノが頭頂からではなく、額から突き出している違いがある
だけで、魁にも節分のキャラクターで馴染みが深い赤鬼だった。
あまりに大きすぎて、今にも圧し潰されそうなくらい間近に感じられてしまう赤
鬼の顔面に、魁は竦み上がることもできず、半ば腰が砕けてへたり込む。
頭部だけで、ざっと数百メートルにもなろうかというスケールになれば、総身な
ど想像もしたくないし、しきれない。
こんなのは、おそらく鬼のまやかし、慢心した悪ノりで、侵入する魔族や海棲怪
獣を威嚇で追っぱらう大仕掛けだと信じたい魁は、老鬼女隊長が誇ろかしていた鬼
道とやらの、それも奥義中の奥義になる一つで、幻覚を見せられている可能性をヒ
ネくり出す。
それで、魁はどうにか思い静まるべく、深呼吸も過呼吸なほどシャリムリに始め
た。
「‥‥もしやぁぁ、南の海に異変を起こしたのも、おまえの仕業かぁぁぁ?」
空から響いてきたのは、耳を劈くほどの大音量の声ではないものの、辺りの空気
だけでなく、地面までもが震えていることが尻から伝わってきて、魁は唇の片端が
戦慄いてしまい、結局開いた口が塞がりきらないほどに動転する。




