005-13
「魔述も妖術も使えない魁が、率先して模範を見せなくちゃぁ。大体が、みんなの
傍にいないと守れないじゃないのよ」
「‥‥オレに、まず海の上を歩いて見せろってか?」
「ムリって言うわけぇ? やっぱり、ワタシのこと信じてくれていないんだぁっ」
dooに一本とられてしまっていたことに気づいて、魁は天を仰ぐ。
20/10ヴィジョンである魁の目の良さで見極められる範囲には、凶暴そうな
サメや得体の知れない巨大な影は見当たらない。
小癪すぎにもdooは、食用になるサカナだけを、この入り江の海中から選び上
げたと考えられてしまう‥‥。
ここでdooに従わず、信じていないことを肯定するような態度までとれば、イ
プラと一応でも友好関係を締結し終えているdooは、イプラに泣き縋っての非難
囂囂攻撃に出るやもしれない。
それをやられると、男たちまでがdooの味方にまわってしまう‥‥。
dooならば、そこでさもイプラが言ったかのごとき巧弁を弄して、男たちを自
分の段取りに沿うよう仕向けるに違いなく、さらに一段と難しい要求を突きつけて
くる可能性が大。
魁は濡らしたくない、それも海水なんかあり得ないバッシュへと視線を落とすこ
とで、頭を抱える代わりにした。
無論、裸足で行くなんてことは絶対にムリ。
渾身のキックを繰り出そうとも、足を痛めないよう、発泡樹脂製のトラウマシー
トでカスタマイズを施した、自分の持ち物でも最高額品になるこのバッシュ。
それに見合うだけの、ピカイチな衝撃吸収性能をも、手放す時期を早めてしまう
真似など断じてしたくない魁は、息を大きく吸い込むと、腹をくくるも億劫そうに
立ち上がる──。
「って言うか、海がもう元どおりになってることは、何より自分たちの目で確かめ
るのが一番だろっ」
「だからぁ? やりたくないって、言いたくないわけ~?」
「グズグズやってるくらいなら、さっさと上まで登って見てくりゃいいんだ。その
分の遅れまでチャラにする手助けだったら、やってやるよオレが、全力でなっ」
魁はもう、dooにも目をくれず、驀然と町の入口に向かって走り
出す──。
「チョット魁っ、何をしちゃう気なの!」
「大陸同士がくっ付いちまう大異変でも絶やせないサカナなのに、捕ってもらう下
請け業者の危険や不安を考えられない鬼どもにゃ、人道の一つでもブチ込んでやる
だけだってのっ」
魁にしては暴虎馮河に入口へ突き入ると、そこは、観音開きだった板塀と同じつ
くりの扉が、内側へ開ききるには充分といった、チョットした広場になっていた。




